五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

やけっぱちのスカイマーク

 先日の新北九州殴り込みに続き、またも西久保慎一社長、ご乱心です。

スカイマーク、福岡〜羽田など全路線2万円以下に

http://kyushu.yomiuri.co.jp/keizai/ke_05082601.htm

 これは九州版の記事なので、一応全国版のも。

スカイマークエアラインズ、全路線2万円以下に値下げ

http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20050826i301.htm

 もう、今にもスカイマーク社員の悲鳴が聞こえてきそうです。いや、悲鳴が出るならまだマシで、そろそろ絶望の溜め息しか出ないかも知れませんね。
 さて、スカイマークが打ち出した2万円以下という普通運賃ですが、果たしてこれが何年前の水準なのか、自宅の書庫にある古い時刻表を探ってみました。すると、私が持っている最も古い時刻表で、何とか東京=福岡の普通運賃が2万円を下回りました。

1974年12月 国内幹線運賃一覧表

  • 東京=大阪
    • 片道:9,800円
    • 往復:17,600円
  • 東京=札幌
    • 片道:18,200円
    • 往復:32,800円
  • 東京=福岡
    • 片道:19,500円
    • 往復:35,000円
  • 東京=沖縄
    • 片道:29,400円
    • 往復:53,000円
  • 大阪=札幌
    • 片道:28,000円
    • 往復:50,400円
  • 大阪=福岡
    • 片道:9,700円
    • 往復:17,400円
  • 大阪=沖縄
    • 片道:23,800円
    • 往復:42,800円
  • 福岡=札幌
    • 片道:37,700円
    • 往復:67,800円
  • 福岡=沖縄
    • 片道:18,200円
    • 往復:32,800円

出典:交通公社の時刻表 1974年12月号

 何と、1989年4月の通行税*1廃止はおろか、1975年3月の新幹線博多開業よりも前にまで遡ってしまいました。因みに、当時の国鉄初乗り運賃は30円、東京都区内から福岡市内まで新幹線と在来線とを乗り継いで行った場合の合計金額は7,910円(=運賃4,510円+特急料金3,400円)ですから、当時の航空運賃が如何に高いものであったかが窺い知れます。そんな時代で漸く成立していた2万円という運賃に、このご時世で挑戦しようというのですから、最早西久保慎一は航空業界のドン・キホーテと言うしかないでしょう。
 まぁ、スカイマークは就航当初から低価格路線を全面に打ち出していますから、JALやANAが真似できないような低運賃を提供する事は可能でしょうし、それが現在ではスカイマークの重要な存在意義にもなっています。しかし、B737-800の導入だの神戸就航だのというイニシャルコストの増大を控えている中、果たしてスカイマークに運賃値下げの余力があるのか、私は疑問でなりません。もし、今後スカイマークがコストカットの財源を保守・整備に求めるような事があれば、スカイマークの行き着く先はバリュージェットと同じ破滅への一本道です。或いは、社員の福利厚生を更にカットするという話であれば、これまた社員の士気低下を招き、JALと同様のトラブル頻発会社に落魄れる事でしょう。
 取り敢えず、スカイマークの相次ぐ大胆戦略に欣喜雀躍する前に、この辺の書籍を読んでおいた方がいいようです。

社員第一、顧客第二主義―サウスウエスト航空の奇跡

社員第一、顧客第二主義―サウスウエスト航空の奇跡

危ない飛行機が今日も飛んでいる〈上〉

危ない飛行機が今日も飛んでいる〈上〉

 米国サウスウェスト航空の成功は、社員の士気を維持向上する事にこそあったという事を、ここでは銘記しておくべきでしょう。

 ところで、2000年2月の航空運賃自由化以来、大手航空会社の普通運賃はジワリジワリと値上がりしています。バーゲンフェアだのバースデー割引だので50%を超える大幅な割引率を設定したツケが、ビジネス客などに多い普通運賃客に回されてしまっているのです。ビジネス需要は、観光需要に比べると突発的に発生する事が多く、予約や変更の制約が大きい各種割引運賃が使いにくい為、多少割高でも普通運賃を使わざるを得ないケースが多々あります。航空会社は、そうしたビジネス客に目を付けて、バーゲンフェアやバースデー割引でライトユーザーに低廉な運賃をアピールする一方、ヘビーユーザーには普通運賃や回数券の値上げという形で負担増を迫り、何とか1人当たり単価を維持している状況です。
 或いは、ハッピーマンデーなどの3連休やゴールデンウィークなどの大型連休、更には盆暮れ正月の帰省ラッシュなど、多くの旅客が航空機を利用する事が見込まれる時期ともなると、航空会社は何処も割引運賃の設定を中止し、殆どの路線で普通運賃以外の運賃が一切使えなくなります。日本の企業社会は、横並び意識が強く、有給休暇の取得・消費に対して否定的な圧力が掛かる事が多い為、観光や帰省などでの航空需要が特定日に集中する傾向が諸外国に比べて非常に色濃く出ています。しかも、帰省ともなると1グループ当たりの人数も多くなる為、家族の中の誰かを取り込む事が出来れば、芋蔓式に帰省客を取り込む事が出来ます。航空会社は、こうした日本社会の事情に特化していますから、突発的な利用が多いビジネス客と同様、連休や盆暮れ正月の観光客・帰省客は、航空会社にとっては重要なカモなのです。
 こうしたバーゲン型運賃でのアピールと普通運賃でのボッタクリとは、決してスカイマークも例外ではありません。ピーク期には、スーパー前割49や前割7などの割引運賃が尽く消え失せ、普通運賃も通常期より3,000円値上がりします。書き入れ時にしっかりと儲ける事によって、初めてスーパー前割49などの格安運賃を設定する事が出来るのです。
 ここで、普通運賃を下げる事によって書き入れ時の収益を圧迫するという事は、バーゲン型運賃の設定余力を喪失する事と表裏一体です。割引運賃の設定は、決して錬金術ではありませんから、必ず何処かでその埋め合わせをする必要が出てきます。となれば、現在閑散期に多く設定されているスーパー前割49や前割7などは、尽く廃止への道を辿る事になるでしょう。また、その煽りを食らって、スカイメイトやシニアメイトなどの空席待ち運賃も、現在の価格に比べれば相当程度値上げされる可能性があります。
 今から30年前の航空運賃には、特定便割引も事前購入割引もなければ、マイレージや特典航空券もありませんでした。何時予約しても何時搭乗しても、同じ航空運賃だったのです。価格に弾力性こそありませんが、その運賃体系は非常に分かり易く、ピーク期になる度に「ボッタクリ運賃だ」と揶揄される事もありませんでした。大手航空会社が多種多様な割引運賃を設定している今日、敢えて運賃体系をシンプルに設定するというのは、新規航空会社の戦略として大いにアリでしょう。
 携帯電話キャリアツーカーは、「ケータイをシンプルに」というキーワードで、独自の地位を確立する事に成功しました。また、新北九州空港への就航を計画しているスターフライヤーは、ビジネス客向けの多頻度運航を行う事により、運賃競争との決別を宣言しています。ここで、スカイマークも運賃設定のシンプリフィケーションに乗り出すという事になれば、ひょっとしたら航空業界全体に一大パラダイムシフトを引き起こすかも知れません。大手航空会社が運賃設定のシンプリフィケーションに追従する可能性はかなり低いですが、東京から札幌や福岡へ通年2万円以下で行けるという事になれば、ハッピーマンデー絡みの国内旅行需要も今よりはかなり拡大するのではないでしょうか。

【2005-08-27 追記】
 この記事のトラックバック先で、「スカイマークが事故を起こしたらエラい事になるのではないか?」という指摘があったので、この点についてもう少し書き足します。

○日 々 是 成 長 in 上 海:価格と信頼の微妙な関係 〜スカイマーク社の値下げより〜

http://blog.livedoor.jp/honnorishanghai/archives/50109080.html

 新規航空会社の事故という事では、1996年のバリュージェット墜落事故が挙げられます。どんな事故だったかは、例によって外山智士さんのサイトを参照していただく事とします。

○事故No,19960511a

http://www004.upp.so-net.ne.jp/civil_aviation/cadb/wadr/accident/19960511a.htm

 バリュージェットは、その名の通り低価格路線で名を馳せていましたが、コストカットのツケを安全投資に回した事により様々なトラブルを起こし、最終的には墜落事故によって会社そのものを潰してしまいました。この辺については、上述したメアリー・スキアヴォ女史の書籍が詳しい所です。
 時代を遡れば、JALは羽田沖墜落事故や日航ジャンボ機墜落事故、ANAは松山沖墜落事故や雫石事故など、それぞれ致命的とも言える墜落事故を起こしていますが、何れも今日ではしっかり立ち直っていますし、ANAに至っては雫石事故そのものを知らない人も増えてきている事でしょう。また、昨今JALのトラブルが広く報道されていますが、これだけ事故報道が続いても、JALの夏休みの輸送実績は前年比でたったの-1.4%です。当事者にとっては大きな数値かも知れませんが、マスゴミや一般旅客にしてみれば、「たったの1.4%だけ?」といった気分にもなるでしょう。
 もし、スカイマークが同種の事故(アクシデント・インシデント含む)を起こした日には、バリュージェットと同様、一発で会社そのものが吹っ飛びます。多くのマスゴミにとって、「ベンチャービジネス」と称される類の企業は、二階に上げて梯子を外す為のネタに過ぎません。スカイマークもその例に漏れず、マスゴミにとっては単なる泡沫航空会社でしかなく、一度トラブルが発生すればJAL以上の苛烈なメディアスクラムスカイマークを一気に潰しに掛かる事でしょう。それでも、JALやANAほどの経営規模があれば、会社崩壊までにある程度の時間的な猶予はあります。しかし、1日に精々40便内外しか飛ばしていないスカイマークであれば、事故報道による風評被害*2と会社崩壊とのタイムラグは殆どないでしょう。全路線に波及しなくても、ドル箱である福岡線の旅客さえ激減してしまえば、スカイマークが破綻するのは一発です。
 そして、スカイマークの失敗は、長らく大手航空会社による寡占が続いてきた日本においては、新規航空会社そのものの失敗を意味します。スカイマークは、良くも悪くも日本の新規航空会社を代表する存在である為、そのスカイマークが失敗してしまうと、今度こそ正しく風評被害によって新規航空会社からも客離れが始まり、結局は10年前の大手寡占状態に逆戻りです。果たして、スカイマークにそれだけの自負と自覚とがあるのか、私は甚だ疑問でなりませんが、日本の航空業界に空いた風穴を塞いでしまわない為にも、スカイマークには是非踏み留まって欲しいものです。

*1:その昔、航空運賃や国鉄のグリーン料金には、10%の通行税が課されていました。航空機やグリーン車を利用する事自体がステータスだった時代の遺物で、いわば一種の贅沢税でした。この通行税の廃止と引き替えに導入されたのが、現在の消費税です。

*2:とは言っても、この場合スカイマーク自身が事の発端なのですから、風評被害も何も自業自得なんですけどね。