五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

国内・国際での空港分断を提唱するマックスニュースの愚

 さて、身辺がゴタゴタ続きの中でも、一応新北九州空港絡みのネタは拾い続けています。主なニュースソースははてなRSSやメールニュースに頼りっきりなのですが、今回は福岡県のニュースメディア、データ・マックス社の発行しているメールニュース『マックスニュース』の「MAXふくおか県政ニュース179号(2008年2月27日刊)」から、「北九州空港を九州の国際拠点空港に」という提言を見付けました。ブロハラ常連の皆さんでも、流石にこんなメールニュースを読んでいる人は少ないと思うので、該当部分のみを引用しておきます。

// 提言 //

北九州空港を九州の国際拠点空港に》

 これら憶測は、週明けからの県議会における質疑で明らかになっていくだろうが、麻生知事は、福岡県の重要施策としての「アジアとの交流拠点としての福岡県」という脈絡のなかで北九州・福岡の両空港をどう整備するのか所信を述べたのだ。
 急速な発展を遂げるアジア諸国の動きに対応するために空港の整備が必要だとすれば、時間的な有余はそうないだろう。アジア諸国の動きは驚異的な速度で展開している。
 幸いに福岡県には現滑走路を3,000メートルに延ばし、また第2滑走路建設に即日にでもとりかかることができる北九州空港がある。

《国内拠点空港としての福岡空港

 福岡空港を九州における国内の拠点空港と考え、北九州空港を国際拠点空港として整備し機能拡充を急ぐ必要がある。両空港の機能をこのように整理することで麻生知事が言う「アジアとの交流拠点としての福岡県」造りの一助としての整備にあたればよい。
 この提言は、混雑状態が限界に達している福岡空港対策との関連で、というような小さな話でも、国も地方も借金まみれで財源が枯渇しているから既存のインフラを活かしてなどというものでもない。「アジアとの交流拠点としての福岡県」づくりという知事が県民に訴える観点から海外の玄関口としての空港をどうするのかという立場からのものだ。
 北九州都市圏という産業集積地に海上空港として立地し、24時間運営可能な北九州空港こそ国際拠点空港として整備する上で恵まれた条件を備えている。
 北九州空港の滑走路延長も第2滑走路建設も、県内における政財界の面子や都合を捨て一丸となればとりかかれる可能性は高いだろう。
 北九州空港の国際拠点空港としての整備はアジアとの交流拠点としての福岡県づくり、また、九州全体の経済にとっても最も重要な課題だ。

 新北九州空港を九州国際空港にしようという野望については、ブロハラでも何度となくその問題点や矛盾点を指摘してきました。今日からブロハラを読み始めたという人の為に箇条書きしておくと、以下の通りです。

  1. 新北九州空港の年間120万人強という利用実績が、年間283万人という需要予測を大幅に下回っている現状について、何等政治責任が明確化されていない。
  2. 「北九州都市圏から福岡空港を利用するのは不便だ」という事で新北九州空港を建設したのに、今度は福岡都市圏の航空利用者に新北九州空港の利用を強いようとしている。
  3. 福岡・北九州を発着地とする航空需要は殆どが国内線や支那大陸線などの近距離路線であり、滑走路延長や24時間供用によるメリットはごく限られている。
  4. 新北九州空港の建設費は決して安くなく、短期間に拡張しようとすればそれなりの費用に膨れ上がる。

 そして、今回のデータ・マックス社の提言は、新北九州空港への機能移転における新たな問題点を発生させました。それは、「東京や大阪で繰り返された内際分断の愚を、またぞろ福岡で繰り返そうとしている」という事です。



 東京や大阪のように、国内線と国際線とで利用空港が明確に分かれてしまう都市は、世界的に見ればそんなに多くはありません。ニューヨーク・ケネディ国際空港にしてもロンドン・ヒースロー国際空港にしても、成田空港や関西空港とは比較にならないほどの国内線が発着しています。一方で、日本人には余り馴染みのないニューアーク国際空港やロンドン・ガトウィック国際空港からも、相当数の国際線が発着しています。航空利用者の利便性を考えれば、国内線と国際線とが同一空港に発着しているに越した事はなく、内際乗り継ぎにおいて無駄な地上移動が発生する事は、地方在住者の海外旅行需要を減殺するだけでなく、来日外国人の地方観光需要をも減殺する事になります。
 それでもなお、東京や大阪が内際分断に踏み切らなければならなかったのは、偏に空港政策に余裕がなかったからです。成田国際空港が1978年に新東京国際空港として開港した時、既に東京国際空港は需給逼迫でパンク状態でした。そんな中、羽田空港よりも利便性に大きく劣る成田空港を航空会社に利用させる為には、「国内線は羽田、国際線は成田」という明確な基準で棲み分けさせざるを得なかったのです。そして、今では双方とも国内線・国際線の受け入れでパンク状態となり、羽田再拡張後の国際線全面開放もままならないのです。
 大阪の場合、東京ほど需給は逼迫していませんでしたが、大阪国際空港騒音訴訟により伊丹空港の利用が大きく制限される中、西日本の航空需要を満たす為には、やはり関西国際空港が必要だったのです。1994年の関空開港以来、「何故伊丹を廃港しなかったのか」という声が已む事はありませんが、関空で国内線旅客機が利用できるPBBが僅か10基少々しかない事(伊丹では24基)、現在の伊丹空港利用者数が関空開港前の国内線+国際線の水準を上回っている事などを考えれば、関空2期も神戸空港も具体化していなかった1994年時点では、伊丹空港を温存した事は寧ろ正解だったというべきでしょう。尤も、関空2期が暫定供用され始めた現在においては、関空2期の全面供用と引き替えに伊丹空港を廃港するという選択肢も考えるべきではありますが。

 では、福岡の場合、内際分断してまで航空需要に対応すべきかというと、事態はそこまで深刻化していません。確かに、滑走路1本当たりの発着数で言えば、福岡空港は日本でも有数の混雑空港ですが、多方面の旅客が発着する羽田空港伊丹空港とは異なり、福岡空港の場合は年間1,800万人近くいる旅客数の内、約半数の900万人近くが東京線の利用者です。更に、名古屋線大阪線の利用者も加えると、空港利用者の大多数は東名阪との往還客という事になります。
 高騰が続くケロシン価格や少子高齢化による移動需要の減少、更にはN700系の導入や九州新幹線の全通などによる地上交通機関の発達により、今後福岡空港の利用者数は緩やかに減少していく事が予想されます。国際線についても、東南アジア路線を中心に減便や撤退が相次ぎ、現在ではその殆どが支那大陸線という有様です。内際乗り継ぎに福岡空港を利用する向きはごく僅かですが、だからといって敢えて内際分断しなければならないほどの急迫性もありません。
 大阪=福岡線の利用者が東京=福岡線の利用者よりも多かった35年前ならいざ知らず、名古屋・大阪では東海道・山陽新幹線にジリ貧へと追い詰められ、東京線ですら旅客数が伸び悩んでいる現状を踏まえれば、福岡空港という現有リソースを如何に活用するかという視点で空港政策を考えるのが正着です。幾ら新北九州空港「低コスト」*1だからとはいえ、そこに福岡空港の国際拠点機能を移転するコストは決して安くありませんし、低ロードファクター・低イールドに喘ぐ航空会社であれば、「移転よりも撤退」と福岡或いは北九州に見切りを付けるケースも続出する事でしょう。そのリスクを冒してでもなお、精々年間200万人程度しかいない福岡空港の国際線利用者に不便を強いさせる事が適当なのかどうか、福岡空港新北九州空港との機能分担を訴える向きは改めて考えるべきでしょう。

 因みに、某所で仕入れた噂によれば、スターフライヤーが2010年の羽田再拡張後にも羽田=福岡線の就航を目論んでいるとの事です。真偽の程は定かではありませんが、もしこれが実現するような事があれば、新北九州空港は開港当初から共に歩んでいたはずの地元航空会社にすら不信任を叩き付けられるという事になります。麻生渡のメンツに懸けて、スターフライヤーの北九州撤退を認めるような事はないでしょうが、JALSFJともに東京=北九州線は順調な前年割れを記録していますから、実現性の多寡はさておき、経営判断としては決して悪くはありません。
 となれば、やはり注目すべきはスターフライヤーの2007年度下期決算でしょう。関空線の伸び悩みや燃油価格の高騰など、上期決算当時から更に事態は悪化しているのですが、果たして本当に黒字化されているのか、良くも悪くも注目の的です。もし、これで2007年度下期も赤字だったという事になれば、ドールキャピタルマネジメントの圧力によって、2010年を待たずして北九州空港から福岡空港へのシフトが始まる事になりそうです。尤も、ANAが羽田=福岡線で現在と同様のコードシェア運航を受け入れてくれるかどうかは、また別問題なのですが。

*1:実際には決して低コストではないという事は、ブロハラの過去記事で散々書いていますが。