五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

既存区間の改良に向けた新しい整備新幹線のスキーム

 何だか、復活後のブロハラでは長崎新幹線の事ばかり書いているような気がしますが、今日も新幹線ネタです。お題はこちら。

 九州新幹線の全線開通時からある程度問題にはなっていた話ですが、ここへ長崎新幹線まで乗り入れるとなった時に、いよいよ本格的に考えなければならないのが、新大阪駅の容量不足問題です。特に、山陽新幹線からの折り返しについて、現状はほぼ考慮されていないと言い切れるレベルです。それは、新大阪駅の配線図を見れば解る事です。

ja.wikipedia.org

 新神戸方には東海道新幹線用の引上線が設置されている為、山陽新幹線の上り列車が新大阪駅で折り返す為には、引上線の更に遠方にあるシーサスクロッシングを使うしかありません。これにより、かなりの長距離を本線逆走する事になってしまい、それが増発余力を大幅に削減してしまっています。

 そんな新大阪駅では、国土交通省が新幹線用の地下ホームを増設する事を検討し始めています。

www.nikkan.co.jp

 どのようなスキームで地下ホームを建設するのかは不明ですが、現時点で考えられるのは以下の3つでしょう。

  1. 財政投融資の活用により、国土交通省の単独事業として施行する。
  2. 北陸新幹線新大阪駅の先行工事とみなして、整備新幹線のスキームを適用する(福井駅の高架化と同様)。
  3. 整備新幹線に関連する既存区間の改良として、新たなスキームを構築する。

 この中で、一番手間が掛からないのは既存スキームを流用できる2番ですが、当然ながら沿線自治体である大阪府に多額の財政負担が生じる事になり、場合によっては京都府福井県にも財政負担が発生してしまいます。いくら将来的には北陸新幹線に活用できるとは言え、当面は山陽・九州新幹線の専用ホームとして供用される事になる地下ホームの建設に京都府福井県が財政負担する事は、納税者である京都府民や福井県民の理解を得る事は難しいでしょう。勿論、大阪府としても簡単に支出できる金額ではありませんから、実際には敦賀=新大阪の着工予定である2031年度まで身動きが取れなくなってしまう事でしょう。

 では、1番はどうかと言うと、これはこれで「誰が受益者(=最終的な建設費の負担者)となるか」という問題が残ります。実際の施工が鉄道・運輸機構になるのはほぼ間違いありませんが、線路使用料をJRから徴収できるのか、徴収できるとしたら鉄道・運輸機構のどの事業に該当するのか、法令レベルでの整理が不可避となります。そして、地方自治体の財政負担を着工の前提としている整備新幹線のスキームが存在する脇でその枠外から国土交通省の直轄事業が可能になるのであれば、当然ながら大宮駅や福島駅についても沿線自治体から改良要求が湧いてきますから、事態の収拾が付かなくなってしまいます。

 となると、やはり正攻法は3番の新スキーム策定でしょう。既存区間の改良の場合、基本的に施工区間が所在する地方自治体と直接の受益がある地方自治体とは一致しませんから、通過距離に応じて地方負担分を比例按分する従来のスキームは適合しません。そこで、既存区間の改良においては、通過距離ではなく受益割合に応じて個別に地方自治体間の負担割合を決定する事とすべきです。例えば、上越新幹線大宮駅の配線を改良して大宮始発の列車を多数設定できるようにすれば、その受益は埼玉県だけでなく新潟県富山県、石川県にも及びます。また、新大阪駅山陽新幹線専用の地下ホームが設置されれば、その受益は遠く鹿児島県や長崎県長崎新幹線が全線フル規格になった場合)にまで及びます。この受益を数値化するのは困難かも知れませんが、改良区間の所在自治体に財政負担のモチベーションが余りない事を考えれば、新幹線の沿線自治体全体で広く財政負担するスキームの構築は十分検討に値します。

 そして、このスキームが確立すれば、長崎新幹線を力技で全線フル規格にする方法にも目が出てきます。現時点では、武雄温泉でのリレー方式で暫定開業する事はほぼ確実ですから、博多=武雄温泉での運行が見込まれる「リレーかもめ(仮称)」も長崎新幹線の一部と見做せなくもありません。そして、整備新幹線を暫定的に代替する区間である新鳥栖=武雄温泉の在来線を「改良」するという名目で、フル規格の車両が260km/h以上で走行可能な新線を建設する事にしてしまえば、財政負担に係る議論から佐賀県をハブる事が可能になります。勿論、山口祥義知事が「負担ゼロでも認めない」と明言している以上、この裏技が使えなくなる可能性も当然ありますが、外堀を埋める1つの方法として検討する事も無駄ではないでしょう。

 既存のスキームを活用するにしろ、新しいスキームを構築するにしろ、これからの新幹線の整備は地方自治体の積極的な財政負担なしには進展し得ません。いくら整備新幹線の建設が進んだ所で、既存区間ボトルネックがあったら十分に活用できないのですから、その解消の為には整備新幹線の受益自治体による十分な財政措置が行われるべきでしょう。