五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

スターフライヤーのサービスは利用者に受け入れられるか

 さて、新北九州空港の開港までいよいよあと2ヶ月と迫ってきたのですが、そういえば私はスターフライヤーのサービスについて全然触れていなかったような気がします。

○STARFLYER - Mother Comet

http://www.starflyer.jp/mothercomet/mothercomet.html

 スターフライヤーが運航するエアバスA320の特長は、以下の通りです。

  1. 通常170席*1クラスの座席を144席に削減
  2. シートは全席黒の本革貼り
  3. 各座席にPC用電源コンセントを設置
  4. 各座席に液晶テレビを設置
  5. 機内インターネット接続(予定)

 ローコストキャリアの定石とも言うべき「安かろう悪かろう」とは一線を画しているのですが、果たしてこの方法論が受け入れられるのか、私は些か疑問に思う節があります。というのも、こうした「付加価値戦略」が、東京=北九州の移動需要の多くを占めるビジネス客の需要と必ずしもマッチしているとは思えないからです。



 以前もANAの新エコノミーシート導入に際して軽く触れたのですが、航空機の座席の快適性を左右するのは、シートピッチよりもシートそのものの幅です。私の経験上、航空機の座席の居住性を高める為には、以下の項目から順番に改善していくべきです。

  1. 座面の左右幅
  2. リクライニング時の背もたれの角度
  3. 隣席との間隔
  4. ランバーサポート
  5. レッグレスト
  6. フットレスト
  7. 座席の前後間隔(シートピッチ)

 この中でも、特に私が重要だと思っているのは、1番及び2番です。一方で、シートピッチはリクライニング時に十分なクリアランスが確保できればそれでよく、徒にシートピッチを拡大しても、単にシートポケットが使い難くなるだけです。頻繁に乗客が移動する鉄道車両とは異なり、航空機の乗客は、飛行中は常に着席してシートベルトを締めているという事を忘れてはいけません。
 巷間よく「スーパーシートの廉価版」と言われるJALのクラスJですが、座面幅やリクライニング角度に限ってみれば、実はANAのスーパーシートプレミアムと大差なかったりします。勿論、B777-300で見た時に、スーパーシートプレミアムは2-3-2アブレスト、一方のクラスJは2-4-2アブレストと、スーパーシートプレミアムの方が1人当たりの専有面積は大きくなっているのですが、少なくとも私にとっては、スーパーシートプレミアムクラスJ5倍の付加価値*2があるとは思えません。クラスJが好評を博しているのは、プラス1,000円という追加料金の安さだけではなく、こうした「人間工学に基づいた快適さの追求」にもあるのでしょう。B777-246/346の普通席が続々と3-4-3アブレストに改悪されていくであろう今後、クラスJの快適さはなおクローズアップされるものと思われます。
 翻って、スターフライヤーA320です。プレスリリースだけを見れば豪華に感じるこのA320ですが、私が実際に使ってみたらどう感じるであろうか、項目別に検討してみました。


1.144席のゆったりした座席配置

 機内に入った当初は「おっ、ゆったりしているな」と思うかも知れません。しかし、実際に着席した時の感想は、大体予想が付きます。

「せ、狭い……(;´Д`)」

 スターフライヤーA320は、シートピッチこそクラス最大を誇っていますが、その横幅に関しては一切触れられていません。という事は、スターフライヤーの座面幅は、恐らくANAのA320やその他在来機材と大差ないという事なのでしょう。隣席との間隔にしても、座席の写真を見る限り、在来機の普通席と大差があるようには思えません。3人が横並びでキッチリ座ってしまったら、早速肘掛け争奪戦が起こるような気がします。私のようなデブの場合、座席にヘッドホンを差し込むと、太腿でコードが折れ曲がるという事にも注意しなければなりません。
 そして、シートピッチを拡げた事で気になるのは、テーブルやポケットの使い勝手です。当然ながら、肘掛けの中にテーブルを収納できる構造ではありませんから、前席のシートバックからテーブルを下ろしてくる事になります。また、「安全のしおり」や機内誌は勿論、持ち込みの新聞や雑誌をしまっておく収納ポケットも、やはり前席のシートバックに設置される事になりそうです。そうなると、前席との間隔が空きすぎてしまうと、却ってこれらのテーブルやシートポケットが使い難くなるだけです。航空機においては、シートベルトを締めたままテーブルやシートポケットを使わなければならないという事も、忘れてはなりません。
 クラスJにしろスーパーシートプレミアムにしろ、テーブルは肘掛けに収納されていますし、最近では鉄道車両でもテーブルを肘掛けに収納するケースが増えています。前席のリクライニングに影響される座席テーブルは、余り使い勝手はスマートではないでしょう。ビジネス客の多いスターフライヤーなら、なおさらの事です。


2.黒の本革貼りで質感溢れる豪華なシート

 これは、純粋に見た目の問題ですね。そりゃあ、撥水性を考えれば布貼りよりもメンテナンスフリー*3なんでしょうが、乗客にしてみれば、本革貼りというのは余りメリットがありません。革シートの真髄は、長時間座っていた時の座り心地の良さにあるのであり、東京=北九州のような近距離路線では、余り革シートの有難味を感じる事が出来ないでしょう。寧ろ、夏の湿っぽさや冬の冷たさによる不快感の方が、革シートの印象として記憶に残るのではないでしょうか。
 もう1つ、革シートにしても布シートにしても同じなのですが、シートの快適性や安全性を決定するのは、シートの材質よりも寧ろシートの形状です。どんなに高級な材質を使ったところで、シートの設計を間違えてしまっては、快適どころか危険なシートになるのです。実際、国産「高級車」の多くは、この部分での履き違えが多く目立ち、「ざ・総括!」などで酷評される原因となっています。最近の「高級車」で、そのシートが最悪だと言われたのは日産のティアナなのですが、その日産自動車スターフライヤーの主要株主でもあります。何だか、今から本革貼りシートの出来上がりが心配になってしまいますね。
2006-01-15 追記】
 このティアナ、よく考えたら苅田町にある九州工場で製造しているのでした。日産自動車九州工場は、現北九州空港における最大のお得意様であると同時に、新北九州空港において最もその利用が期待されているヘビーユーザーでもあります。日産自動車スターフライヤーの株主となったのは、この九州工場の存在によるところが大でしょう。
 こうなると、スターフライヤーの本革貼りシートがどのような出来になるのか、今から想像が付いてしまいますね。なまじ人間工学に基づくまともなシートを造ってしまうと、却ってヘビーユーザーの日産自動車から「座り心地が悪い」などとクレームが付いてしまいそうです。頼むから、スターフライヤーに「モダンリビングの考え方」なんか持ち込まないで欲しいものです。


3.各座席にPC用電源コンセントを設置

 これは、二重の意味で不要な設備でしょう。というのも、東京=北九州では所要時間が短過ぎて、

  1. ノートパソコンのバッテリーを使い切る事はない。
  2. パソコンでまともな作業をこなせるほど時間がない。

 という問題があるからです。現時点でのダイヤでは、羽田=新北九州のブロックタイムは往復とも1時間35分ですが、地上走行中や離着陸時は全ての電子機器を使用する事が禁止されますから、パソコンを開いて作業できる時間など、長くても1時間とありません。座席幅の狭さにより作業効率が落ちる事を考えれば、機内でパソコンを開いて出来る事など、精々メール送受信やウェブブラウズくらいのものです。5分や10分でチョチョイのチョイと資料作成しようと思っても、なかなか終わらないものです。
 縦しんば、機内でのノートパソコン利用環境が改善されたとしても、実際に機内で作業する人など、そう多く現れるとは思えません。日頃からパソコンで仕事をしている人間であれば、航空機での移動中くらい、ディスプレイなんか見ないでゆっくり寝たいと思うからです。せめて、機内でノートパソコンを使わせようというのなら、何処に差し込むのかも分からないコンセントなんか設置するより、キーボード入力をするのに十分な肘掛けスペースでも提供すべきです。両隣の乗客に配慮しながら腕を縮こめて作業するなど、私はまっぴら御免ですね。


4.各座席に液晶テレビを設置

 これは、いいとも悪いとも言えませんね。取り敢えず、液晶テレビというインフラが提供されるのはいいのですが、問題はそこで何が放映されるかです。何処かのJALのように、液晶テレビはあるけど何も映さないというのでは、液晶テレビは無用の長物です。もっと言うなら、液晶テレビがある分、本革貼りシートの背もたれが薄くなり、座り心地が悪くなるだけです。
 取り敢えず、スターフライヤーAVODに対応する事なんかないんでしょうが、それにしたって最低5チャンネルから10チャンネル程度はコンテンツを用意する必要があるでしょう。また、東京=北九州のようにリピーターが多い路線であれば、コンテンツの定期的な更新も欠かせません。ハードを充実させればさせるほど、コンテンツの作り込みも大変になります。果たして、どれだけ顧客満足度を高められるビデオプログラムを提供できるのか、私は今から気になってしまいます。まぁ、こういう時の逃げ道として、機外カメラやナビゲーションマップといった労力ゼロのコンテンツもあるんですけどね。ろくにコンテンツを作り込めないのなら、最初から個人用テレビは機外カメラ・ナビゲーションマップ専用と割り切った方がいいでしょう。
 液晶テレビに関して、もう1つ気になる事があります。それは、回線不良などによる故障が頻発するという事です。何度かJAL国際線に乗っている人であれば、MAGICがどれだけ打たれ弱いかというのは十分にご存知でしょうが、B777-289レインボーセブン)の個人用テレビも、なかなかどうしてオーディオとビデオとの切り替えが故障する事が多かったりします。電気系統のトラブルはある程度不可避の部分もあるのですが、果たして個人用テレビのランニングコストはどの程度になるのでしょうか。スターフライヤーがそのメンテナンス費用まで計算して個人用テレビの設置を決定したのか、私は甚だ疑問でなりません。


5.機内インターネット接続(予定)

 最後に、将来構想の機内インターネット接続です。前述の通り、私は国内線の機内でノートパソコンを広げる人間の心理が理解できないのですが、せめてノートパソコンを利用するのであれば、インターネット接続環境は必須だと思っています。1作業のユニットが短く、1分や2分でも有効にノートパソコンを使うとなれば、精々メール送受信やウェブサイト巡回くらいしかやる事がないからです。
 この機内インターネット接続がどれだけ利用されるかは、恐らく無線LAN接続で提供されるであろうこのサービスを無料で提供できるか否かに懸かっています。フライトタイムが8時間を超えるような長距離路線ならいざ知らず、たったの30分や1時間インターネット接続するのに料金を取られるというのでは、「目的地に着くまでインターネットは我慢するか」とする向きが多く出てくるのは必至です。昨今では、インターネットは常時接続・定額料金というのが常識になりつつありますから、なおさら従量課金による無線LAN接続のディスアドバンテージは目立ってしまいます。ある程度スループットを抑えてでも、無料接続は死守すべきでしょう。



 以上、スターフライヤーの新サービスを一通り眺めてきましたが、どうも私に馴染むサービスは1つもなさそうです。ひょっとしたら、私の方が世間ズレしているのかも知れませんが、スターフライヤーが「単なる物珍しい存在」で終わらないよう、就航前・就航後とも、真の顧客ニーズを見失わないようにして欲しいものです。新北九州空港は失敗しても構いませんから、スターフライヤーだけは何処かに活路を乱して欲しいものですね。
 しかし、こんな記事が平然と世の中に出てくるようでは、スターフライヤーの先行きも意外と真っ暗なのかも知れません。

○チャレンジ精神+デザインのパワーで新しいビジョンを示す

http://premium.nikkeibp.co.jp/sscf2006/df2/

 何故か、nikkeibp.jpの記事なのにノーマークだったのですが、記事の内容を見てぶったまげました。

我々が用意する機体(エアバス A380)では、通常のエコノミークラスより12センチから15センチも広いピッチで座席の間を設計しています。

その中で北九州市から『2006年6月に北九州新空港が開港するのに合わせて、新しい航空会社を立ち上げるので手伝ってほしい』という話を受けたのです

 ちったあ推敲しろ、日本SGI( ´゚д゚`)



 そういえば、スターフライヤーといえば「黒い飛行機」なのですが、私がこのカラーコンセプトを初めて聞いた時に思わず口ずさんだのは、こんなフレーズです。

黒い服は死者に祈る時にだけ着るの

 正解は、トヨタ・ウィッシュのCMソングにもなったこちらです。

COLORS

COLORS

 名曲です(つ´∀`)つ

*1:但し、Airbus Japanの公式サイトではモノクラス164席、Wikipedia日本語版では標準150席として紹介されています。ANAにおいては、モノクラス166席で運航されています。

*2:スーパーシートプレミアムの当日アップグレード料金は5,000円、クラスJ料金は1,000円です。

*3:とはいえ、革シートの採用による清掃時間の短縮を必要とするほど、スターフライヤーのターンアラウンドタイムは短くないんですけどね。