五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

無批判体制の落とし穴

 さて、先週のスターフライヤー搭乗体験mixiスタフラコミュで100分の1くらいに希釈して書いた所、複数の方から「不快な表現だ」という指摘を受けてしまいました。特に、「なんちゃってプレミアムエコノミー」という表現は癪に障ったようで、この程度で不快だと思われるようだと、とても本音100%全開の搭乗体験など書けやしないと痛感させられました。取り敢えず、「Low Quality Carrier」という表現をmixiで広めるのは無理なようです。
 それにしても気懸かりなのは、ブログやSNSなどにおいて剰りにもスターフライヤーに対する批判が少ないという事です。恒常的にスターフライヤーを批判しているのは、私以外には精々池青鯉さんやibstokyo.comさんくらいのもので、はてなRSSで定点観測していても、殆どスターフライヤーに対する批判は引っ掛かりません。新北九州空港についても同じ事が言えるのですが、間違った現状に対する適切な批判がない限り、延々と間違いによる傷口を自ら拡げていく事になるのです。



 古代ユダヤのサンヘドリンにおいては、「全会一致となった議決は無効とする」という不文律が存在しました。これは、ラビの知恵に基づくものらしいのですが、私が聞いた所によると、全会一致というのは以下の何れかの状態に該当するからなんだそうです。

  1. 何者かの圧力によって、全員が一つの意見に同調させられている。
  2. 全員が間違った意見に同調している。

 ここで、新北九州空港スターフライヤーが、どのような「何者かの圧力」に晒されているかについて、考えてみます。

 新福岡空港という幽霊の存在が新北九州空港に対する輿論をねじ曲げている事については、以前にも書いた通りです。しかし、スターフライヤーに対する輿論については、新福岡空港ほど強力な歪みを発生させる存在はなく、寧ろ全会一致の第二則「全員が間違えている」に相当しているものと思われます。スターフライヤーと競合する交通機関(特にJAL北九州線)との比較ではなく、スターフライヤーそのものに対する単純礼賛が目立っているからです。それ故、スターフライヤーに対する批判意見を提示すると、「お前はJALの回し者か」とする意見よりも、単に「不愉快だ」とする意見の方が続出するのです。
 では、スターフライヤーの単純礼賛が何を間違えているのかと言えば、繰り返しになりますが、設備やサービスに利用者の視点がなく、悪い意味で「デザイナーズエアライン」に陥っているという事です。JALのクラスJや国内線ファーストクラス、或いはANAスーパーシートプレミアムは、何れも「これからの国内線上級クラスはどうあるべきか」という事を利用者視点から考えた各社の結論であり、それ故に双方とも利用者の高い支持を得ています。東海道・山陽新幹線においては、エクスプレス予約の取り扱いで若干殿様商売の気配も感じられますが、少なくともN700系の設計思想においては、明らかに利用者視点での改善の形跡が見られます。それに対して、スターフライヤーの提供する設備やサービスは、黒一色というトータルデザインや個人用テレビ、或いはタリーズコーヒーや具入りオニオンスープといった小手先のプレミアム感ばかりが先行し、東京=北九州を移動する旅客が真に求めているものが何であるかについて剰りにも無頓着なのです。そして、真の利用者需要に無頓着なまま間違えを重ねた結果が、昨年の惨憺たる営業成績であり、SFJ71/92便の廃止や運賃制度の迷走なのです。
 スターフライヤーを単純礼賛し、それに対する批判意見を「不快」の一言で切って捨てる向きは、その殆どが小手先の「一味違うホスピタリティ」に対する礼賛であり、それらの「非常識」なサービスが真の利用者需要に応えているか否か、或いは真に利用者が求めているものが何であるかに対する検証を完全に怠っています。スターフライヤーの「一味違うホスピタリティ」の内容を検証し、適切な批判及びそれに対する議論があってこそ、初めて「一味違うホスピタリティ」はその真価を発揮するのです。議論がなければ、そこに進化はなく、スターフライヤーは延々と経営不振の堂々巡りを続ける事になるのです。



 新北九州空港とほぼ同時に開港した神戸空港がそこそこの利用実績を叩き出しているのは、その開港に至るまでの間に徹底的な反対輿論に晒され、四面楚歌の中で神戸空港がどうあるべきかを神戸市が徹底的に考え抜いたからです。勿論、神戸躍進の陰には国土交通省による伊丹需要抑制もありますが、それを差し引いてもなお、ご祝儀相場の落ち着いた開港2年目にして需要予測を概ね満たすであろう利用実績は、特筆すべきものがあります。

○平均搭乗率が過去最高 9月の神戸空港

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神戸空港利用者、上期10.8%増──羽田・札幌線の増便効果で

http://symy.jp/7Nseウェブ魚拓+ウェブ精米)

 その神戸空港ですら、開港後には路線・便数の見直しが行われ、一部不採算路線は減便や運休の憂き目に遭っています。ここ1年間、只管減便・運休・機材縮小の一途を辿っている新北九州空港とは大きな違いです。やはり、伊丹・関空との兼ね合いで立場が非常に不安定な第三種空港でしかない神戸空港や、その神戸空港発着便を抱える航空会社の危機感は、新北九州空港スターフライヤーとは比較にならないのでしょう。
 取り敢えず、新北九州空港スターフライヤーも、現状に対する危機感をもっと抱くべきです。新北九州空港においては、2007年度における大幅下方修正後の需要予測である283万人の半分も満たせそうにない状況である事、スターフライヤーにおいては、2006年度から黒字決算となる予定が2007年度においても赤字決算見込みである事について、今からでも具体的改善策を見出せないようであれば、とっとと損切りして店終いすべきでしょう。さもなくば、破綻回避が不能になった状態で、初めて徹底的な批判に晒される事になるのです。