五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

ケーブルカー火災事故で被告全員の無罪確定

 続いては、過失繋がりでこんなニュースです。

オーストリアのケーブルカー火災、被告全員の無罪確定

○控訴棄却、被告全員無罪 オーストリア・ケーブルカー火災事故

http://www.sankei.co.jp/news/050927/kok087.htm

 遺族の皆さんには酷かも知れませんが、妥当な判決でしょう。公共交通機関での重大事故においては、刑事責任追及よりも原因究明・再発防止を重視するのが国際的なトレンドです。その典型例が、米国の国家運輸安全委員会(NTSB)でして、何でもかんでも取り敢えず警察が刑事捜査に乗り出す日本の事故調査体制は、国際的にかなり「遅れている」というべきです。
 その日本においてすら、現場職員以外の刑事責任を追及する事は非常に困難であり、明らかに企業体質そのものに問題があるような事件でも、会社経営者の立件は見送られるのが通例です。今年だけでも、東武伊勢崎線竹ノ塚駅付近での踏切事故やJR福知山線尼崎駅付近での脱線事故など、会社経営者が刑事的に不問となった事故は数多く存在します。ましてや、ヨーロッパにおいて、会社役員の過失責任を追及しようなどというのですから、トレンドに逆行するだけではなく、元々非常にハードルの高いものでもあり、無罪判決は当然の結論と言うべきです。
 もし、どうしても会社役員の刑事責任を追及したいというのであれば、これは刑法の改正を待つしかないでしょう。私がSo-net blog時代に書いた事でもありますが、業務上過失致死傷の三罰規定或いは代罰規定を明文化する事なしには、会社経営者に刑事責任を負わせる事は不可能でしょう。勿論、これは「従業員の過失について代表者が責任を負う」という罪刑法定主義の外道に相当するものであり、一種の「無過失責任」になるという事で、刑法学上の様々な議論を引き起こす事になりますし、それだけ法制化は難しいという事にもなります。
 そして、様々な刑法学上のハードルを乗り越えて業務上過失致死傷の三罰規定や代罰規定を法制化した所で、所詮元となる罪は業務上過失致死傷ですから、どんなに重大な事故であっても上限は懲役5年、大抵は執行猶予付きの判決になってしまうのがオチです。被害者や遺族が溜飲を下げるような判決を下す為には、代罰規定や三罰規定だけではなく、業務上重過失致死罪の法制化も必要という事になります。日本の現行法上、民法上の重過失は故意とほぼ同一視されますが、刑法上の重過失は単なる過失として故意とは厳格に区別されます。この壁を乗り越えて、重過失犯は故意犯と同一に処断するという事にならなければ、死刑や無期懲役などの判決を下す事は出来ないのです。
 更に、業務上重過失致死罪の制定は、今までよりも事故当事者の原因隠蔽を助長してしまう事にもなります。現状ですら、刑事責任を逃れるべく、様々な原因隠蔽が行われているのに、その最高刑が引き上げられるとなれば、なおの事事故の原因究明は困難になってしまいます。業務上重過失致死罪の制定は、それと同時に現場職員の刑事免責を保障していく必要があるのです。
 私は、JR福知山線脱線事故を契機に、業務上重過失致死罪及びその代罰規定の必要性を強く感じるようになりましたが、残念ながらそれは世間一般的な考えではありません。しかし、当たり前の事ですが、「遺族感情」というものは遺族にしか分からないものです。今回の事件では全員無罪という結果に終わりましたが、業務上重過失致死罪及びその代罰規定が法制化され、遺族感情が刑事的に反映される日が来るよう、オーストリア・ケーブルカー火災事故犠牲者の遺族らは、JR福知山線脱線事故信楽高原鐵道正面衝突事故の遺族らと連帯し、刑法の改正を強く内外に訴えていくべきでしょう。