さて、私が九州へ行っている間に、またしても痛ましい事故が起きてしまいました。
○JR羽越線で特急が脱線転覆、乗客2人死亡・約30人負傷
○山形の脱線、女性検察事務官の遺体発見・死者5人に
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20051227STXKC079427122005.html
時節柄、どうしても今回の事故をJR福知山線脱線事故と関連付けて捉えたい向きが多くなってしまう嫌いもありますが、状況が明らかになるに連れ、段々と人災よりも天災の色が濃くなってきました。とはいえ、「今回の事故は不可避の天災である」と結論付けて終わってしまうのでは、行政やジャーナリズムの責任放棄でしょう。天災だからこそ、対策し得るリスクと不可避のリスクとを厳に峻別し、対策し得るリスクへの具体的な対策案を論じる事が必要なのです。そうでなければ、事故死した5名+αも、草葉の陰で泣き崩れてしまう事でしょう。
それにしても、今回の脱線事故は、遺族にとってはやるかたない事この上ないでしょう。JR東日本を追及しようにも、その過失責任を追及する事は物理的にも道義的にも困難でしょうし、かといって国土交通省の管理責任を追及しようにも、これといって過失らしきものは存在しません。それこそ、「恨むのなら天を恨め」といった状況なのです。
しかし、100%の安全が保障されている鉄道など存在しないというのもまた事実で、鉄道事業者やその監督省庁である以上、縦令不可抗力の天災であっても、その責任を負わなければならないのです。それは、単に金銭的な賠償責任といったものに限らず、事故の原因究明や再発防止といった社会的責任も含まれます。そして、原因究明や再発防止の為には、相当の出費や投資が鉄道事業者にも求められるものなのです。
となると、鉄道事業者に対しては、未知の災害に対応する経営的な冗長さが求められる事になります。勿論、事故を起こさない事が一番なのですが、絶対に事故が起こらない事などあり得ない以上、万が一の事故への備えが必要なのです。逆に言えば、突発的な安全投資が出来ないほど経営基盤が脆弱な企業には、鉄道事業者としての資格はないのです。
そういう意味で、高千穂鉄道が株主総会で潔く経営を断念したのは、鉄道事業者として当然の判断でしょう。
○経営断念を決議 高千穂鉄道、全社員解雇へ
http://www.sankei.co.jp/news/051227/kei063.htm
それでもなお、高千穂鉄道社長の黒木睦郎高千穂町長は一部区間の民間譲渡を諦めていないようですが、今回のJR羽越本線脱線事故*1を見れば、敢えて高千穂鉄橋などという火中の栗を拾う民間企業もいなくなる事でしょう。高千穂鉄橋に突風が吹き上げてくれば、水面からの高さ105mという東洋一の高さは、途端に凶器に変わりますからね。
それに、あわよくば財政的に余裕のある企業が高千穂鉄道の末端区間を譲受した所で、今回の脱線事故の印象が色濃く残っている内は、乗客も高千穂鉄橋なんかには近付きたくない事でしょう。トロッコ乗車中に突風を食らおうものなら、漏れなく高さ105mから岩戸川水面まで紐なしバンジーする事になりますからね。まぁ、究極的なスリル体験と言えなくもないのですが、こんな体験観光の販売は未必の故意による殺人そのものです。
取り敢えず、高千穂鉄橋での突風体験を買い上げてくれるとしたら、ビートたけしのお笑いウルトラクイズくらいですね。
- 出版社/メーカー: バップ
- 発売日: 2005/12/07
- メディア: DVD
- 購入: 1人 クリック: 8回
- この商品を含むブログ (70件) を見る