五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

スカイマーク機内でカートが大暴走

 という事で、先週の航空ニュースを2点ほど片付けます。

スカイマーク機、カート動き乗客骨折――神戸発、羽田着陸時に調理室から飛び出す

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○機内でカート暴走、乗客けが スカイマーク神戸発便

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○「固定不十分」の可能性 スカイマーク機カート事故

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 カート絡みの事故というと、CATに遭遇してカート上のホットドリンクが乗客に掛かってしまう火傷事故を真っ先に思い浮かべてしまいますが、カートそのものが原因となる事故というのは余り記憶にありません。抑も、無料ドリンクサービスを実施していないスカイマーク神戸線でカートを使用するシーンそのものが皆目見当付かないのですが、出したなら出したで、着陸前に元の位置に戻して当然というものです。乗客にテーブルやリクライニングを元に戻すようアナウンスすると同時に、客室乗務員自身も着陸準備が完了しているか、しっかりと確認すべきでしょう。
 もし、突然のベルトサイン点灯で客室乗務員に着陸準備の余裕がなかったとしたら、これは機長の責任が大です。JAL絡みのネタで何度も書いている事ですが、客室乗務員はベルトサイン点灯後に確認・準備しなければならない事が非常に多く、機内で最も乱気流による死傷のリスクが高いのです。逆に言えば、ベルトサイン点灯のタイミングは、客室乗務員が機内安全確認や着陸準備をするだけの余裕を見て早めに設定しなければならないのであり、機体が揺れ始めてから点灯するのでは手遅れなのです。ベルトサインを早めに点灯しなければならない可能性があるならば、機長は出発前ブリーフィングでその旨を客室乗務員に伝達し、着陸準備完了の目安となる時刻も伝達しておくべきでしょう。それが、乗客・乗員全員の命を預かる機長の責任というものです。



 さて、スカイマーク那覇線以外では無料ドリンクサービスを実施していないという事は前述の通りですが、有料ドリンク販売においてカートを使用しているのだとしたら、些か非効率的であるような気がします。先月末を以てJALが国内線での酒類販売を中止した事からも判るように、機内ではドリンク類などそんなに売れません。最近では、空港内にコンビニエンスストアが出店する事例も増えてきて、「必要な飲み物は予め購入して持ち込む」*1という搭乗スタイルが普及しつつあります。特に、スカイマークの主要な顧客層は機内サービスの充実よりも低運賃である事を追求する向きですから、なお飲料持ち込みの傾向は強い事でしょう。
 となれば、ろくに売れもしないドリンク類をカートに乗せて通路を往来するのは、労力の無駄遣いであるだけでなく、化粧室を利用する乗客にとって純粋に邪魔な存在でもあります。無駄に通路を往来している間に、ホットドリンクは冷めてしまい、コールドドリンクは温くなってしまいます。更に言うなら、カートの積載による重量増は、燃費の悪化にも繋がってしまいます。
 この際、燃費悪化だけでなく事故の原因にもなってしまうカートを、機内から撤去してしまい、小田急ロマンスカーよろしく客室乗務員がシートまでドリンクサーブするようにしてはどうでしょうか。これならば、温かい飲み物は温かいままに、冷たい飲み物は冷たいままに提供できますし、カートによる事故も発生しなくなります。客室乗務員の負担は増えるかも知れませんが、どうせそんなに飲料なんて捌けないんですから、それほど大きな負担になる事もないでしょう。

 ワゴンに依存しない機内サービスは、何もスカイマークに限った事ではなく、JALANAなどの他社においても応用する事が可能です。現在、フライトタイムの関係でコールドドリンクしか提供できない場合のJTA運航便などでは、既に一括受注・トレーによるドリンクサーブが実施されていますが、客室乗務員1人当たりの担当乗客数が少ないケースにおいては、「空飛ぶ喫茶室」方式に切り替える事は十分に可能でしょう。クラスJやスーパーシートプレミアムなどで「空飛ぶ喫茶室」方式を導入すれば、普通席との差別化にも繋がります。
 そういう意味では、最も「空飛ぶ喫茶室」方式との親和性が高い航空会社は、「一味違うホスピタリティ」を自認し、ドリンク類の品揃えでも既存航空会社との差別化を図っているスターフライヤーなのですが、不思議と「空飛ぶ喫茶室」方式の導入は噂されてきません。折角、全座席にタッチパネル式液晶モニターを設置しているのですから、これをドリンクオーダーに流用しない手はないでしょう。オンラインで全乗客のドリンクオーダーを把握できれば、サーブ漏れの予防に繋がるだけでなく、日毎・路線毎・便毎の受注状況を蓄積し、より効率的なドリンクサービスの実施に結び付ける事も可能です。「非常識」を売り文句にするのなら、こうした攻めの情報活用で旅客に「非常識な満足」を与えるべきでしょう。

 なお、今回の事件については、元日本航空チーフパーサーの秀島一生さんも愕然としています。

航空評論家 秀島一生のblog: 驚きました!! 機内カートの暴走で乗客が重傷!

http://hideshima-issei.air-nifty.com/blog/2007/11/post_776b.html

 客室乗務員が保安要員として機能するか否かは、必ずしも正規雇用であるか非正規雇用であるかには依存しないでしょう。どんな業種においても、無責任な正社員がいる一方で、責任感溢れるパートやアルバイトが存在するものです。客室乗務員に十分な安全意識を保持させるには、十分な安全教育や定期的な訓練が欠かせないのは勿論、経営トップが安全確保を最優先する姿勢を見せる事が必要でしょう。安全確保のノウハウは得てしてボトムアップとなる事もありますが、安全意識の確立は常にトップダウンでしかあり得ないのです。
 そういう意味で、秀島一生さんの「見かけのサービスより安全第一という思想の浸透」という言葉には重いものがあります。別にスターフライヤーの事を意識しての発言ではないでしょうが、表面的な分かり易いサービスの差別化だけで勝負しようとしている航空会社には、些かの安全上の不安を抱かずにはいられません。航空会社自身にとっても、勿論利用者にとっても、「航空機は安全運航して当たり前」なのです。その「当たり前の事」をどれだけ「当たり前」にこなせるかが、航空会社の実力なのではないでしょうか。

*1:この方法は、100ml以上の液体を機内持ち込み手荷物とする事が出来ない国際線においては使えませんが、日系航空会社の国際線においては酒類・ソフトドリンクとも無料でサービスされますから、やはり有料ドリンク販売という商業スタイルはなかなか確立されない事でしょう。