五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

JALが機材運用計画をシステム化

 週末BIG導入の陰には、こんなシステム投資があったようです。

日航、機体の効率配備で40億円の収益効果見込む

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20060831/109019/

 JALグループにおいては、国内線・国際線の別だけでなく、日本航空インターナショナル日本航空ジャパンという会社間の壁や、JALエクスプレス日本トランスオーシャン航空といった子会社との機材共通運用、更には同じ機材でも多数のシートコンフィグが存在するなど、機材運用を複雑化させる要因が幾つもあります。それらをまとめてシステム化してしまったというのですから、どんな仕様になっているのか、一JGC会員として甚だ気になる所ですね。
 とはいえ、果たしてこのGFOSがどれだけ役に立つのかとなると、些か疑問が残る部分はあります。それは、システム屋として気になるというよりは、空ヲタとして気になる部分です。思い付く限りでも、以下の課題は不透明のままであるというべきでしょう。

  1. 遅延や欠航などのイレギュラーにどれだけ対応できるのか?
  2. 過去3年間の利用状況が果たして今後も通用するのか?
  3. 機材配置の内際転換はスムースに実現可能なのか?

 先ず、イレギュラー対応についてですが、航空機の運航に当たっては、空港混雑や気象条件などによる遅延ないし欠航は付き物です。特に、国際線を多く抱えるJALにおいては、そのイレギュラー運航への対応は必要不可欠でしょう。従来は、こうしたイレギュラー対応を含めて手作業で行っていた為、遅延や欠航が発生しても柔軟に対応*1する事が可能でしたが、これがシステム化されたとなると、何処でマージンを確保しているのかが非常に気懸かりです。恐らく、今後もイレギュラー発生時には手作業での対応に戻すんでしょうが、その場合はどうやってシステムに復帰させるかという部分で頭を抱える事になるんでしょうね。
 次に、過去3年分の利用状況を基にした機材運用計画ですが、これはかなり後からの修正や条件の追加入力が必要になるでしょう。というのも、割引運賃の設定如何によって、その利用状況は大きく変わるからです。特に、国内線の場合はバーゲンフェアやバースデー割引といったバーゲン型運賃が存在しますから、この設定期間を計画作成時のパラメータにしなければならないのは言うまでもないでしょう。しかし、今後おともdeマイル割引や先得割引といった新種の割引運賃がメインになるのだとすれば、従来の利用状況は機材運用計画において余り参考にならなくなります。運賃設定の弾力性が低い鉄道と異なり、「週末だから混む」「観光シーズンだから混む」と軽易に単純化できないという所に、注意が必要でしょう。
 そして、機材配置の内際転換ですが、これは今後も国内線・国際線それぞれを別個に立案するのがベースになるものと思われます。というのも、国内線と国際線とでは、必要な設備も違えば座席クラス設定も違うのですから、共通化しようにもし得ない部分が非常に大きいからです。どう逆立ちしても、B747-446DB777-289を長距離国際線に投入する事は不可能ですし、逆にB747-446B777-346ER国内線に投入*2しても座席不足に陥ります。今後、羽田空港の再国際化やB737-846の投入などで、徐々に内際共用という考え方が広がっていくのかも知れませんが、実質的な国内線専用機材であるB787-346を確定発注している所からして、国内線部門と国際線部門との同床異夢は今後も続くものと思われます。
 以上の要素を踏まえると、果たして7億円のシステム投資が役に立つのか、或いは本当に40億円の収益効果があるのか、改めて考え直さなければならないでしょう。唯でさえ赤字決算や株価低迷で糸山英太郎からの風当たりが強い中、更に7億円もの無駄銭を遣ってしまったとなったら、西松遙社長の首筋はいよいよ寒くなってきます。「システムは、作る為ではなく使う為にある」という事を、改めて認識しておくべきでしょう。

*1:ある意味「神業」とも言えるアクロバティックな機材繰りは、時折AirTariffなどの航空系掲示板で話題になる事があります。どこがどう神業なのかを理解する為には、読み手にも相当程度の知識が求められますけどね。

*2:現在、成田国際空港中部国際空港を発着する国内線の一部に、これらの長距離国際線用機材が投入されています。これは、長距離路線と短距離路線とを交互に飛ばす事により、離着陸時のみ使用する部品と巡航中も使用する部品との劣化スピードを均等化させる為に実施している事で、利用状況から見た機材運用の最適化からは外れるものです。単に座席定員だけ考えていればいいのなら、B747-446(コンフィグ:L04)でもB767-346(コンフィグ:A23)でも殆ど同じですからね。