五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

スカイマーク札幌線の成算

 さて、昨日の記事で紹介したスカイマークすてみタックル、基、「第二の創業」ですが、凡そ福岡線以外の全てを擲って参入するような札幌線に、果たして勝算はあるのでしょうか。私は、今日一日ずっと考えてみましたが、その結論は「よくて往時のTDA、下手すりゃAIR DO以下」というものでした。まぁ、徳島線関空線よりは搭乗率が改善されるかも知れませんが、決してその将来性は明るいものではないでしょう。



 現在のスカイマークの計画では、福岡線・札幌線ともに1日11往復程度を想定しています。流石に、JALやANAが20往復前後を飛ばしているのと比べると見劣りしますが、それでもスカイマーク創業当初に比べると格段に存在感はあります。しかし、便数ベースではなく座席数ベースで見た場合となると、JALやANAには便数以上に大きく見劣りしてしまいます。
 というのも、JALやANAとスカイマークとでは、機材の大きさにかなりの差があるからです。JALやANAは、福岡線・札幌線とも、B747-400DB777-200/300といった大型機材を中心に、時折B767-300やA300-600Rのような中型機材が就航するのですが、スカイマークとなると、現時点での最大でもB767-300、将来的にはB737-800に機材が統一されてしまう為、その定員で2倍から3倍もの開きになってしまいます。万が一、JALやANAがA380を導入するような事があれば、機材定員の差は想像を絶するものになります。
 勿論、定員が多ければ多いほどいいというのではなく、その定員を如何に高い運賃で埋めていくかが重要なのですから、スカイマークが客単価の向上を成功させられるのであれば、バーゲン運賃や包括割引運賃の乱発で万年赤字体質のJALやANAよりも多くの利益を叩き出す可能性はゼロではありません。しかし、格安が売りのスカイマークとて、その座席の全てを個人向け運賃として発売しているのではありませんし、その個人向け運賃ですら、10年前のJALやANAに比べると遥かに体型は複雑化しています。少なくとも、JR時刻表やJTB時刻表などの市販時刻表に、スカイマークの割引運賃が全て掲載されるなどという事はないでしょう。

 もう1つ、スカイマークの「通年2万円以下」という普通運賃の設定ですが、ビジネス客にとってはありがたいかも知れませんが、観光客にとってはそれほど新鮮味のあるものでもありません。というのも、最近は夏休みですら早期購入割引が設定されるようになり、JALやANAの札幌線・福岡線が2万円前後で乗れる事が多くなってきたからです。一方で、ハッピーマンデーの導入により増えてきた祝日絡みの3連休では、早期購入割引や特定便割引が尽くブラックアウトする事も増えてきました。
 以前の記事でも書いたように、普通運賃の引き下げは、それと引き替えに各種割引運賃の廃止をも伴う危険性が大です。JALやANAなどの競合他社が割引運賃を設定しない盆暮れ正月や3連休などであれば、普通運賃さえ安ければある程度の集客は出来ます。しかし、閑散期も同様の運賃が通用するかとなれば、そんなに札幌線も福岡線も甘い市場ではないでしょう。運賃体系のシンプリフィケーションは、同時に価格弾力性の喪失をも意味するのですから、一度客足が遠退いたとなると、途端に劣勢に回ってしまいます。
 閑散期において、あくまでも普通運賃で勝負しようというのであれば、価格面以外での付加価値というものが必要になるのですが、果たしてその付加価値が現在のスカイマークにあるかというと、私にはとてもあるようには思えません。スカイマーク自身が、プレスリリースのPDFにおいて徹底したノンフリル化を謳っているだけに、閑散期の乗り切り方がなおさら心配に思えてきます。ノンフリルエアラインの神髄は、圧倒的に分かり易く、絶対的に安価な運賃です。スカイマークが福岡線や札幌線でプライスリーダーになろうとするのであれば、普通運賃が15,000円を切るようにならないと、JALやANAの各種割引運賃に埋もれてしまうだけでしょう。
 それでも、普通運賃を引き下げようとするスカイマークの特攻は、ある意味高く評価すべきものであるのかも知れません。しかし、一度バーゲンフェアやバースデー割引の値段を知ってしまった利用者は、縦令それが閑散期のみの運賃であるという事を理解してもなお、片道2万円以上する運賃に対して絶対的な違和感・拒否感を覚えてしまいます。この種のバーゲン運賃は、航空会社にとっても利用者にとっても危険な依存性薬物であり、やればやるほど抜け出せなくなってしまいます。その事は、カウントダウン割引などでバーゲン競争に乗っかったスカイマーク自身もよく理解している事でしょう。

 何れにしても、福岡線・札幌線に注力するスカイマークに最も必要なのは、発着枠の多さでも運賃の安さでもなく、「3番手としての怯懦と矜恃」であり、3番手ならではの独自性を打ち出す事です。JALやANAに比べれば、スカイマークは組織としては十分に若く、機動力も桁違いに高いはずです。鹿児島・徳島・関空から一気に撤退するというフットワークの軽さを、今度はサービス面での柔軟性の高さに生かして欲しいものです。
 私は、スカイマークがどんなサービスを展開しようと、恐らくは札幌線も福岡線もJALに乗る事でしょう。しかし、スカイマークが突飛なサービスを提案すれば、或いはJALやANAのサービス改善に繋がるかも知れません。そういう意味で、私はスカイマークに「壊し屋」としての活躍を大いに期待しています。
 これだけ身勝手な経営戦略を展開しておきながら、なお消費者がスカイマークの存在を許し続けている大きな理由は、スカイマークへの「壊し屋」としての期待があるからです。スカイマークがその役割を忘れ、単に利益追求のみを目的とする航空会社に成り果てた時、消費者は容赦なくスカイマークを見捨てます。その事を、スカイマークは肝に銘じておいて欲しいものです。