五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

栗東新駅騒動に見る新幹線の不公平性

 世の中では、こんな判決が出たようです。

○新幹線新駅「仮線工事の起債は違法」 大津地裁判決

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○「凍結」の知事に追い風 新駅起債「違法」判決 滋賀-関西

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 私は、別段この「南びわ湖駅」がどうなろうと特に興味や関心はありませんし、どうせ京都以西へはJALを使うので具体的に不便を被る事もありません。ただ、例によって「またスジ屋が泣きを見るのか……」と物思いに耽るのみです。この手の請願駅は、新幹線の建設には常に付きまとう話ですし、それは鉄道が地上交通機関である以上不可避な問題でもあるのです。



 鉄道とは、非常に不公平な交通機関です。何が不公平なのかというと、受益者の範囲と公害の範囲とが見事なまでに異なるという事です。駅周辺の居住者は鉄道による利益を大きく受ける一方で、駅間の居住者は騒音公害のみを被る事になってしまいます。一昔前なら、ここに黄害などという厄介極まりない公害までありました。
 この不公平性は、鉄道が高速になればなるほど、より顕著になります。停車駅が減って直接的な受益者が絞られていくのとは対照的に、駅間での騒音はより激しさを増し、被害者の数も増えていきます。新幹線は、その不公平性を極限まで高めた高速鉄道であると言ってもよいでしょう。
 受益者の公害負担という観点に限れば、一方で、航空機は至極「公平な」高速交通機関であると言えます。航空機利用の利便性は、第一に空港へのアクセス利便性に依存しますが、空港が便利な地域であれば、同時に航空機の騒音被害も負担する事になります。この両者は一体不可分であり、それを無理矢理に分離しようとすると、関西三空港のようなグダグダになるまでです。
 航空機は空を飛び、鉄道や自動車は地上を走ります。この本質的な違いが、そのまま公害負担の公平性をも左右しています。地上交通機関において、受益範囲と公害範囲とに齟齬を来す事は、如何ともし難い宿命なのです。それ故、地上交通機関の公害範囲においては、その地上交通機関へのアクセスを確保する事が、唯一物理的に公害を慰撫する方法となるのです。

 ここで、自動車と鉄道との本質的な違いが、更なる不幸を呼びます。自動車の場合、幹線道路へのアクセスを設けた所で、それが直ちに高速交通機関である幹線道路(高速道路を含む)の機能阻害とはなりません。勿論、アクセス(要するにインターチェンジですね)の設置方法を誤れば、京葉道路の花輪ICや穴川ICのようなボトルネックになってしまいます。しかし、適切なインターチェンジ間隔と十分な加速車線とがあれば、大多数の通過交通にとっては、アクセス機会の増加は決して不利益とはならないのです。
 一方、鉄道においては、この方法論は全然意味を持ちません。誰もが自由に自動車を運行できる幹線道路とは異なり、鉄道の場合は勝手に車両を持ち込んで運行する事が出来ないからです。鉄道事業者が線路も車両も保有する事を原則とする日本においては、駅の設置及び列車の停車という手続きがなければ、高速鉄道にアクセスする機会は得られないのです。そして、駅への停車というプロシージャは、少なからず後続列車に対する障害となり、ひいては高速鉄道そのもののボトルネックとなるのです。
 ここに、新幹線が抱える不幸があるのです。大多数を占める大都市相互間の需要に応える為には、その中間は尽く無視してしまうのが理想です。しかし、それでは剰りにも新幹線による受益/被害の不公平性が高くなる為、「地元への配慮」として新幹線駅を設置し、少なからざる列車を停めざるを得なくなります。新幹線建設に当たっての地元負担が大きければ大きくなるほど、この「配慮」を求める圧力も強くなってしまいます。そして、「配慮」してしまえば、その駅のボトルネック化によって、大多数の利用者が不要な不便を強いられる事になるのです。

 東海道新幹線における新駅設置(とその要望)は、正にこの文脈上で発生している事です。米原=京都というのは、東海道新幹線でもかなり駅間距離が長く、それ故に300X系の高速試験でも度々利用されました。沿線住民は東海道新幹線の利益を感じられない一方、騒音公害だけはたんまりと受け取る事になってしまいます。
 しかし、その沿線住民に配慮して新幹線駅を新設してしまうと、今度は圧倒的大多数である首都圏=近畿圏の旅客に不便を強いる事になってしまいます。しかも、JR琵琶湖線東海道本線)には現在でも多数の新快速が運行されているのですから、なおさら「南びわ湖駅」のメリットよりもデメリットの方がクローズアップされてしまいます。嘉田由紀子県知事が当選できたのも、偏にこの比較衡量の問題です。
 別に、栗東市だけが不利益を受けているのではありませんし、日本にはもっと苛烈な「通過地獄」も存在します。これ以上新駅設置をごり押ししようとしても、「第二の静岡県」の汚名を浴びせられるだけです。JR東海が報復措置を企てる前に、大人しく白旗を掲げておいた方がいいでしょうね。見ての通り、JR東海では信賞必罰システムが効率よく採用されているのですから。