五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

音楽配信サービスの適正価格

 以上、音楽配信サービスとP2Pユーザーと、それぞれの傾向と対策とを書いてきました。では、実際にどの程度の価格設定であれば、P2Pユーザーは音楽配信サービスへとシフトするのでしょうか。最後に、私が考える音楽配信サービスの適正価格について書いておきます。
 私が思うに、音楽配信サービスにおける1曲当たりの適正価格は、ズバリ50円です。現在、音楽配信サービスにおける1曲当たりの平均価格は150円から200円程度、着うたフルとなるともう少し高くなって1曲当たり300円程度との事ですが、曲単価がレンタルCDよりも高いようでは、P2Pユーザーを誘導するのが困難であるのは勿論、P2Pにも音楽配信サービスにも全く興味・関心のなかった新規ユーザーの開拓もままなりません。リッピングの手間賃を考えたとしても、購入できる音楽ファイルへの様々なDRM上の制限を考えれば、精々1曲100円が上限というべきでしょう。これ以上の価格になっては、真っ当なユーザーであってもレンタルCDからのリッピングを検討するようになってしまいます。
 音楽配信サービスを普及させる為の価格設定として重要なポイントは、以下の3つです。

  1. 1曲当たりの単価が、P2Pで音楽ファイルを入手する手間賃+αに収まっているか?
  2. 1曲当たりの単価を視覚的に捉えた時、その出費がユーザー層にとって誤差の範疇と言えるか?
  3. その曲単価によって、著作権者に十分なリターンはあるか?

 これらを総て満たす価格は、どんなに高くてもワンコインの100円、出来れば高音質な着メロと同じ50円前後でしょう。ここまで来れば、余程の吝嗇家や余程の不買運動家でもない限り、P2Pでダウンロードなどという七面倒な事を考える前に、さっさと音楽配信サービスで楽曲を購入してしまいます。それに、後掲のニュースソースでも触れる通り、音楽配信サービスではレーベルの取り分が70%以上になるというのですから、縦令1曲当たりの単価が50円だとしても、レーベルの取り分は35円以上になります。先掲のニュースソースにもあるように、レンタルCDであれば1曲当たりの単価は30円にも落ちてしまうのですから、この価格でもレーベルにとっては十分でしょう。
 この点、オリコンの小池恒右社長も、音楽配信サービスの普及には一種の価格破壊が必要であると見ています。

音楽配信は、レンタルや中古CDの代替として普及する---普及の目安は1曲100円以下、80円くらいが妥当では

○「オリコンランキングでアップルのiTMSを追撃」――音楽配信戦略の全貌を明かす 小池恒右オリコン・グループCEO(前編)

○「アップル、ナップスター陣営の戦略にも動じず」――小池恒右オリコン・グループCEO(後編)

http://nikkeibp.jp/netbiz/interview/050906_oricon2/index1.html

 現状、大手レーベルとの兼ね合いもあってか、ORICON STYLEでの曲単価は200円前後が相場となっています。しかし、音楽配信サービスの普及による価格破壊が進み、小池恒右社長の言う1曲80円が実現するような事があれば、ORICON STYLE音楽配信サービスにおける台風の目となる事でしょう。
 そういう意味で、音楽配信サービスの価格破壊を進める為にも、是非実現して欲しいのが、着メロの世界では一般的となっている月額聴き放題コースの設定です。小池恒右社長は、先掲のニュースソースにもある通り、月額料金に占める取り分の問題から、聴き放題というものについては否定的です。しかし、果敢にも月額聴き放題の音楽配信サービスを実現しようとしている人がいます。タワーレコードの伏谷博之社長です。

○【インタビュー】月定額で百万曲聴き放題の音楽配信サービスを実現する

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20050826/220182/

 残念ながら、CD−Rへの保存は出来ないようですが、それでも月額聴き放題というコースの設定は非常に魅力的です。具体的な料金は未定との事ですが、米国ナップスターの「Napster To Go」が月額14.95ドルである事を考えれば、タワーレコードの月額料金も恐らく1,500円から2,000円までの間に収まる事でしょう。
 USEN440の月額6,000円は、価格設定が高すぎて、個人用にはなかなか普及しませんでした。しかし、月額2,000円で聴き放題取り放題という事になれば、ヘビーユーザーの食い付きが大いに期待できます。当然、その中にはP2Pユーザー層5「フルコーラスでの試聴をしたい」も含まれます。滝のように音楽を流したい人間にとって、タワーレコードの月額聴き放題コースは、正に打って付けのコンテンツであると言えましょう。
 片や1曲80円、片や月額2,000円といったガチンコ勝負が展開され、一方で無料ネットラジオでリスナーとアーティストとの新たな出会いが築かれるようになれば、音楽配信サービスは、現在とは比較にならないくらい爆発的に普及する事でしょう。それでこそ、初めてブロードバンドが音楽業界の発展に貢献する事になりますし、P2Pコミュニティも自然消滅へと向かう事でしょう。大手レーベルも、P2Pコミュニティとの不毛な鼬ごっこに励むよりも、こうした音楽配信サービスを如何にユーザーに浸透させ、そこから如何に収益を上げるかを考えるべきです。P2Pを撲滅する事よりも、P2Pをニッチにする事こそが、収益への近道ではないのでしょうか。