五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

JALマイレージバンクたびカードの先に見えるもの

 JALに関しては、運賃以外にも動きがありました。それは、先週末に発表された「JALマイレージバンクたびカード」なるサービスの開始です。

JALマイレージバンク - 「JALマイレージバンクたびカード」新登場!

http://www.jal.co.jp/tabi-card/

 恐らく、現在の旅クラブに代わるサービスとなるのでしょうが、内容はかなり異なります。特に大きく変わるのは、そのボーナスマイルです。何と、国内線だと往復500マイル、国際線なら往復1,000マイルものボーナスマイルが発行されます。現在の旅クラブは、国内線だと片道50マイル、国際線だと片道100マイルですから、単純計算でボーナスマイルが5倍にもなるのです。

JALマイレージバンク - 旅クラブのご案内

http://www.jal.co.jp/jmb/tabi/guide.html

 しかし、このJALマイレージバンクたびカード、単にボーナスマイルを増やすという事ではなく、そこには色々な罠があるのでした。そして、これらの罠を紐解いていくと、JALの中長期的な戦略が見えてきます。「ボーナスマイルが5倍!」と単純に喜んでいると、とんでもない落とし穴に填る事になりそうです。ここでは、JALマイレージバンクたびカードの特長から、JALが何処へ行こうとしているのかを検討してみましょう。



 現在の旅クラブと4月以降のJALマイレージバンクたびカードとを比較すると、以下のような違いがあります。

  1. 入会金(年会費は双方とも無料)
    • 旅クラブ:アンケート回答により無料
    • たびカード:有料(1,000円/2006年9月30日までは無料)
  2. 特典対象運賃
    • 国内線
      • 旅クラブ:バーゲンフェア・バースデー割引・前売り21・個人包括旅行割引運賃
      • たびカード:JALツアーズ・J-TAP・JALトラベルの個人包括旅行割引運賃
    • 国際線
      • 旅クラブ:JAL悟空・JAA悟空・個人包括旅行運賃・団体包括旅行運賃
      • たびカード:I'll・AVA・Century・VIVAの包括旅行運賃
  3. 初回搭乗ボーナスマイル
    • 旅クラブ:200マイル
    • たびカード:500マイル
  4. フライト毎のボーナスマイル
    • 国内線
      • 旅クラブ:片道50マイル
      • たびカード:往復500マイル
    • 国際線
      • 旅クラブ:片道100マイル
      • たびカード:往復1,000マイル
  5. 多頻度搭乗ボーナス
    • 旅クラブ:特典対象運賃での搭乗6回以上でプレゼントあり
    • たびカード:なし
  6. 会員証
    • 旅クラブ:なし(JALカードまたはJMBカードを使用)
    • たびカード:専用カードあり(JAL ICサービス対応)
  7. ボーナスマイル積算方法
    • 旅クラブ:フライトマイル受付によって自動積算
    • たびカード:JALマイルレコーダー*1で手動登録の必要あり

 こうやって双方の差異を並べてみると、2つの命題が見えてきます。それは、「JAL系ツアーへの誘導」及び「JAL ICサービスへの誘導」です。



 先ず、JAL系ツアーへの誘導ですが、これは露骨でしょう。従来は、バーゲンフェアやJAL悟空といった格安運賃でも*2ボーナスマイルを獲得する事が出来たのですが、今回は包括割引運賃のみ、それもJAL系の旅行会社が主催するツアーのみが対象だというのですから、明らかな旅客の囲い込みです。ここへ来て、JALSTAGEとそれ以外とでIITの予約クラスを分けている意味も出てきたというものです。
 一見、こうした包括割引運賃への誘導は、却ってJALのイールドを下げるようにも見えます。というのも、国内線にしろ国際線にしろ、航空会社が直接旅客に販売する格安運賃の類は、包括割引運賃よりも高い運賃に設定するのが常だからです。それを敢えて包括割引運賃に誘導するのであれば、その理由は以下の何れかでしょう。

  1. 個人運賃との差額を上回るJAL系ツアーでの利鞘の存在
  2. バーゲンフェアやJAL悟空など格安運賃の販売抑制
  3. 正規割引運賃の利用によるボーナスマイル加算の抑制

 1番や2番は直ぐに思い付きそうな所ですが、意外と見落としがちなのは3番です。ダブルマイルキャンペーンやステップアップボーナスマイルキャンペーンなど、JMBにおける種々のキャンペーンでは、包括割引運賃(国内線IITを含む)を対象外とする事がままあります。目先の価格に釣られて、1,000マイルや2,000マイルといったボーナスマイルを逃すJMB会員は、意外と多いものです。
 それにしても、JALトラベルが一丁前にたびカード対象商品の一員になるとは、時代も変わったものですね。ジャパンツアーシステム時代は「JALSTORYのパチモン」というイメージが強かったものですが、最近ではJTSの略称すら知らない人が殆どになっているような気がします。果たして、後藤民夫氏がJALトラベルの出世を知ったら、どんな心証を抱くんでしょうかね。



 次に、JAL ICサービスへの誘導ですが、これはある意味苦肉の策でしょう。2年前に始まったJAL ICサービスですが、タッチ&ゴーのメリットが余り広まらなかったのか、普及率は非常に低いようです。更に、JALカード会員の場合はクレジットカード番号も変わってしまうという問題がある為、積極的にJAL ICカードへと切り替えようとしていないのが実状です。それでも、JALカード会員であれば、カードの更新と同時にJAL ICカードへと自動的に切り替わりますが、一般のJMBカードともなると半永久的にカードを使えてしまう為、余程のインセンティブがないと、JAL ICカードへの切り替えは進まないでしょう。
 2005年度のJALは、色々とJAL ICサービス向けのキャンペーンを展開してきました。ICチェックイン限定のステップアップボーナスマイルキャンペーンや旅クラブでのJAL IC利用クーポンプレゼント、はたまたFLY ONステータス会員向けのICクラスJクーポンなど、様々なキャンペーンがあったのですが、なお遅々としてJAL ICカードへの切り替えは進んでいません。結局、どれもJMBそのものによるサービスである為、新たにJAL ICカードを作ろうというモチベーションに乏しかったのでしょう。
 その点、JALマイレージバンクたびカードは、JMBと会員組織を異にするという方法で、JAL ICカード発行のモチベーション付けを図ってきました。JALマイレージバンクたびカードについては、JMBカード会員やJALカード会員は勿論、既にJAL ICカードを持っている人であっても、新規に会員証を発行する必要があります。そこにJAL ICサービスの機能も搭載されているというのですから、これは自然とJAL ICカードの発行者数も増えていくというものでしょう。
 では、そこまでしてJAL ICサービスへとJMB会員を誘導するは何なのかというと、以下の3つが考えられます。

  1. ICチェックインの普及による地上職員の削減
  2. 少額マイルでの特典交換用途の拡大
  3. マイル価値の切り下げによるマイル負債の相対的圧縮

 特に大きいのは2番・3番で、特典航空券に交換される前にJAL IC利用クーポンに交換させるというのが、JAL ICカードを普及させようとする最大の目的でしょう。しかも、これによって大多数のJMB会員が抱える「結局マイルを貯めても特典に交換できない」という不満を幾らか和らげる事も出来るのですから、JALにとっては一石二鳥です。マイレージの有効期限が非常に短いJALやANAの場合、電子マネーへの交換という逃げ道は必要不可欠であるとも言うべきです。



 そして、この2つの狙いから、JALの最終目標が透けて見えてきます。それは、ツアー系運賃でのマイレージ積算の終了です。個人運賃や他社包括割引運賃の旅客に対する囲い込みも、JAL ICサービスへの誘導によるマイル交換サイクルの短縮化も、見事にこの最終目標と合致するのです。
 冷静に考えれば、国内線の往復500マイルというボーナスマイルは、IITで東京羽田=札幌千歳を往復した時のフライトマイルにほぼ相当します。それ以外でも、沖縄線以外は精々500マイルか600マイル止まりで、ボーナスマイルとフライトマイルとがほぼ拮抗するのです。こうなれば、JALがボーナスマイルの付与と引き替えにフライトマイルの付与を廃止しようとしていると見るのが正着であり、ライトユーザーに対しても「一律500マイル」と説明した方が分かり易くもなるでしょう。
 一方、国際線においては、往復1,000マイルとなると近距離国際線相当という事になり、結構少ないものになってしまいます。しかし、海外ツアーでは航空会社が確約される事が余り多くなく、JAL確約ツアーにしても、「マイルが貯まる」という事よりも「日本語が通じる」という事の方が重要視されますから、余りフライトマイルの積算は重要視されません。だからこそ、思い切ったマイル積算終了にも踏み切れるというものです。
 上述した通り、包括割引運賃は各種キャンペーンで対象外になる事がままあります。それに加えてフライトマイルも積算されないというのでは、一般的なJMB会員にとってはマイルの獲得が非常に困難になってしまいます。500マイルや1,000マイルといったボーナスマイルで喜んでいる場合ではないのです。
 更に言うと、包括割引運賃のフライトマイル積算終了は、FLY ONステータス上級会員やJALカード会員にも大きな影響を及ぼします。何せ、これらの会員に対する搭乗毎のボーナスマイルや初回搭乗ボーナスマイルは、マイル積算対象運賃での搭乗が前提となりますから、包括割引運賃がマイル積算対象外という事になると、区間マイルの25%といったボーナスマイルも取得する事が出来なくなるのです。これは、非常に痛い改革でしょう。逆に言えば、だからこそJALもやり甲斐があるというものです。

 なお、一連の包括割引運賃改悪を避けるべく、JALのoneworld加盟後にAsia MilesやAAdvantageでツアー運賃を加算しようという向きもあるでしょうが、どうせ無駄な努力に終わります。何故なら、割引運賃のマイル積算率はoneworld加盟各社の裁量に委ねられているのが実状であり、殆どの航空会社ではツアー運賃をマイル積算対象外としているからです。結局、何も貯まらないよりは500マイルでもくれた方がマシという事になり、JALマイレージバンクたびカードに入会せざるを得なくなるのです。
 取り敢えず、私はこのJALマイレージバンクたびカードを申し込もうかと思っています。マイルが貯まらなくなる云々という事ではなく、手持ちのJALカードが更新される2009年4月までの繋ぎとしてJAL ICカードが欲しいからです。それも、タッチ&ゴーなんてのはどうでもよく、午前4時からのWebチェックインで空港枠の座席を指定したいというだけの話です。レインボーセブン運航便によく当たる私としては、これって意外と重要な問題だったりするのです。同じ1,000円なら、旧レインボーシートよりも旧スーパーシートに乗りたいですからね。

*1:国内線利用時は、空港内の国内線自動チェックイン機での登録も可能。

*2:2004年度までは、運賃種別に関係なくボーナスマイルを獲得する事が出来ました。