五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

燃料電池車の必要性

 実用化への第一歩といった所でしょうか。

○鉄道に燃料電池、世界初の旅客車レール走行

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 これについて、大石英司先生はこう語っています。

 鉄道故のメリットって何だろう。

 はっきり言って、鉄道故のメリットというものは皆無です。ただ、ディーゼルエンジン燃料電池で代用する事が可能になったというだけで、実際にこの燃料電池車が活用される場面は非常に少ないと見るべきでしょう。



 鉄道という交通機関のメリットは、以下のようなものです。

  • 線路上しか移動しない為、運行管理・保安管理が容易である。
  • 少ない動力車・少ない運転手で大量の輸送が可能である。
  • ある程度は定員外乗車による詰め込みが可能である。

 これは、日本における一般的な粘着式鉄道を想定していますが、JR総研の開発した燃料電池車が日本国内での利用を想定している以上、上記をそのまま援用して構わないでしょう。
 言うまでもなく、鉄道は高密度・大量輸送向き交通機関です。実際、日本の通勤輸送は鉄道なしには成立し得ませんし、都市間輸送の分野においても、新幹線がなければ羽田空港伊丹空港はとっくの昔にパンクしていた事でしょう。資源効率の面からも安全性の面からも、鉄道は大量輸送に必要不可欠なのです。
 ところが、一度低密度・少量輸送となってしまうと、鉄道の持つメリットよりもデメリットの方が浮かび出てしまいます。

  • 線路がない所へは行けない。
  • 鉄道の為だけに線路や保安設備を維持管理しなければならない。
  • 極限まで省力化しても、バスよりはエネルギー消費量が多い。

 特に深刻なのは、豪雪地帯のルーラル線における冬季の線路保守です。山間部ともなると、積雪は深くなる一方で、旅客需要はどんどん落ち込み、列車本数もそんなに確保できません。やっとこさ線路を開通させた所で、そこを走る列車の乗客は小型バスの定員よりも少ない程度なのが常なのですから、これでは道路との二重投資という批判を免れ得ません。
 現在、日本の高需要路線は尽く電化され、唯一函館本線室蘭本線五稜郭東室蘭のみが非電化の大動脈として残っている状態です。しかし、この区間よりも遥かに冬季の気象環境が過酷である滝川=旭川が電化されている事を考えれば、予算さえあれば函館=札幌の全面電化は簡単であり、燃料電池車を導入するよりも技術的な信頼性を確保できます。281系やDF200形の更新時期が訪れれば*1、またぞろ海線の全面電化論が湧出してくる事でしょう。
 では、それ以外の非電化路線はどうなのかというと、これが尽く低需要路線だったりします。多頻度運転しようにも乗客はなく、単行でも座席が余るほどで、下手するとコミュニティバスで十分に代替可能なんて所すらあります。たまに乗客が増えたかと思ったら、通学定期の高校生や青春18きっぷの乞食ヲタだけで、ちっともイールドには寄与していないというオチも屡々です。
 国鉄末期からJR草創期にかけて、このようなルーラル線は大多数が廃止され、または第三セクターに移管されて来ましたが、まだまだ日本には鉄道輸送に不向きな(=バスなどの代替交通機関に転換すべき)路線が数多く残っています。しかし、地元感情への配慮からか、鉄道事業法の改正後も遅々としてルーラル線の整理は進まず、特に第三セクターにおいては補助金の注入による税金の無駄遣いが全国的に発生しています。これについては、ルーラル線の非効率に目を瞑り、交通権を既存鉄道の死守と履き違えている環境ブサヨクにも大きな責任があるでしょう。



 全国の道路整備が進み、コミュニティバスやオンデマンドタクシーといった新しい公共交通機関が実用化された今日、ルーラル輸送における鉄道の役割は終わったと言うべきです。バスの定員以下に収まるような旅客需要であれば、鉄道をキッパリと放棄してしまった方が、資源効率が良くなりますし、運行施設の維持管理コストも浮く事になります。高校生の通学輸送については、交通行政ではなく学校行政でフォローすべき事であり、通学輸送の為だけに鉄道を維持するなどナンセンスの極みです。
 燃料電池車が実用化されるとなれば、その大半はこうしたルーラル線に投入される事でしょう。しかし、わざわざ燃料電池車を導入するコストを考えると、将来的な量産化を見込んでも、なお導入コストを回収する事は不可能であると見るべきです。更に言うなら、鉄道車両における燃料電池車の量産化が実現する前に、バスにおける燃料電池車の量産化が実現するのはほぼ確実です。JR総研が燃料電池車の実用化を検討するのは勝手ですが、国家政策レベルで見るならば、鉄道よりもバスの燃料電池化をより優先すべきでしょう。
 また、燃料電池車の導入により、既存の電化路線から電化施設を撤去しようなどという動きもありますが、これまたナンセンスこの上ありません。電化施設の維持管理コストを賄えない程度の需要であれば、そんな鉄道路線はとっととバス転換すべきでしょう。事実、敢えて非電化に戻した名鉄三河線くりはら田園鉄道廃線に追い込まれ、同じく気動車での運行を実施している肥薩おれんじ鉄道も経営はジリ貧です。気動車燃料電池車になれば、イニシャルコストやランニングコストの増大で、なお鉄道事業者の経営は圧迫されます。その莫大なコストを「交通権」の名の許に公費負担する事は、本末転倒も甚だしいと言うべきでしょう。
 強いて燃料電池車を活用するのであれば、構内作業車や保線車など、その性質上電車化する事が困難な車両でしょう。或いは、関東鉄道常総線のように、立地制約上直流電化が非常に困難*2な路線において、この燃料電池車を活用する方法もあります。とはいえ、双方とも需要規模は決して大きくなく、量産化による価格引き下げを期待できるほどではありません。恐らく、資金に余裕のある数社が、環境広告を兼ねて試験的に導入する程度で終わる事になるでしょう。

*1:或いは、それ以前に北海道新幹線なんて話が出てくるかも知れませんけどね。

*2:Wikipediaによれば、一応直流電化も不可能ではないみたいですね。但し、非常にコストが割高となり、交流電化や非電化での運行よりもコストパフォーマンスが悪化するのが現状のようです。