五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

JALのスカイチーム移籍で始まる破滅への縮小均衡

 さて、昨年来非航空系の人間をも巻き込んで発展してきた日本航空の経営債権問題ですが、いよいよ法的整理という結論が固まったようです。

会社更生法でのJAL再生計画に主力行も同意=国交相

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-13299720100112?sp=true

 これにより、私的整理という中途半端な再生の道は閉ざされ、否応なしにJALは「新生JAL」への生まれ変わりを余儀なくされます。そして、その時のパートナーに選ばれるのが、どうやらデルタ航空を始めとするスカイチーム陣営になる事で、ほぼ固まりつつあるようです。

日本航空:再建問題 デルタ提携有力 運賃、ダイヤ調整で利点

http://mainichi.jp/select/biz/news/20100112ddm002020069000c.html

 これは即ち、国際線の自社運航を大幅に縮小し、ANAと同様メガキャリアへのコバンザメ路線で生きていくという事を意味します。まぁ、手っ取り早く運航経費を削減したいのであれば、この方法は一つの解ではあるのでしょうが、私にはスカイチームへの鞍替えがJALの消滅を招くような気がしてなりません。



 JALの国際線を考えるに当たっては、抑も日系航空会社の顧客層がどういう人々であるかという事を考える必要があります。これは、JALANAも似たり寄ったりという部分があって、国内線で終身上級会員制度をバラ撒き、高収益の長距離国際線で一本釣りというのが、基本的なスタイルだったりします。東海道新幹線との競合を考えれば不毛な消耗戦でしかない東京=大阪のシャトル便に両社とも力を入れているのは、日本で最も多くのビジネス需要が発生する区間で少しでも多くの固定客を確保しておきたいからなのです。逆に言えば、東京=大阪線での赤字など、国際線で得られる収益に比べれば、実に可愛いものであるとすら言えるのです。国際定期路線を持たないスターフライヤーが羽田=関西線で殆どシェアを確保できず、ANAとのコードシェアで糊口を凌ぐに至っているのも、東京=大阪における航空路線の存在意義を考えれば、当然の結果であると言えるのです。
 今回、JALスカイチームに移籍するような事があれば、「国内線で囲って国際線で稼ぐ」というJALのビジネスモデルが崩壊する事になります。勿論、ある程度の自社運航は残る事になるのでしょうが、どんなに国内線でJALに忠誠を誓ってもニューヨーク行きで乗れるのが旧ノースウエスト航空なんて事になれば、既存の優良顧客におけるJALへの忠誠心は大きく揺らいでしまいます。航空会社が他社になれば、当然マイレージの扱いも悪くなりますから、忠誠心だけでなく実利面でもANAに対して大きく後れを取ってしまう事になるのです。
 また、「今後確実な成長が見込めるアジア路線への投資を強める」という観測もありますが、アジアの経済力が高まってくるという事は、即ちアジア各国で有力な航空会社が育ってくるという事でもあります。既に、エアアジアは東南アジアにおける台風の目となっていますし、フルサービスの航空会社ならシンガポール航空エミレーツ航空といったサービスに定評のある航空会社が存在します。これらの航空会社や、そのフォロワーとして登場して来るであろう新興航空会社に対して、現有のJALのリソースでまともに闘った所で、勝ち目などほぼありません。サービス面ではシンガポール航空エミレーツ航空に互するまでの設備投資をする財政力がありませんし、価格競争力に至ってはエアアジアに勝てる見込みは皆無です。デルタ航空からの大幅な資金注入があったにしても、それが近中距離国際線のサービス改善に投資される見込みは低い*1ですから、長期的にはアジア路線もジリ貧に追い込まれるのです。

 デルタ航空JALの引き抜きで狙っているのは、世界で最も利益率が高いと言われている成田発着ビジネス需要の取り込みです。そして、その中でも特に顧客忠誠心が高く、低コストでバカ高い運賃をホイホイ払ってくれるJALの顧客層こそ、デルタ航空のみならず世界中の航空会社が喉から手が出るほど欲しい打ち出の小槌なのです。しかし、JALの多頻度顧客は、世界で最も金が掛からない顧客であるのと同時に、世界で最も扱いが厄介な顧客でもあります。JALグローバルクラブは、その厄介な顧客を調教する為にJALが編み出した洗脳プログラムなのですが、デルタ航空JGCという洗脳プログラムを使いこなす事ができるのか、私は甚だ疑問を感じざるを得ません。
 そう考えると、JALをうまく再生させる為には、洗脳プログラムとしてのJALグローバルクラブを活用し、その為にはある程度現有の国際線ネットワークを温存させざるを得ません。そして、JALが現有の国際線ネットワークを維持しようとするならば、発着枠横取りを目論むデルタ航空と組むのではなく、太平洋線が弱すぎてJALの太平洋線に口出しできないアメリカン航空と組んでいた方が、少なくともJALグローバルクラブ会員の流出は防げるのではないかというような気がしてなりません。というよりは、アライアンス移籍費用に見合うだけのシナジー効果デルタ航空が持っているとは考えにくいのです。

○「JALを支援する体制は整っている」アメリカン航空、資金支援額を積み増し

http://journal.mycom.co.jp/news/2010/01/12/074/?rt=na

 勿論、デルタ航空及びスカイチームJALグローバルクラブに代わる顧客調教プログラムを提示できるのであれば話は別ですが、それが出来ないようであれば、デルタ航空JALの引き抜きで獲得できるものは、優良顧客が流出した、高コスト低サービスの閑古鳥路線だけという事になりかねません。そして、デルタ航空が「ババを掴まされた」と気付いたその時、いよいよJALは本格的な解体への道を歩む事になるのです。それは同時に、スカイチームが他のアライアンスに対して大きく後れを取る始まりともなるのです。



 なお、某エアタリフにて「国土交通省JALを手土産にデルタ航空の成田発着枠を返上させたがっている」との向きがありましたが、私はこの目論見は崩れると思っています。デルタ航空にとって、成田発着枠はノースウエスト航空以来の虎の子の資産です。それを、JAL救済如きでわざわざ差し出す道理など、何処にもありません。路線重複等で不採算になるのであれば、デルタ航空運航便ではなくJAL運航便を削減するのが自然な流れでしょう。
 縦しんば、国土交通省の思惑通りにJAL-デルタの発着枠を削減できたところで、今度はデルタ航空がその見返りに羽田発着枠を要求してくるであろう事は、想像に難くありません。「成田は減らされる」「羽田はもらえない」では、デルタ航空も納得しない事でしょうから、少なくとも成田空港におけるデルタ航空のプレゼンスと同程度に、羽田空港でのプレゼンスも確保する事になるのでしょう。これでは、成田空港で30年以上に亘って繰り広げられてきた以遠権ビジネスの世界が、単純に羽田空港にスライドするだけですから、何の為に成田発着枠を絞ったのか、或いは何の為にJALデルタ航空に輿入れさせたのか自体が分からなくなってしまいます。
 取り敢えず、新生JALには、羽田発着枠を有効活用できるだけのネットワークを確保して欲しいものです。

*1:JALの近中距離機材に投資するくらいなら、旧ノースウエスト航空の自社機材に投資します。