五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

堀高明にズームイン(日経編)

 スターフライヤー就航に先立って、堀高明社長へのインタビューが組まれていました。

○早期便値下げも 堀高明スターフライヤー社長

http://www.nikkei.co.jp/kyushu/news/arc1487.html

 九州版だと余りホームページ掲載期間は長くないのですが、取り敢えず一問一答一ツッコミで行きたいと思います(つ´∀`)つ


新規航空会社が厳しい経営を強いられているのになぜ参入した。
「航空会社を巡る環境が以前とは違う。かつては羽田の発着枠の関係もあり航空機を一機か二機持って1日に三往復か六往復するというのがパターンだった。当社は最初から三機で北九州―羽田間を12往復する。1―2機だと、空港内のカウンター、ラウンジなどの間接費や人件費を吸収するのは難しいが、三機でなおかつ四機分の稼働をさせる」

 開港3日間を見ている限り、3機で2機分の稼働しか出来ていないですね。幾ら就航間もないとはいえ、慢性的に遅延が発生しているというのは考え物でしょう。こんな状態で、3月23日以降の12往復体制に突入できるのでしょうか。遅延が遅延を呼び、挙げ句の果てには機材繰りの為欠航なんて事になれば、輿論の評価は「やっぱりスターフライヤーも新規航空会社の例に漏れず運航が不安定か……」というものになる事でしょう。
 取り敢えず、3機で4機分の稼働をさせるという事であれば、サウスウェスト航空並みのターンアラウンドタイム短縮に努めて欲しいものですね。本革張りシートのメンテナンスフリーという特性も、短時間での折り返しでこそその真価を発揮するというものです。まぁ、現状のターンアラウンドタイムはどちらかというと出発準備よりも遅延のマージンに使われている部分が大ですが。


(つづき)
「従来の北九州空港は欠航も多くビジネスには使いにくかった。北九州と東京との距離ならば旅客の9割以上は飛行機を使う。しかし、実際には首都圏と北九州エリアを往来する旅客全体の15%くらいしか北九州空港を使っていなかった。潜在需要は十分にあると思う」

 航空分担率と空港シェアの問題とを混同していますね。この文脈だけを見ると、首都圏=北九州のトリップの85%は航空機を利用していないように読めてしまいますが、勿論そんなに新幹線の分担率が高いなどという事はなく、大半の旅客は航空機を利用しています。ただ、今までは北九州空港ではなく福岡空港を利用していたというだけの事です。
 とあれば、その「潜在需要」をスターフライヤーに取り込む為には、今まで北九州空港に欠けていたものが何なのか、或いは福岡空港利用者はどんなものを望んでいたのかといった研究が欠かせません。取り敢えず、最大のネックであった便数や就航率は大分改善されるはず*1ですが、地上アクセスの充実や多頻度顧客向けの特典など、福岡空港利用者向けのアプローチではまだまだ不十分な所があります。特に、ビジネス需要を相手にするのであれば、リピーターの顧客忠誠度を高めるシステムの充実は必要不可欠でしょう。まさか、スタフラに乗るなら株を買えなんて事を言い出すとは思えませんからね。


当初は先日開港した神戸空港を拠点にするはずだったが。
「もともと神戸―羽田間を十往復、北九州―羽田間を十往復という二つの路線を考えていた。しかし神戸が開港当初24時間運用できないということになり、シミュレーションしたら初年度に8億円以上の赤字が出ることになった。それで北九州に絞った」

 北九州でも赤字ですよ。福岡県や北九州市補助金がなければね。逆に言えば、潤沢な補助金が期待できるからこそ、スターフライヤー新北九州空港を拠点にしたというべきです。まぁ、スカイマーク就航だの伊丹廃港だのといったネタを抱えている神戸空港と、JAL東京線以外に就航の見込みがなかった新北九州空港とでは、自治体の財布の紐もきつさが違うというものです。
 とはいえ、新規航空会社たるもの、最低でも5年くらいは赤字に耐え得る体力は必要というものです。スカイマークエア・ドゥの例を持ち出すまでもなく、大手航空会社はその体力を背景に必ず消耗戦へと持ち込んできますから、新規航空会社もある程度は疲弊を覚悟すべきなのです。ただ、5年間消耗戦を繰り広げても新規航空会社が音を上げないようであれば、流石に大手航空会社もそれ以上不毛な消耗戦を続けるような事はしません。その時、初めて新規航空会社は大手航空会社と対等の立場になり得るのです。


早朝・深夜便の旅客は確保できるのか。
「早朝・深夜は往復で六便を運航するが、正直言って羽田の第一便(午前6時5分発)は苦しい。運賃の引き下げを考えなければならないかもしれない。早朝・深夜は搭乗率が5割に乗ればいいと思っている。全体として65%の搭乗率を目指したい」

 初日は最終便も厳しかったですね。144席中38席しか埋まらなかったという事は、ロードファクターに換算すると26.4%です。開港直後のご祝儀相場と地道な宣伝活動による利用普及とが相殺したところで、ロードファクターは40%を超えるのがやっとでしょう。しかも、その利用者の殆どはSTAR1やSTAR7といった割引率の高い運賃を利用する事でしょうから、貨物輸送でもしない限り、ユニットレベニューも大して期待できません。
 スターフライヤーの羽田=北九州線は、その4分の1が早朝・深夜便です。仮に、早朝・深夜便のロードファクターが40%だったとすると、全体として65%のロードファクターを確保するには、昼間便で最低でも73%のロードファクターを叩き出さなければなりません。縦しんば、早朝・深夜便で目論見通り50%のロードファクターを稼げたとしたところで、昼間便で70%のロードファクターを確保できなければ、やはり65%という目標には到達しません。この数字は、旧北九州空港でJALが稼いできたロードファクターと同じですが、提供座席数が4倍に増えてもなおこのロードファクターが付いてくるという保証は何処にもありません。
 まぁ、主要株主の日産自動車と同様、「売り上げではなく利益率を重視する」という経営方針に改めれば、ある程度スターフライヤーにも光明は見えてくる事でしょうね。とはいえ、あれだけバーゲン型運賃や株主優待運賃をばらまいていては、とても利益率など期待できたものでもありませんが。


新規航空会社も含めて値下げ競争が激しくなっている。
「大手の値下げに対抗して事前予約割引の運賃を4月分から最大2200円下げた。しかし(早朝便を除けば)これ以上の値下げは必要ないと思う。サービスの質で勝負したい。広い座席間隔やパソコン電源・テレビの有無などだ。安売りを求めるのか、妥当な価格で付加価値の高いサービスを求めるのか、顧客がいろいろ選択できればいい」

 そんな事を言っている間に、JALやANAの新しい割引運賃はあっさりとスターフライヤーを下回ってきましたね。28日前までの予約という条件は、羽田=北九州のマジョリティであるビジネス需要にはそぐわないものですが、少なくとも観光客の争奪戦においてスターフライヤーは相当不利な立場にあると言ってよいでしょう。或いは、ここでもSTAR28とかいう大手航空会社の二番煎じ運賃を導入してくるのでしょうか?
 何れにしても、「付加価値の高いサービス」を謳うのであれば、せめて個人用テレビのメンテナンスくらい行き届かせておいて欲しいものですけどね。未確認情報ではありますが、mixiやAirTariffでは続々と個人用テレビの故障報告が上がっています。JAL国際線のMAGICやJASレインボーセブンのポケットビジョンなど、個人用テレビの故障を数多く見ている私としては、「やはり、スターフライヤーもか……」といった感が否めません。


全日本空輸との共同運航は。
「二つのハードルを超えなければならない。一つは当社の安全運航を確認すること。もう一つは我々が提示する卸値と全日空が求める運賃が合うかどうかだ。それさえクリアできれば共同運航もあり得る」

 業務提携でANAに首根っこ掴まれているんですから、余り変な事は言わない方がいいと思いますよ。リテール販売と同じ態度で卸値を提示しようものなら、整備費用やable使用料の引き上げを通告されるまでです。両方ともスターフライヤーの安全かつ円滑な運航には必要不可欠ですから、ここで揺さ振りを掛けられれば、スターフライヤーは一溜まりもありません。
 ANAがスターフライヤーとの提携で何を目論んでいるのかという事については、So-net blog時代に詳しく書いています。流石に就航当初からのコードシェアや運送の共同引受はありませんでしたが、予約・発券システムの片乗り入れは予想通り実現されています。今年4月からはスカイネットアジアとのコードシェアも開始する事ですし、スターフライヤーとのコードシェアも時間の問題と見てよいでしょう。
 但し、スターフライヤーにも追い風となる材料はあります。それは、ボーイング社内のゴタゴタにより、ANAへのB737-781のデリバリーが遅れているという事です。デリバリーが遅れれば遅れるだけ、ANAはA320を使わざるを得なくなりますから、その分だけスターフライヤーへのA320の押し付けも遅れるという事です。ANAがB737-781の頭数を揃える前に自社機材でA320の頭数を揃えてしまえば、ANAからA320を押し付けられる事もありませんし、機内をANA仕様へと改修する必要もなくなります。この状態でANAとのコードシェアに持ち込めれば、羽田発着のローカル線を押し付けられる事もなく、逆に北九州発着のローカル線をANAに売り付ける事も可能でしょう。まぁ、それもこれも北九州=羽田線の基盤確立が前提なのですが。


東証マザーズへの上場を目指すのか。
「航空会社は装置産業だから資金は必要。航空機を毎年1―2機増やすとか大型機にするとか、いろいろやるべきことはある。羽田の枠をあと3―4枠とれれば利益率はもっとよくなる。まず2007年3月期に営業黒字にし、できればそれから1年以内に上場したい」

 航空機を増やすという話はよく聞きますが、大型機の導入なんてのは初耳ですね。果たしてどの程度の機材を想定しているのかは不明ですが、A320以外の機材を導入するとなると、当然その分の乗務員や整備士を新規に確保しなければならなくなりますし、設備面でも新規投資が必要になってしまいます。或いは、多頻度運航や高付加価値路線といった営業戦略すら、大型機の導入で一気に目論見が狂ってしまいかねません。
 まぁ、北九州=羽田線を機材拡大により減便して、その分を札幌だの名古屋だのといった新規路線開拓に使うという事なら分からなくもありません。しかし、これらの路線と羽田線とではどちらが高い利益率を確保できるかなど、言うまでもありません。取り敢えず、このインタビューを見てANAは「よし、これでB767-381を押し付ける相手が出来たな」とほくそ笑んでいる事でしょう。


航空機は黒を基調としたこれまでにないデザインだ。
「もともとつくったデザインは欧州の航空会社に似たのがあると指摘されてやめた。北九州市がデザイン塾というのをやっていて一緒にやらないかとの話に乗った。その関係でロボットデザイナーの松井龍哉氏を紹介してもらい、機体からラウンジ、カウンター、チケットまですべてのデザインを任せた。世界中の航空会社でこんなにトータルなデザインにしているところはないだろう」

 トータルデザインはいいんですが、少しはそれをアウトドアに置いた時の事も考えて欲しかったものですね。黒一色というデザインは、なるほどインドアでは鮮烈に見えるかも知れませんが、アウトドアでは周囲の景色や他社の機材に埋没してしまいます。更には、熱の吸収による機体の劣化という、安全性に関わるリスクもあります。こういう点を見るに付け、如何にもスターフライヤーのデザインは机上の空論であるような気がしてなりません。
 因みに、現在エアーニッポンA320の機長をしているこのお方曰く、スターフライヤーの機体はウ○コ色なんだそうです。なるほど、日光の当たり具合によっては、ちょうど茶褐色に見えてしまう事もありますね。いやしかし、なおさんったら人が悪い(;´∀`)



 以上、一問一答一ツッコミでお送りしてきましたが、何だかスターフライヤーの先行きも余り安泰ではありませんね。果たして、福岡県や北九州市に泣き付くのが先か、ANAに取り込まれるのが先か、これからも目を外せません。取り敢えず、来年3月期の決算でどれだけの数字を出してくるかというのが、最初の勝負所でしょうね。

*1:とはいえ、新北九州空港は横風の影響を非常に受け易い場所にありますから、B737シリーズよりも横風に弱いと言われるA320シリーズでは、運用制限による欠航や遅延の発生という懸念があります。果たして、スターフライヤー新北九州空港の立地まで考えて機種選定をしたのか、私には些か疑問が残るところです。