五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

スカイマークがレッドオーシャンにA330を投入

 さて、JALのフリートがダウンサイジングされていく中で、スカイマークは一度ダウンサイジングしたフリーとを再拡大するようです。既にA380の導入が発表されてから久しいですが、今度はA330まで導入するんだそうです。

スカイマーク:A330をドル箱路線投入、座席数増−上級クラス復活(2)

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-LZ87L70D9L3501.html

 A330導入の第一報を聞いた時、私はてっきり成田発着の中距離国際線でもやるのかと思いました。しかし、この記事を読む限り、西久保愼一社長はあくまでも羽田空港というレッドオーシャンに拘り続けているようです。

 スカイマークの西久保愼一社長は、ブルームバーグ・ニュースとのインタビューでスカイマークの主戦場はあくまで羽田だ」と強調した。同社長は「成田空港や関西空港は、ある意味片手間の喧嘩で、羽田の幹線で全日空日航に対し強い競争力を持つこと、それが結果的に成田や関空での競争をも解決することにつながる」と述べた。

 片手間の喧嘩にA380を導入するとはなかなか景気のいい話ですが、逆に考えれば現状のスカイマーク成田線は思ったほどの成果を上げていないという事なのでしょう。その事は、今月初めの日経ビジネスでも指摘されています。

○「搭乗率70%」を巡るLCCと大手エアラインの“神学論争”

http://business.nikkeibp.co.jp/article/NBD/20120131/226715/

 私は以前スカイマークA380導入や成田就航によって「羽田から追放されるかも知れない未来」を見据えていると書きました。そして、羽田空港における旅客施設使用料の代理徴収拒否は、現時点においても続いています。既に、日本空港ビルデングとの争いは舞台を法廷に移しており、お互い引くに引けない状態です。
 そんな中で、敢えて国内線にワイドボディ機を再投入し、社長自ら「主戦場はあくまで羽田だ」と言い切るに至ったのは、成田空港と心中する目論見が外れたからに他なりません。少なくとも、現時点においては「収益路線」になっているとは言いがたく、このままではA380との相乗効果も期待できません。現状維持でA380が就役したとしても、スターアライアンス加盟前のANA国際線のミニチュア版になるのが関の山です。
 ほぼ同サイズでJALANAでの就航実績があるB777-200ではなく、敢えてA330-300を導入する事にしたのは、発注からの納期が読みやすいのもさる事ながら、恐らく価格面で相当程度に有利な条件をエアバスから引き出せたのでしょう。エアバスにしても、スカイマークA380に続いてA330も導入してくれるとなれば、従来ワイドボディ機の空白地帯だった日本市場に大きく切り込める形になります。スカイマークが羽田回帰を真剣に考えなければならなくなった時期が、ちょうどエアバスの売り時と重なり、今回の導入にいたったのでしょう。
 では、今回のA330導入がうまくいくのかとなると、私は成田発着の国内線よりはうまくいくのではないかと思っています。というのも、羽田発着の幹線であれば航空会社に関係なくそこそこの需要が見込めますし、1日に1便や2便というのではなく既にB737-800で何便も飛んでいる所への導入ですから、地盤作りの手間も大幅に省けます。成田発着国内線の場合、空港やターミナル自体が不便な所にあるだけでなく、抑も「成田空港に国際線も発着している」という事を知らない首都圏在住者が非常に多い事を考えれば、スカイマークがちょっとやそっと増便した所でたかが知れているというものです。
 また、機内のコンフィグも絶妙で、331席中89席までをプレミアム・エコノミーにする辺り、競争相手のJALANAをきちんと見ている所が分かります。このプレミアム・エコノミーが如何なるものであるかについてはまだ具体的な発表はありませんが、恐らくシートのみ若干広くなるだけで、JAL国内線ファーストクラスやANAプレミアムクラスのような過剰サービスは殆どないでしょう。しかし、幹線を利用するビジネス客の少なからざる人数が移動時間を睡眠時間に充てている事を考えれば、上級シートにおいて必ずしも過剰なサービスを提供する必要はないのです。寧ろ、スカイマーク自身が「過剰なサービスを省き、エコノミークラスよりも広くて快適な居住空間を提供する」という意志を持っているのであれば、いよいよスカイマークが真にLCCへの道を歩む時が来たというべきでしょう。
 しかし、逆に考えれば「従来の安かろう悪かろうでは通用しなくなってきた」という事をスカイマーク自身が自覚したとも言えます。6年前の「第二の創業」において、スカイマークは低価格路線へと大きく舵を切りました。その後、着々と便数こそ増やしてきたものの、品質面ではJALANAに及ばず、イメージ面では更に後れをとっています。そんな「LQC*1」として格安航空会社気分を味わってきたスカイマークですが、今年からいよいよエアアジア・ジャパンジェットスター・ジャパンなどの海外LCCが成田空港に殴り込みを掛けてきます。JALANAの幹線ならいざ知らず、スカイマーク成田線程度の便数規模ではあっという間に吹き飛ばされてしまいます。つまり、羽田空港というレッドオーシャンから成田空港というブルーオーシャンに逃げた心算が、気が付けば羽田だけじゃなく成田までレッドオーシャンになっていたという事です。そして、どうせ同じレッドオーシャンで争うのであれば、コスト面で勝ち目がないLCCよりも国内レガシーキャリアを相手にする方が楽だからこそ、フリートを再び羽田志向に戻したのでしょう。
 となれば、スカイマークが目指すべき「次のステージ」は、単に「大手航空会社よりも割安」という大手航空会社の劣化コピーではなく、「縦令他の航空会社と同じ運賃であっても選んでもらえるような航空会社」になる事です。成田空港での片手間の喧嘩ならいざ知らず、羽田空港でビジネス需要まで相手にしようというのであれば、確固たるブランドイメージを構築*2し、「快適に移動したいならスカイマーク」という認識をビジネス客に広める事です。羽田発着の幹線で「JALANAと並ぶ第三の選択肢」として認識されてこそ、初めて成田発着のA380もその存在を認知されるというものでしょう。

*1:Low Quality Carrierの略です。結局、なかなか定着しませんでしたね。

*2:就航前からブランドイメージの構築のみに走りすぎ、結果的にANAの下請け航空会社になってしまったのが、他ならぬスターフライヤーです。