五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

関空開港12周年

 9月4日は、関西国際空港開港記念日です。

関西国際空港ホームページ

http://www.kansai-airport.or.jp/

 1994年に関西国際空港が開港してから12年の歳月が経ちましたが、この12年間で航空業界には様々な事がありました。その中には、関空会社の予想できる事もあれば予想できない事もあり、また関空にプラスとなる事もあればマイナスとなる事もありました。しかし、関空開港前から常に変わらない事は、何故か関空の評価が低過ぎるという事です。
 そこで、今回は以下の3点から「決して関空は悪くない」という事を書いてみようかなぁと思います。

  1. 関空へのアクセス
  2. 関空の建設費
  3. 関空の将来性

 はい、そこ! 「また泉ズリアが……」とか言わないの( ´゚д゚`)


1.関空へのアクセス

 現在、関空に向かう主な交通手段は、以下の4つと言ってよいでしょう。

  1. 南海電車
  2. JR阪和線
  3. リムジンバス
  4. 自家用車

 私は、自家用車以外の全ての手段で関空に行った事がありますが、基本的には難波からラピートのスーパーシートに乗っています。都心部から最も所要時間が短く、インターネットや携帯電話*1からチケットレスで予約・購入できるのが便利です。普通席ではなくスーパーシートにしているのは、差額が200円とチップ2枚安価なだけでなく、人口密度が目に見えて下がるからです。お陰で、誰の目を気にする事もなく551蓬莱の豚まんを頬張る事が出来るというオマケ付きです。
 さて、これらの空港アクセスなんですが、利用者の不満は主に以下の3つに集約される事でしょう。

  1. 運賃・特急料金が高い
  2. 本数・便数が少ない
  3. 空港までの所要時間が長い

 この内、特に不満が多いであろうものは、運賃・特急料金に関する不満でしょう。大阪市内からで考えても、伊丹空港までなら620円で行けるものが、関西空港となるとリムジンバスでも1,300円、ラピートに乗れば普通席でも1,390円と倍以上の運賃になってしまいます。京都市内や神戸市内からだと、この運賃差は更に大きくなりますから、それだけ不満の声も大きくなる事でしょう。
 しかし、この1,300円から1,400円といった運賃は、国内他空港と比べても決してボッタクリとまで言える水準ではありません。主要空港だけでも、都心部へのアクセス運賃が1,000円以上になるものはこれだけあります。

 羽田空港にしても、リムジンバスで新宿・池袋に行けば1,200円掛かりますし、伊丹空港にしても京都・神戸からのリムジンバス運賃は1,000円を超えます。更に言うと、上記のリストは成田空港を最初から除外していますから、なお1,000円以上のアクセス費用を強いられている空港利用者は多いという事になるのです。
 所要時間については、コメントするにも値しません。現在、大阪都心部から関空への所要時間は、平均で40分から60分前後に落ち着いています。福岡空港松山空港などのような市街地近接空港ならいざ知らず、一般的な国内の空港では、アクセス時間が40分から50分も掛かるなどというのは寧ろ標準的であり、1時間を軽く超える事すら珍しくありません。空港直通電車やリムジンバスから乗り継ぐ二次アクセスの事まで考えれば、なお所要時間における関空のディスアドバンテージは軽減されます。確かに、伊丹空港から大阪市内へはリムジンバスで20分もあれば到着しますが、これは国内でも極めて異例の近さであり、それを関空と同じ土俵の上で論じる事自体が間違いというものです。
 別に、「他空港のアクセスコストが高いから関空も高いままでいい」とは思いませんし、利用者としても「もっと安くなれば使い勝手が良くなるのに……」と思う事もままあります。しかし、伊丹空港との単純比較のみで関空アクセスを「高い」「遠い」などと斬り捨て、剰え関空そのものの存在意義を否定するような発言は、関空の利用促進を徒に妨げるだけでなく、関空そのものに対する誤った先入観を利用者に植え付ける事にもなります。利用者が愚痴紛れに言うのならまだしも、航空会社やマスメディアがこうした単純比較・単純否定に陥るようでは、キャリア失格・メディア失格としか言いようがありません。
 最近では、南海電車が各種の割引きっぷを発売するようになり、関西空港交通の往復割引も少しずつ充実してきています。

○ラピート得10回数券・ラピート得ダネ往復券

○運賃・標準所要時分表

http://www.kate.co.jp/pc/lim_guide/lim_low.html#unchin

 しかし、ラピートの割引きっぷはPiTaPaや特急チケットレスサービスとの親和性がありませんし、リムジンバスの往復割引は大阪市内や神戸三宮といった主要目的地が設定対象外になっています。更に言うと、こうした地上交通機関各社の施策が関西圏以外では殆ど知られていない為、特に首都圏在住者において「伊丹=安い」「関空=高い」という先入観が過剰に植え付けられてしまっています。自社の利用促進の為にも、これら地上交通機関各社は、関空会社と連携の上、関空利用なら□□まで○○円で行ける!」といった具体的な関空利用促進キャンペーンを各地で展開すべきでしょう。その際に、各地の利用者の眼鏡に適うだけの便数や運賃を用意しておかなければならない事は、言うまでもありません。


2.関空の建設費

 関西国際空港は、国内で例を見ない大規模な空港プロジェクトです。その総事業費は、一期事業だけでも1兆5,000億円、二期工事まで含めれば3兆円近くにも上り、世界的にもこれだけ大規模な空港建設は空前絶後でしょう。現在、その建設が取り沙汰されている新福岡空港ですら、反対派の予測する数字でも2兆円前後に留まっているのですから、如何に関空が大規模なプロジェクトであるかがよく分かるというものです。
 この3兆円という総事業費が桁外れに高額なのは、私も認めざるを得ません。総事業費が高額になったが故に、航空会社を含む空港利用者の負担額も高くなり、それが関空の評価を著しく下げている事、ひいては関空の利用意欲をも阻害している事は、厳然たる事実です。また、プロジェクト遂行において予算管理に杜撰な部分があったのも事実で、これについての批判は厳粛に受け止める必要があるでしょう。
 しかし、関空の評価を総事業費の多寡でのみ捉える事は、関空の業績を徒に貶める事であり、空港事業の評価として決して正しいものであるとは言えません。羽田空港や成田空港のように、どんなに事業費が高騰してもそれを正当化するだけの需要がある空港もあれば、新北九州空港のように事業費が比較的安いだけの無駄空港だってあるのです。関西国際空港という空港事業を評価するに当たっては、少なくとも以下の3つの業績を踏まえて判断すべきでしょう。
 1つは、「ゼロからの海上空港建設」という前人未踏の偉業を成し遂げた事です。羽田空港長崎空港のように、既存の陸地に継ぎ足して埋め立てを実施した形での海上空港・半海上空港であれば、関西国際空港の前にも幾つか実例が存在します。しかし、水深20m近くもある軟弱な海底地盤をゼロから埋め立て、航空機の離着陸に耐え得る人工島を造成したのは、関西国際空港が世界初です。中部国際空港神戸空港といった後発の海上空港は、関西国際空港建設時のノウハウがあったからこそ実現可能になったという事は、忘れてはならないでしょう。
 また1つは、「非の打ち所がない騒音対策」を国内で初めて達成した事です。関西国際空港は、B727DC-8が主力だった頃に計画された事もあって、陸地から3.5kmも離れた沖合に建設されています。また、関空発着便の離着陸経路も、出来るだけ陸地での騒音被害を発生させないよう、海上飛行を前提として設定されています。それが故に、関西国際空港連絡橋を含む建設費の高騰やアクセスコストの高騰、更には関空発着便の所要時間増大という弊害が発生し、航空会社を含む空港利用者の不満に繋がっています。しかし、ここまで徹底的な騒音対策に踏み切ったが故、関西国際空港は運用時間や発着便数の制限から自由になれたのです。大阪国際空港が騒音被害を理由に大幅な運用制限を強いられていた事を考えれば、この自由さは決して単純に金銭化できるようなものではありません。NARA Reversal 1 Dep.における高度8,000ftでの地上飛行にクレームが付いたのも、それだけ関空発着便による騒音被害が少ない事の裏返しであると考えるべきでしょう。
 もう1つは、「就航率の高い安定した空港」を関西圏で確保した事です。関西国際空港は、両側ILSの設置や各種の自然災害対策などにより、気象条件に因らない安定した運航環境を確保しています。広島空港や熊本空港のように濃霧で悩まされる事もなければ、中部国際空港新北九州空港のように横風で悩まされる事もありません。勿論、新千歳空港函館空港のように豪雪で離着陸できなくなる事もありません。海上空港というと、どうしても陸風や海風といった横風が航空機の離着陸を阻害する要因になりがちなのですが、関西国際空港の場合、陸地から3.5kmも離れた場所に建設された*2事で、陸風や海風の影響を最小限に留めています。寧ろ、航空機の離着陸に適した滑走路方向の風が卓越する事により、連絡橋が横風制限を受けて通行できなくなってしまう事の方が目立っている有様です。最近では、連絡橋の横風対策により、鉄道の運休や代行バスの運行も少なくなり、ますます関空の「強さ」が際立っている状態です。開港直後の阪神・淡路大震災を乗り越え、数多の風雨災害をも乗り越えてきた関西国際空港は、日本において最も就航率が高い空港の1つである事は間違いないでしょう。強靱なインフラは、やはり金銭に換算できない価値を持つものです。
 これらの事を考えれば、3兆円という総事業費も、決して単に高いだけと斬り捨てられるものではないでしょう。この3兆円という費用の見返りに、大阪・近畿或いは日本は、有形無形の財産を得る事に成功したのです。3兆円を投じたからこそ得られたものについて、関空会社はもっと日の当たる所にその存在を大きく呈示すべきでしょう。


3.関空の将来性

 関西国際空港に対しては、「これ以上投資に見合った実績が見込めるのか?」という批判が何時も付きまといます。確かに、想定外だった伊丹空港の存続や神戸空港の開港、更には米国同時多発テロ原油価格の暴騰などにより、関空の利用実績は当初想定よりも伸び悩んではいます。しかし、航空政策次第によっては、関空は現状よりも更に飛躍的な発展を遂げる可能性を秘めているのです。
 言うまでもなく、関空に最も有効な政策は、伊丹空港の廃港ないし大幅な運用制限の強化です。抑も、関空開港後も伊丹空港が存続した理由は、「関空一期事業だけでは関西圏の需要を賄いきれないから」というものであり、特に受け入れ基盤が弱い国内航空需要に応える為に、伊丹空港は国内線の専用空港として新たな出発を遂げたのです。関空二期事業の完成により、少なくとも朝夕の混雑時間帯における発着枠は十分な余裕を持つ事が出来るのですから、この時点で伊丹空港の存続意義は大きく棄却されます。あとは、ターミナルビルの増設による旅客・貨物の処理能力補強が実現されれば、いよいよ運用制限の大きな伊丹空港はその役割を関空へと譲り渡す事になります。
 伊丹廃港により、特に対東京輸送で新幹線に大きく後れを取る事になるものと思われますが、元より東京=大阪では航空機利用などマイノリティに過ぎませんし、マイル呪縛に填っている人であれば関空からでも航空機を利用します。「伊丹も関空もあるなら伊丹を使う」という人は結構多いもので、関空オンリーにしたところで意外と移行はスムースに進むものと思われます。日本で何度も繰り返された旧空港から新空港への移行が、漸く伊丹→関空という形で実現すると考えればよいのです。
 しかし、既に伊丹空港で一大運航拠点を構築している大手航空会社においては、なかなか関空への全面移行というのは素直に踏み切れない部分があるでしょう。また、新規航空会社が就航するにしても、スカイマークがお座なりな関空参入で失敗し、這々の体で神戸に転進させられた前例がある以上、なかなか関空での事業展開に名乗りを上げるキャリアは出てこないでしょう。こうした事情を考えると、伊丹空港の廃港はなかなかスムースに進むとは思えず、当面は国内線ネットワークにおいて関空がサブ空港扱いになる危険性は十分あります。
 それならば、残る方法は簡単です。関西経済界が主体になって、関空を拠点とする新規航空会社を立ち上げればいいのです。既に、日本だけでもAIR DOスカイネットアジア、スターフライヤーといった地域密着系の航空会社は数多く立ち上がっています。実際にはなかなかどうして死屍累々といった感もなくはありませんが、関西経済界の実力は宮崎や北九州のそれを軽く凌駕するはずです。これから新規航空会社を立ち上げようとすれば、実際に就航できる頃には羽田空港の発着枠が大幅に増えていますし、関空については二期工事の完成で発着枠の心配は完全に払拭されます。あとは、関西経済界に関空と心中するだけの覚悟があるか否かという問題だけです。一度関空を支援すると決めたのなら、このくらいの気概は持って当然というものでしょう。
 もし、どうしても自力で航空会社を立ち上げられないというのであれば、もう1つだけ関空が爆発的成長を遂げる目があります。それは、関空発着の国内線を外国航空会社に開放する事です。新北九州空港の例を引き合いに出すまでもなく、利用されないインフラほど無駄なものはありません。発着枠が増えても利用者がいないというのであれば、何も国内だけにその利用者を求める必要はありません。国内航空会社が関空よりも伊丹や神戸を選択し、関空の国内線が不十分なまま発着枠だけが余るのであれば、やる気のある海外航空会社に国内線をやらせてみるというのは十分に合理的な政策でしょう。
 この国内線開放が実現すれば、日本で大々的に以遠権ビジネスを展開しているユナイテッド航空ノースウエスト航空は真っ先に飛び付いてくる事でしょう。特に、スカイチーム陣営のノースウエスト航空国内航空会社に提携会社が存在しませんから*3関空羽田線への参入は、国際線での固定客を確保する千載一遇の機会でもあります。ともすれば、関空国賊扱いされかねない危険な政策でもありますが、航空業界の活性化の為にも、ユナイテッド航空ノースウエスト航空のような「黒船」の襲来は、寧ろ積極的に推進すべきであるとも言えるのです。



 以上、関空に対する一方的な愛や妄想を書き連ねてみたのですが、ここでもっとも惜しむべきなのは、肝心の関空会社や関西経済界から具体的な関空利用促進策が提示されてこないという事です。着陸料低減や各種PR活動など、地道に努力しているのは認めます。しかし、これらの活動を通じてでは、航空利用者は自分にとっての関空利用のメリットを見出せないのです。
 消費者などという存在は、資本主義社会においては極めて利己的な存在です。政策的な正当性や社会的な貢献度など、消費者にとっては二の次三の次です。消費者にとって最も重要なのは、「その商品を利用する事が自分にとって利益になるか否か」という事であり、最終的にはそれが商品選択の篩になるのです。関空会社や関西経済界が、大所高所からの正当性主張を中止し、消費者の視点に立ったキャンペーンを展開できた時、それが関空の新たなスタートになるのでしょう。

*1:携帯電話用のウェブサイトも立派なインターネットなのですが、ハッキリ言って現在の携帯電話用ウェブサイトはPC用ウェブサイトとは別物です。この辺がシームレスになれば、日本の携帯電話向けコンテンツビジネスも更に開花するんでしょうが、ユーザーインタフェースが大きく異なる以上、サイトが並立してしまうのは仕方がない事なんでしょうね。それにしても、「PC向けサイトなら無料なのに携帯電話向けサイトでは有料」というのは何とかして欲しいものです。特に、地図検索や乗り換え案内ではこの傾向が顕著ですね。

*2:この点については神戸空港も同様で、ポートアイランド1期地区・2期地区という緩衝地帯の存在により、六甲颪による航空機の離着陸への影響が大幅に緩和されています。一見無駄に思えるポートアイランドも、思わぬ所で役に立っているのでした。

*3:JALJAS合併前の旧JAS日本エアシステム)はノースウエスト航空と業務提携関係にありましたが、現在では殆ど関係は切れています。JALoneworld加盟が確定した今日、なおJALノースウエスト航空との関係は希薄になっていく事でしょう。