五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

N700系の羨ましい正常進化

 さて、来るべき新幹線での広島出張に備えるべく、N700系の特設サイトで色々と客席回りの諸元を調べてみました。

○新しい新幹線N700系スペシャルサイト

http://n700.jp/

 現時点では、N700系の頭数がそんなに多くありませんから、うまくN700系に乗れるかどうかは不明です。しかし、このサイトを読めば読むほど、N700系交通機関として正常進化している事を痛感させられました。身を以てスターフライヤーのLQCぶりを思い知らされたばかりの私としては、N700系のような正常進化を正常に実現できるJR東海の経営環境が羨ましい限りです。やはり、「日本における真のLCCとは新幹線である」とする憑かれた大学隠棲氏の指摘は正鵠を射ているようです。



 では、私がどのような点でN700系の正常進化を思い知ったかというと、主として以下のポイントです。

  1. 車体形状の徹底的な風洞実験
  2. 座席の居住性の大幅な向上
  3. ノートPC利用環境の充実

 先ず、車体形状についてですが、N700系の先頭形状は、5,000回にも及ぶ風洞実験の結果、見た目の格好良さ云々ではなく、純粋に乗り心地や省エネ性などを考慮して造られています。「最初にデザインありき」ではなく、「最初にユーザーありき」というのが正しい工業デザインなのですが、スターフライヤーなどというデザイナーズエアラインは利用者の事など微塵も顧みていない一方で、N700系は工業デザインの本旨に忠実に車両デザインを決定しています。鉄ヲタ予備軍の幼稚園児にとっては見た目も大事かも知れませんが、交通機関の本旨は如何に旅客を快適かつ安価に輸送するかであり、実際の走行シーンを想定して車両を製造するのは当然の事です。ましてや、東京=大阪は世界一多くのビジネス需要が行き交う区間であり、そこを走行する車両には当然ながら「ハレ」よりも「ケ」での実用性が求められます。そのビジネス需要に現時点で最もよく応えているのが、このN700系なのです。
 次に、座席の居住性についてですが、グリーン車における「シンクロナイズド・コンフォートシート」は言うに及ばず、普通席における座面幅の拡大や座面クッションの改良など、文字通り「正常進化」を遂げています。座席の改良にエルゴノミクスを導入したのはクラスJの方が少し早いのですが、座席に関する一般研究や人体模型による圧力分布のテストなど、乗客視点に立って座席を改良するなら当然の如く必要になるアプローチを、N700系は粛々とこなしています。グリーン車の座席においてリクライニング時に座面後部が沈み込むという仕様も、エルゴノミクスを導入していれば当然の如く辿り着く結論であり、スターフライヤーの座席が見掛け倒しの座面スライドに終わっているのとは大きな違いです。出来れば、グリーン車の座席にはフットレスト内蔵のレッグレストを搭載して欲しかったものですが。
 そして、ノートPC利用環境ですが、大型テーブルの配置やインターネット接続環境の準備など、ビジネス用途でノートPCを持ち歩く人間が必要とする環境を、N700系はしっかりと用意しています。残念ながら、車内無線LANでのインターネット接続は1年半後まで待たなければなりませんが、少なくとも電源コンセントを用意しておきながらB5ノートすらはみ出てしまうテーブルしかないスターフライヤーよりは100倍マシです。更に言うなら、現時点においてもAIR-EDGEや携帯電話での回線交換によるインターネット接続は可能であり、RAS接続での社内LANアクセスやメール送受信程度であれば、十分実用に値します。昨今のPCは、インターネットに接続されていなければ唯の箱ですから、その接続が常時確保されるというだけでも、ビジネス需要に応える交通機関としては大いなる正常進化なのです。



 こうしてN700系の正常進化を眺めてみると、そこには多大な実証コストや初期導入コストが掛かっている事が解ります。しかも、その大部分は一目で分かるものではなく、乗客が実際に利用してみて初めて解るものばかりです。JR東海がこれらのコストを大々的に割けるのは、偏に東海道新幹線の運賃収入が航空会社とは桁違いに多いからであり、また車両の大量製造でスケールメリットを十分に享受できるからでもあります。現時点で、N700系JR東海だけでも80編成1,280両の製造が決定していて、投入費用は合計で3,800億円近くにもなります。JALANAが資産の切り売りでB787の投入費用を何とか捻出したり、スターフライヤーが数億円の出資を集めるだけでも四苦八苦したりしている中、これだけの巨額を新車投入に使えるのは、JR東海ならではの特権とも言えるでしょう。
 アメリカ合州国において、サウスウエスト航空ジェットブルーといったLCCが成長できた背景には、国土面積が広く中長距離輸送の需要が多かった事や航空機と直接競合し得る交通機関が存在しなかった事、そして、新規航空会社が参入するに十分な空港リソースが存在した事が挙げられます。スターフライヤーが手習いとしたジェットブルーは、A320ばかり100機も導入したばかりか、エンブラエル190のローンチカスタマーにもなるなど、機材発注については大手航空会社に匹敵するほどの規模です。これらは、100機からの同一機材を全て活用できる空港リソースがあればこその話であり、発着枠の都合で飛ばすに飛ばせない4号機をチャーター便でドサ回りさせていたスターフライヤーにはとても真似できない話です。ジェットブルーの様々な取り組みは、このスケールメリットを大きな拠り所としているのであり、同じ方法をたかが4機程度の航空会社が真似しても上手くいく道理はないのです。
 発着枠もなければ資金もないスターフライヤーにおいて、乗客本位での大々的な投資を行う事は非常に困難です。それ故、大手航空会社や新幹線などの狭間に埋もれないよう、奇を衒ったデザインで耳目を集めようとする事自体については、決して責められない部分もあります。しかし、デザインばかりに力を入れて、乗客にとっての利便性を等閑にするのは、真の意味での「デザイナーズエアライン」としては本末転倒であり、交通機関としての本文に悖る事でもあります。大々的な投資こそ伴わなくても、せめて乗客視点に立ったサービス改善が為されない限り、何れスターフライヤーは新幹線や大手航空会社に淘汰される事になるでしょう。

 因みに、N700系の製造費用回収については、憑かれた大学隠棲氏が簡単に試算済みです。

○ここは酷い500系れる☆すたですね 障害報告@webry/ウェブリブログ