五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

社長の発言に見るいすみ鉄道の不要性

 さて、使ってナンボという話は、ローカル鉄道においても同じ話です。鉄道事業というのは、利用者がいて初めて成立するものであり、利用者が消え失せて「いらない子」になってしまえば、自然淘汰される事になるのです。そして、最近また1つ、ローカル鉄道が淘汰される事になりました。

○【長電屋代線廃止へ】活性化協でバス代替運転を採決

http://bit.ly/g6ecUA(bit.lyにてURL圧縮済み)

長野市ホームページ - 課・支所別メニュー - 第12回長野電鉄活性化協議会

http://bit.ly/hqBgFx(bit.lyにてURL圧縮済み)

 まぁ、地元の民意が廃止を選択したのですから、これについて部外者が文句を言う筋合いはありません。私自身、「不急不要のルーラル線は全廃しろ」というスタンスですから、今回の決議にはある種の潔さを感じます。
 しかし、本件に関してのいすみ鉄道社長の発言は、こうした潔さとは遠く懸け離れたものでした。鳥塚亮社長は、長野まで行ってこんな話をしてきたのです。

いすみ鉄道 社長ブログ | 長野電鉄屋代線活性化協議会

http://isumi.rail.shop-pro.jp/?eid=608176

 ここにある一連の発言は、観光鉄道や保存鉄道の類にだけ許されるものであり、罷り間違っても地元自治体の出資によって成立している第三セクター鉄道会社のスタンスとして許されるものではありません。「不便なままで良い」「利用されていない方が良い」などという精神なのであれば、いすみ鉄道は速やかに地元自治体から受けている出資金や補助金の全額を返納すべきでしょう。



 ルーラル線を観光鉄道として存続させる事についての是非は、5年以上前にブロハラでも書きました。私自身、ルーラル線」をググって初めて記事の存在を思い出すという為体でしたが、基本的に当時とは大きくスタンスは変わっていません。唯一変わった事はと言えば、単に地方税を納付するだけでなく、実際に地方税を課税する側に回ったという事くらいのものです。
 高千穂鉄道にしても長野電鉄屋代線にしても、最終的には「地元で支えるだけの価値がない」という結論に至り、廃止が決定しました。これらの鉄道といすみ鉄道とが最も大きく異なるのは、いすみ鉄道ブラック企業化している事です。いすみ鉄道ブラック企業ぶりとその背景については、以下のエントリーが参考になります。

いすみ鉄道と訓練費700万円嘱託乗務員候補生と千葉動労いすみ支部の複雑な間柄 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月

http://d.hatena.ne.jp/katamachi/20110207/p1

 要するに、現在いすみ鉄道がやっている事というのは、補助金を出し渋る行政に見切りを付け、ゼニの集り先を沿線住民や従業員に振り替えただけの事です。鳥塚亮社長は航空業界出身との事で、当然ながらスタフラ名物補助金商法を業界関係者としてリアルタイムに見てきた事でしょうが、社会保障費の爆発的な増大によって、国も地方も「無い袖は振れない」状態に陥ってきています。「闇の北九州方式」でお馴染みの北九州市に本社があるならまだしも、同じ事を房総半島の山奥で補助金商法をやるのは無理というものです。



 ルーラル線の多くが保存鉄道として残っている国といえば、やはりイギリスです。英語版Wikipediaで記事が掲載されている保存鉄道だけでも、その数は100を優に超えます。

○List of British heritage and private railways - Wikipedia, the free encyclopedia

http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_British_heritage_and_private_railways

 イギリスで保存鉄道という形態が定着している最大の理由は、イギリスの貴族社会において「ノーブレス・オブリージュ」が浸透している事でしょう。医師や弁護士といった社会的地位の高い人々が、週末ともなれば保存鉄道においてボランティア活動に従事しているというのは、別にCSRだの売名だのといった事ではなく、「当たり前の事として」こうした活動に従事しているのです。
 そして、それと同時に重要なポイントは、イギリスにおいて産業遺産を楽しむという文化が定着しているという事です。イギリスは、産業革命発祥の地であると同時に産業考古学発祥の地でもあり、産業遺産としての鉄道を「再発見」する事は、一般的な趣味として普及しています。言うなれば、一億総タモリ*1といった感じなのです。
 一方、「ノーブレス・オブリージュ」などという概念が存在しなかった日本においては、社会的地位の高い人がボランティア活動に従事する事は希です。たまにボランティア活動しているかと思えば、単なる売名行為または何等かのキャンペーンだったりするのが関の山です。そして、産業遺産に対する企業の意識も希薄で、特に鉄道会社においては「過去の車輌を産業遺産として保存しよう」という考え方はほぼ皆無です。その最たる例が、渋谷駅ハチ公口で無惨な姿を晒している東急旧5000系です。
 ブリティッシュ・エアウェイズ出身の鳥塚亮社長は、本国イギリスの保存鉄道にいすみ鉄道の将来を重ねたのかも知れません。しかし、保存鉄道としていすみ鉄道を存続させようという考え方は、「日本には保存鉄道という文化が存在しない」「保存鉄道は公営・半公営ではなく純民間で成立させるべき事業である」という2点において、根本的に誤っています。一方で、観光鉄道としていすみ鉄道を存続させようにも、周囲にろくな観光資源がない状態では、とてもリピーターの確保など覚束無いでしょう。それに、「途中下車したら1時間列車はありませんよ。だからあなたなりの1時間を過ごしてみてください。」「1時間自由時間ができたと思って過ごしてください。」などと謳っておきながら、ホームページに観光情報の1つも掲載されていないという為体ですから、いすみ鉄道が観光客からの収入を得ようとしているのか、甚だ疑問でなりません。
 結局、地元自治体や鉄道ファンから搾取するだけ搾取して何等地元経済を潤さないいすみ鉄道は、今やその存在自体が百害あって一利なしといった状態です。これ以上他の第三セクター鉄道のイメージを害さない為にも、千葉県や大多喜町においては1日も早いいすみ鉄道の廃止を決断して欲しいものです。その時、鳥塚亮社長が「乗らなくても残したい!」などと言い出したら、その時は是非「じゃあ、残したい人達だけでお金を工面して下さい」と言い切って欲しいものです。

*1:実際には、イギリスの人口は1億人どころか6000万人強くらいしかいないのですが。