五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

車内迷惑行為に無力な駅係員

 今朝は、危うく会社に遅刻する所でした。幸い、始業時刻1分前に駆け込んで事なきを得たものの、京王新線があと1分遅れたら、「やはり代々木上原からタクシーに乗っておくんだった」と後悔していた事でしょう。意外と、新宿駅の乗り換えは時間が掛かるものです。
 当然ながら、普段から1分前に出社するような通勤をしているのではなく、今朝も通常であれば10分前に出勤できる程度の余裕を持って自宅を出ました。それなのに、ここまで薄氷を踏む思いをしたのは、私が車内迷惑行為の被害者になってしまったからです。そして、泣き寝入りする事なく、加害者を下北沢駅で突き出してきたからです。



 事の発端は、町田駅出発時点でした。大抵の高校が冬休みに突入した事もあってか、今朝の私は座る技術が不発でした。一応、二軍席に潜り込む所までは行ったのですが、丸一列誰も席を立たないというのであれば、それ以上私に出来る事はありません。単に、空席発生の読みが甘かっただけです。
 駅到着前後の私は、座る技術を最大限駆使すべく、着席している人間を隈無く見渡します。降車するであろう乗客の僅かな仕草も、その後の仕掛けを打つ為には、決して見逃す事は許されないからです。仕掛けの打ち方こそノータッチですが、着席客観察の重要性は、万大氏も私と同様に説いている所です。
 しかし、そんな私を何故か強烈な眼光で睨み付けて来る男がいました。それは、私の目の前に座っていた男です。町田駅到着前から周囲をキョロキョロと見回していた為、実際に降車するか否かは別段、私が重要監視対象にしていたのは言うまでもありません。その男は、何を勘違いしたのか、単に「降りるか降りないか」を気にしていただけの私を、「自分に対してメンチを切ってきた」と思い込み、町田駅を出るや否や、私に対してボソボソとこんな事を言ってきました。

「何だ、テメエはよぅ」

 身に覚えのない因縁を付けられた私にとってはいい迷惑なのですが、こういう時は、先に目を反らした方の負けですから、私も当然ながらこの男を睨み返しました。この睨み合いは、新百合ヶ丘駅到着までずっと続きました。
 新百合ヶ丘駅出発後、この男が目を反らして眠り始めたので、「やれやれ、漸くこのバカも諦めたか」と思っていたら、事もあろうか、この男は私の足を踏ん付けていたのです。しかも、こちらから足を退けてもなおピボットしながら踏ん付けてくるのですから、これは明らかに故意犯です。この男が時折目を覚ました際、逐一私を睨んできた事からして、既にこの男が確信犯となっている事は、疑う余地もありませんでした。
 本当なら、その場でこの男の顔面を殴り付けたかったところですが、それをやってしまえば単に私が傷害犯となるだけですから、逸る気持ちをぐっと堪えて、右手の拳は握り締めるだけに止めておきました。この手のトラブルは、先に手を出した方が犯罪者扱いとなるものですから、決して暴力に訴えてはいけないのです。唯一、暴力の行使が許されるとすれば、それは相手から暴行された時の正当防衛のみです。



 こうして、下北沢駅到着まで一切手出しをしなかった私ですが、最後の最後に来て堪忍袋の緒が切れてしまいました。それは、この男が下北沢駅で降りる際に、わざとドアとは反対方向に立っている私にタックルをかまし、その上で私を睨み付けてきたからです。こうなると、この男を無罪放免にしておく訳にはいきません。車内迷惑行為の被害者となりながらその摘発を躊躇するのであれば、最早私には車内迷惑行為そのものを批判する資格がなくなるからです。
 私は、逃げ去るように電車を降りようとするこの男の襟首を捕まえ、「おいテメエちょっと待てや!」と怒鳴り付けました。当然、この男も怒鳴り返しながら抵抗してきましたが、私はそれに躊躇する事なく電車から引き摺り下ろし、大声で近辺にいた駅員を呼びました。車内迷惑行為の事実を伝えると、駅員は私から引き剥がすようにこの男を取り押さえ、取り敢えず駅事務室で事情聴取する事になりました。
 改札口への階段を登る途中も、この男は駅員に取り押さえられながら必死に私へと怒鳴ってきました。後から書き起こすと、大体こんな遣り取りだったような気がします。

「何しやがんだテメエ、俺は何もしてねえぞ!」
「何もしてねえだと? ガン飛ばして因縁付けて足まで踏んで、何もしてねえと言い張るのかテメエは!」
「俺はずっと寝てたのに足なんか踏めるワケねえだろ! テメエがずっと因縁付けてきたんだろうが!」
「最初に因縁付けてきたのはテメエだろ! それに、寝てる人間が退けた足をわざわざ踏みに来るかよ普通!」
「いい加減にしやがれテメエ、殺すぞ!」
「言いたい事があるなら事務室で言え! 駅員さん、北沢警察呼んで北沢警察!」

 駅員に促され、一足先に駅事務室へと入った私ですが、なかなか加害者の男はやってきませんでした。こういう車内トラブルの場合、被害者と加害者とを同席させる事はしないので、その場では別室送りか何かと思ったのですが、それにしても事態の展開が遅過ぎます。これは何かがあったなと思って待っていると、さっきまで加害者の男を取り押さえていた副駅長が、私の所へ低い物腰でやってきました。

「お客様、大変申し訳ないんですが、相手のお客様が我々の制止を振り払って逃げてしまいまして、これ以上事実確認をする事が出来ないんですよ」
「えっ、逃げられちゃったんですか?」
「はい、我々としても非常に心苦しいんですが、何分我々には取り押さえる権限がないもので、無理矢理逃げられてしまうとどうする事も出来ないんですよ」
「そうだったんですか。それはそれは、お手数をお掛けして、申し訳ありませんでした」

 流石の私も、「強制力がない」と言われてしまえば、これ以上食い下がる事は出来ません。確かに、車内での警察権がある車掌とは異なり、駅長には駅構内での警察権はありませんからね。これが事実なのか、或いは単なる方便なのか、私には知る由もありませんが、ここはひとまず引き下がる事にしたのでした。



 それにしても、車内迷惑行為の加害者1人捕まえられないとは、駅係員の権限のなさに呆れてしまいます。偶然、周囲に鉄道警察隊員がいればまだしも、大抵の車内迷惑行為の検挙事例では、真っ先に加害者を突き出す相手は、ホームにいる駅係員なのです。全ての駅係員に警察権がなくても、せめて駅長くらいには駅構内での警察権を付与しなければ、「痴漢撲滅」など夢のまた夢でしょう。
 折角、「女性専用車」だの「車内迷惑行為防止条例」だので痴漢に対する締め出しが厳しくなっている風潮だというのに、「駅係員に権限がなくて逮捕できませんでした」では、見掛け倒しもいい所です。車内迷惑行為の摘発を簡便にし、鉄道会社への信頼を回復させる為にも、ここは是非鉄道会社に警察権の付与をして頂きたいものです。男性からも女性からも嫌われては、「女性専用車」も跡形なしです。