五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

高校生の一夜漬けプレゼンテーション

 去る1月25日、六本木ヒルズにて第3回エコノミクス甲子園全国大会が開催されました。今回は、前回よりも観覧自体をオープンにしたからか、観客数もそこそこ多く、取材に来たメディアも多数ありました。結果については、大仏のいそうな某学園が空気を読まない逆転劇で優勝という、実に残念な盛り上がる展開でした。
 さて、今回のエコ甲全国大会で目立ったのは、第3ラウンドのビジネスアイデアプレゼンクイズでした。各地方の大会を勝ち上がってきた16チームを4グループに分け、新たなビジネスモデルをPowerPointでプレゼンテーションするというものです。インタビューによれば、4グループともほぼ徹夜になってしまったようですが、この配点が非常に大きいという事になれば、力も入るというものでしょう。
 このビジネスプレゼンテーション、4人の審査員が25点ずつの配点を持ちます。その内訳は、以下の通りです。

  1. 社会への貢献度(5点)
  2. 独創性(5点)
  3. 収益性(5点)
  4. 成長性(5点)
  5. プレゼンテーション技術(5点)

 実際の結果は他のブログ・メディア等に頼る事として、今回は私の目から見た各グループの短評・採点を載せておきます。


第1グループ:観光地における広告入り自転車の無料貸し出しサービス

 このグループのビジネスモデルは、「日本の主要な観光地において、観光客向けに広告入り自転車を無料で貸し出し、グリーンツーリズムの推進を促す」というものでした。要は、ラッピングカーの自転車版という事です。以下、私の採点メモから箇条書きで短評を載せておきます。

  • 自転車の何処に広告を掲載するのか、検討の形跡が見られない。下手な場所に掲載しようものなら、広告の視認性を著しく損ねる事になる。
  • モデル都市として挙げられていた名古屋や福岡において、土地勘のない不慣れな自転車利用者が快適に通行できる環境が未整備。両都市とも、都心部においてまで自動車社会であり、観光客が自転車で快適に移動できるとは言い難い。
  • 荒天時は自転車の利用が少なくなり、収益性も悪くなる。日本海側の都市では冬季の積雪による影響も大きく、経営基盤の安定性に乏しい。
  • 貸し出し用の自転車となると、自家用自転車よりも消耗は遥かに激しく、その維持コストも自家用自転車とは比べものにならない。また、安全管理という面からは定期的なメンテナンスが必要不可欠であり、その維持費はとても広告収入のみで賄えるものではない。
  • PowerPointにおける全角・半角の使い分けが雑。メディアリテラシーが高いとは言えない。

 という事で、以下が採点結果です。

社会への貢献度
4点
独創性
3点
収益性
2点
成長性
2点
プレゼンテーション技術
2点
合計
13点

 このビジネスモデルは、大都市よりも中小都市で有効でしょう。また、対象顧客層を観光客ではなく地元住民にも拡げた戦略を採れば、そこそこ面白くなるような気がします。盗難対策を兼ねて、全車両にGPS端末を搭載すれば、移動記録の統計・分析を含め、利用可能範囲はかなり拡がるでしょう。


第2グループ:観光地京都におけるバス情報総合案内システム

 このグループのビジネスモデルは、「京都市内を運行する複数のバス会社に自社のGPS端末を搭載してもらい、観光客向けに現在の運行状況や経路探索サービスを提供する」というものです。要は、NAVITIMEバス特化版という事です。以下、私の採点メモから箇条書きで短評を載せておきます。

  • 既存サービスとの差別化要素が見当たらない。同種のサービスは、既にNAVITIMEがトータルナビとして商用化している。
  • GPSを利用した運行情報の提供は、既にITSとして実用化されていて、各運行会社が自社サイトでリアルタイムの運行情報や到着予定時刻案内サービスを実施している。
  • 同一区間・類似区間を運行するバス会社は精々2社か3社であり、敢えて当サービスを利用しなければならないほど複雑ではない。
  • PowerPointは、文体表記・視認性とも配慮がなされており、見やすい。

 という事で、以下が採点結果です。

社会への貢献度
3点
独創性
2点
収益性
2点
成長性
2点
プレゼンテーション技術
4点
合計
13点

 要は、NAVITIMEで十分なんですよね。先行サービスのある所に新規参入しようとするなら、それなりの独自性というものが必要なんですが、このグループのビジネスモデルには、その独自性は皆無でした。これでは、永続的なビジネスモデルになどなり得ません。


第3グループ:高齢者向け高付加価値型健康維持提供サービス

 このグループのビジネスモデルは、「高齢者の自宅に健康診断用の器具を設置し、その情報をインターネットで取得する事により、各人向けの健康情報を配信する」というものです。要は、オンライン健康リサーチといった所でしょうか。以下、私の採点メモから箇条書きで短評を載せておきます。

  • 高齢者は、現役世代が思っているよりも健康に対する関心が薄い。2008年度から始まった特定健康診断においても、その受診率はかなり低い。
  • インターネットで情報収集しようにも、現在の高齢者は全般的にメディアリテラシーが高くなく、端末操作を忌避して三日坊主になる危険性が高い。
  • 加入者から月額2,000円以上の利用料を徴収しようにも、医療機関における自己負担割合が1割となる70歳以上の高齢者にとっては敷居が高く、逆に2,000円程度の利用料を苦としない高所得者層であればもっと高品質のサービスを利用したがる。
  • PowerPointの内容が発表内容とアンマッチを起こしている。

 という事で、以下が採点結果です。

社会への貢献度
2点
独創性
2点
収益性
1点
成長性
1点
プレゼンテーション技術
2点
合計
8点

 まぁ、市町村国保の現場で働いている人間からしてみれば、実に現実味のないビジネスモデルでした。インターネットがあれば何でも出来るというのは、物心着いた頃からインターネットが存在する世代がよく陥る思い込みです。現実の世界は、意外とオフラインで動いているものなのです。


第4グループ:からだ遊びプロジェクト

 このグループのビジネスモデルは、「小学校入学前の子供に、競争や勝利を目的としない身体を使った遊びをマンツーマン指導で教え、子供に身体を使う習慣を植え付ける」というものです。要は、「たいそうのおにいさん」を貸し切れるようなものです。以下、私の採点メモから箇条書きで短評を載せておきます。

  • 幼児期においては、個人行動だけではなく団体行動によって社会性を身に付けていく事も重要であり、1人で出来る身体遊びだけを教えるのは片手落ち。
  • 個人指導という事を差し引いても、毎月の月謝が2万円というのは高過ぎ。観覧席の保護者がざわめく程なのだから、ましてや一般家庭には浸透するはずもない。
  • サービス開始初期は公共の建物を利用するとの事であるが、公民館や体育館などの公営施設を一般企業が営利目的で利用する事は非常に困難であり、運営の安定性が確保できない。
  • PowerPointについては採点メモに記載なし。という事は、取り立てて書くほどもないレベルという事か。

 という事で、以下が採点結果です。

社会への貢献度
1点
独創性
2点
収益性
1点
成長性
1点
プレゼンテーション技術
2点
合計
7点

 最大の問題点は、「誰をターゲットとしているのか全然分からない」という事です。この点については、本物の審査員にも酷評されていた部分で、実際の審査結果においても最低点を記録していました。小学校入学前の幼児であれば、その教育については多くが親の問題であり、子供に運動の習慣を身に付けさせる為には、先ずその保護者が子供を運動させるという意識を持たなければならないのです。これから親になる世代は、少なからずマウスポテト族も含まれているのであって、親もしたがらない運動を、ましてや子供がしたがる訳がないという問題意識がなければ、この種のビジネスが成功する事は絶対にあり得ないでしょう。



 以上、気が付けば4グループとも酷評ばかりになってしまいましたが、これは要するに素人の思い付きによる起業ほど危険なものはないという事なんでしょう。こうしたビジネスモデルの穴を見付け、起業家に騙されないようにするのも、立派な金融知力の1つです。金融資産を投資に回そうとすれば、将来はビジネスプレゼンテーションを行った高校生自身が審査員の立場になるのですから。
 そういう意味では、最も騙されてはいけないのは、閉会式で大会の講評を行った野中ともよ氏でしょう。壇上でどんなに綺麗事を言ったって、彼女が三洋電機を潰したという事実に変わりはないのですから。「ワークシェアリングワークライフバランスも知らなくてどうする!」と高校生に苦言を呈するのはいいのですが、その両方とも三洋電機では全然見られなかったのは如何なものですかね(;´Д`)