それにしても、私が相変わらず納得できないのは、サッカー国際試合における延長戦です。つい最近まで、延長Vゴール、国際的にはゴールデンゴールと呼ばれる方式が採用されていたのですが、何処かの誰かさん*1が
- 15分ハーフずつ延長戦が出来ないのは不公平だ。
- 敗者となったチームにとって剰りにも残酷だ。
などとイチャモンを付けたもんだから、現在では再び何があっても15分ハーフずつの延長戦をやり切る方式に戻ってしまいました。
決勝トーナメントでのメキシコは、準決勝のアルゼンチン戦でも3位決定戦のドイツ戦でも、90分間では試合の決着が付かず、延長戦へと縺れ込んでしまいました。そして、両方とも延長戦でのゴールがあったのですが、ゴールデンゴール方式が廃止されたが故に、観戦している人間は引き続きグダグダとした試合を「見せられる」事になってしまうのでした。準決勝のアルゼンチン戦に至っては、折角メキシコが先制点を挙げたのに、アルゼンチンに追い付かれてしまい、挙げ句の果てにはPK戦で逆転負けというオチまで付いてしまいました。
私が思うに、延長Vゴール方式は、日本人が発明したルールの中でもかなり優れた部類に入るものです。本来、サッカーは前後半90分の間に決着が付かなければならないのであり、90分終了時点で同点引き分けという結果になった以上、ある意味両チームとも負けなのです。それでもなお延長戦を行うという事は、両者負けという状態から敢えて勝者を生み出そうという考え方、或いは勝敗を決しなければならない必要性によるものです。
であれば、延長戦がサドンデス方式を採るのは、ある意味当然とも言えます。延長戦の意義は、15分ハーフずつの前後半を両チームに与える事ではなく、あくまでも90分で決しきれなかった両チームの勝敗を決する事にあります。そう考えれば、その延長戦で先制を許したチームに、わざわざ逆転のチャンスを与えてやる必要性などありません。本来ならば、前後半90分の間に勝ち越せていなかった以上、負けも同然なのですから。
そして、延長Vゴール方式は、得点が入った時点で試合を打ち切る事により、通常の前後半90分よりも遥かに高度な緊張感及びゲーム性を生み出しています。ピンポイントに1点を取りに行く事のみを要求され、失点すればそこからの逆転は許されないという一発勝負では、攻撃・守備の両方にクリティカルなスキルが求められます。更に、サッカーは野球やアメフトと異なり、攻守が一瞬にして逆転するという特徴がありますから、散々攻め込まれていたチームがワンチャンスのカウンター攻撃をものにして、劇的な勝利を収める事も可能なのです。そして、この攻守の不安定性こそが、サッカーにおける延長Vゴール方式を正当化する1つの理由でもあります。
確かに、こういう決着の付き方は残酷に見えるかも知れません。しかし、世の中を見回してみれば一発勝負で全てを失ってしまう事などままありますし、抑も人生なんてのは一発勝負の繰り返しです。その一発勝負にきちんと勝てるかどうかというのが、人生の成否を大きく左右するのではないでしょうか。
このような「残酷」な決着が日本で受け容れられる根拠となる一つの土壌が、高校野球です。甲子園においては、一切の負けは許されません。たった1点差であろうとも、負けてしまえばその場で甲子園は終わってしまうのです。たったの1つも黒星が許されない試合など、日本のプロ野球では勿論、メジャーリーグにすらありません。アマチュアスポーツ全般に言える事なのかも知れませんが、1試合1試合が背水の陣なのです。だからこそ、高校球児は目の前の1勝にがむしゃらになり、サヨナラ負けでも喫しようものなら、その場に泣き崩れて立ち上がる事も出来なくなってしまうのです。
私は、炎天下の甲子園球場で高校生を見世物にする高野連のやり方には、些かの疑問があります。しかし、あくまでも見世物として捉えるのであれば、高校野球の儚さは、プロ野球にも関東六大学野球にもない、スリリングさとドラマチックさとに溢れていると言えるでしょう。その儚さがあってこそ、別に母校が出ているでもないのにアルプススタンドを埋め尽くす観客が存在するのですし、敗退した高校球児が甲子園の土を持ち帰る一種の「儀式」にも必然性が見えてくるのです。もし、高校野球が全てリーグ戦だったとしたら、甲子園の観客席は半分も埋まらないでしょうし、わざわざ甲子園の土を持ち帰る高校球児なんかも出てきません。
その高校球児からしてみれば、「ゴールデンゴールは残酷だ」などと宣う連中は、はっきり言って甘えています。麻雀で言うならば、赤2-2-2*2・割れ目ありの半荘戦で、北家スタートの人間が
- 親番が2回来ない内にトビ終了してしまうのは不平等だ。
- ちょっと沈んでいる状態で親倍を振った人間にとって剰りにも残酷だ。
などと言い出すようなものです。これ、下手したら一発で雀荘出入り禁止になりますね。