五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

ANAが石垣・宮古直行便を全廃へ

 これも「選択と集中」なのでしょうか。

○ANA離島直行便廃止/11月から宮古・石垣

ANA本土石垣4路線 11月に廃止へ/那覇拠点に輸送力を増強

○観光業界「観光地としてイメージダウン」ANA直行便廃止方針に衝撃

○大阪直行便 11月廃止/全日空・路線を「那覇拠点」にシフト

http://www.cosmos.ne.jp/~miyako-m/htm/news/060309.htm#1

 所詮「離島」という事なのか、在京メディアは何処も取り上げた形跡がありません。やはり、「Dr.コトー診療所」や「瑠璃の島」といった離島ネタのドラマが放映されている間でないと、なかなかニュースバリューは上がらないんでしょうね。まぁ、八重山商工の甲子園出場なんていう話題はあるのですが、如何せん高校野球自体が駒大苫小牧高野連の所為でダーティーイメージばかり強くなっている現在、なかなか八重山商工には在京メディアの関心なんか向かないんでしょうね。
 で、今回の直行便廃止なんですが、これはもう石垣空港の設備制約が全てと言っていいでしょう。どんなに需要があっても、滑走路長1,500mではどうしようもありません。那覇を飛び越えて大阪や名古屋へ直行しようともなれば、当然キツいペイロード制限が掛かってきますし、東京に到っては直行する事すら叶いません。それならば、B737-500*1那覇に集中させてしまい、石垣・宮古をそれ以外の機材繰りから外してしまった方が、何かと効率化できます。特に、ANAはこれからB737-781を大量導入していきますから、このB737-781が離着陸できない石垣空港が本土に絡む路線網に組み込まれたままだと、機材運用上の大きな制約事項になってしまいます。
 こうした制約事項を解消し、再びANAが石垣・宮古に直行便を飛ばすようになるには、やはり新石垣空港の開港が必要不可欠だと言うべきでしょう。ANAが直行便廃止の理由に石垣空港ペイロード制限を挙げている事からしても、これはANAによる新石垣空港開港圧力だと捉えて間違いありません。国土交通省及び沖縄県石垣市は、今回の直行便廃止を真摯に受け止め、可及的速やかに新石垣空港の整備を完遂すべきです。



 さて、ANA石垣・宮古直行便の全廃による観光業界への影響ですが、私は地元が騒ぐほど大きなダメージにはならないだろうと思っています。というのも、石垣・宮古への直行便は座席の多くを旅行会社が買い占めてしまっている為、なかなか個人客まで空席が回ってこないからです。その旅行会社枠*2ですら決して充実しているとは言えず、何だかんだで石垣・宮古へ行くには那覇乗り継ぎになってしまう事がままあります。そういう意味では、直行便に拘るよりも乗り継ぎ便を充実させた方がいいというANAの方針は、当を得ている部分もあります。
 しかし、こうした石垣・宮古直行便の廃止は、経済的な影響よりも寧ろ精神的な影響の方が深刻です。日本の地方空港において、東京への直行便があるというのは大きなステータスであり、地域振興の大きなモチベーションになります。勿論、羽田発着枠というのは「1枠10億」とも言われるほど直接的な利益も齎すのですが、それよりも時刻表や発着案内板に「東京」の2文字が出るという事自体に大きな価値があるのです。こうしたプライスレスな直行便の存在意義は、私にこのニュースを教えてくれたのぞみくんのブログでも指摘されています。

新石垣空港を待てなかった?全日空沖縄本島以外は撤退へ

http://nozomi.at.webry.info/200603/article_10.html

 石垣・宮古直行便の廃止には、問題を更に複雑化させる要因があります。それは、宮古八重山が抱える首里コンプレックスです。仲宗根豊見親が首里王府に傅き、オヤケアカハチが尚真に討たれて後、宮古八重山琉球王国の一部となり、それは現在の沖縄県になっても同じなのですが、今でも宮古八重山の人々は、「自分達は琉球人である」と思う前に「自分達は宮古人である」「自分達は八重山人である」という意識が強くあります。沖縄本島の人間にとっては「宮古八重山沖縄県の一部」という認識でしかないのですが、宮古八重山の人々は、自分達が沖縄県として首里の連中と一緒くたにされる事を決してよしとしません。特に、最後まで首里王府からの侵攻に抗ったオヤケアカハチ*3を戴く八重山の人々にとっては、「八重山の物は首里の物」という沖縄県*4ジャイアニズムは、到底承服しがたいものだった事でしょう。
 斯かる経緯を抱える宮古八重山の人々にとっては、石垣・宮古直行便の存在は、単に乗り継ぎなしで東京や大阪へ行く事が出来るという利便性だけでなく、宮古八重山の独立の象徴であり、日本においては宮古八重山首里と対等の立場にあるという象徴でもあるのです。石垣・宮古直行便を廃止して那覇経由に置き換えるなどというのは、そうした宮古八重山の地域感情を土足で踏みにじる行為であり、「また首里か……」と不要な反感を生む事になるのです。今回の石垣・宮古直行便の廃止は、沖縄県を主要なテリトリーとするJTAではなく、単に「路線網の末端」としてしか見ていないANAだからこそ出来る路線統合なのです。



 このように、宮古八重山の人々にとっては精神的ダメージが非常に大きい石垣・宮古直行便の廃止ですが、本土の人間でも少なからずダメージを受ける人間がいます。それは、正規割引運賃や特典航空券の利用者です。超割や旅割、いっしょにマイル割などは、何れも直行便のみに設定されますから、羽田や関空から石垣・宮古に直行できなくなると、運賃は各区間の合算になってしまいます。特に悲惨なのはいっしょにマイル割で、運賃(必要マイル)が実質的にほぼ倍となってしまい、一気に宮古八重山が遠退く事になってしまいます。元々直行便が割高な超割や旅割、或いは那覇乗り継ぎの特例がある特典航空券においても、那覇を経由させられる事による運賃(必要マイル)の上昇は避けられません。「直行便を取れるかどうか」という問題は別として、やはりユーザー視点では直行便があるに越した事はないのです。
 では、運航効率化を図りたいANAと直行便を残したい宮古八重山(及びそのフリーク)の需要とは相容れないものなのかというと、何とか折り合いを付けられそうな場所はあります。それは、現在JTAが石垣発便で実施しているような経由便による運航です。縦令実際の運航が那覇経由であっても、東京や大阪から石垣・宮古まで通し便名での運航になれば、運賃上は直行便扱い*5になるのです。宮古那覇を経由するJTAの石垣発便で直行便運賃が使用できるのは、こういう絡繰りなんですね。
 現在のANA国内線にはJTA石垣発便のような経由便は存在しませんが、国際線では大阪=大連=瀋陽のような経由便が現に存在しますし、国内線でも過去には経由便が当たり前だった時代があります。「那覇経由にする事で運航の効率化を図る」という事であれば、そうした経由便の例に倣い、石垣・宮古から東京や大阪へと直行する旅客が不利にならないよう取り扱うべきでしょう。それが、真の「利便性」というものです。
 尤も、ハブ&スポークモデルの本来像からすれば、必ずしも通し便名だけが全てというものではありません。ハブ空港を軸として、複数のスポーク便がn対nの関係で乗り継げる事こそが、ハブ&スポークモデルの真髄なのですから、羽田・中部・関空・福岡の内1路線のみが通し便名を確保できるという方法は考え物です。となれば、やはり通し便名などという裏技を使わなくても直行便扱いするのが理想でしょう。具体的には、同日乗り継ぎであれば直行便扱いとする本土便・離島便の組み合わせを設定し、その分に関しては直行便と同等の運賃を設定するのです。システム設計上難しい話かも知れませんが、那覇での国内線ハブ&スポークモデルが成立すれば、その方法論を札幌や大阪でも応用できるようになるのです。離島空港や僻地空港を有効活用する為にも、こうした乗り継ぎ制度の拡大は是非進めて欲しいものです。出来れば、国内線でもストップオーバー制度が実施されれば……とも思うのですが、それは贅沢ですかね(;´Д`)

 それにしても、石垣空港が設備制約でこんなに苦しんでいるというのに、九州の何処かではろくに現空港の活用も検討しないで新空港を造った大馬鹿野郎どもがいるというのが、私は非常にやるせなく腹立たしくてなりません。新北九州空港、テメエだテメエ( ´゚д゚`)

*1:とは書いてみたものの、果たしてエアーニッポン自社発注のB737-54K以外に就航する機材があるのかは不明ですけどね。

*2:以前とある旅行会社の人に聞いた話によると、JTAが東京=石垣で就航するB737-4Q3の150席の内、大体120席程度は旅行会社に卸されてしまい、個人運賃として発売されるのは大体30席程度なんだそうです。こんな中でバーゲンフェアだのバースデー割引だの特典航空券だのを設定しているんですから、取れなくて当然ですね。

*3:因みに、そのオヤケアカハチの居城だったとされているのが、新石垣空港反対派が「ここを埋め立てて現空港を拡張しろ」と主張しているフルスト原遺跡です。当然ながら、こんな主張をするのは石垣島外(そして得てして沖縄県外)の人間であり、八重山の人々の「心の問題」に踏み込むような当該主張が石垣島で受け入れられるはずもありません。敢えて東京で喩えるなら、「靖国神社を潰して空港にしろ」と言っているようなものです。

*4:言うまでもなく、沖縄県庁は首里ではなく那覇にあります。但し、県下一帯が那覇支配下にあるとする意識は、正に首里王府のジャイアニズムと同一であると言ってよいでしょう。

*5:航空用語としての「直行便」は、出発地から目的地まで同一の便名で運航される全ての便を指します。途中何ヶ所に寄港しようと(或いは経由地で機材が入れ替わっても)、便名が同一である限り「直行便」なのです。つまり、世間一般に言う「経由便」であっても、航空会社にとっては「直行便」なんですね。国際線においては、こうした「経由便」が実に多いので、注意が必要です。
因みに、世間一般に言う「直行便」、即ち出発地から経由地まで直行する便は、航空用語では「ノンストップ便」と言います。「直行便」と「ノンストップ便」との使い分けなんて、一般人には思いもよらない事でしょう。