五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

「安否不明大国」への現場の取り組み

 老化の話をしてきたので、最近話題となっているこのニュースにも少しだけ触れておきます。

○「長寿大国」から「安否不明大国」へと一転 高齢者年金の不正受給は100歳以下にも波及する?

http://diamond.jp/articles/-/9263

 安否不明の高齢者は、75歳以上の後期高齢者に限らずとも、少なからざる人数が存在します。そして、区市町村における住民基本台帳国民健康保険後期高齢者医療制度の主管課では、これら安否不明の高齢者について実態調査を行い、住民票職権消除等の必要な措置を講じています。しかし、それぞれの主管課でやる事はと言えばそこまでで、戸籍の抹消までは行いません。何故なら、安否不明高齢者の実態調査で分かるのは「その人が既に生きていない」という事ではなく「その人が既にそこに住んでいない」という事でしかないからです。
 こういう話をすると、「また縦割り行政が……」と批判する向きが少なからず出てきます。この辺の事務が縦割り行政なのは確かで、私が住んでいる相模原市を例にとっても、国・市のそれぞれで担当する組織は以下のように分かれています。

 しかし、ここで問題なのは縦割り云々の話ではなく、それぞれの制度において「安否不明」の捉え方そのものが異なるという事なのです。高齢者の死を家族ぐるみで隠蔽している詐欺事件ならいざ知らず、戸籍上現存する「200歳の高齢者」なんてものは、他の業務にとっては何等影響を及ぼしません。
 年金にしても健康保険にしても、そのサービスを提供するに当たって根拠とするのは、あくまでも戸籍ではなく住民基本台帳です。この住民基本台帳は、「誰の子供が誰であるか?」「現在生きているのか死んでいるのか?」「結婚しているのか独身なのか?」なんて事は不問であり、「誰が何処に住んでいるのか?」をベースにしています。つまり、サービスを提供するに当たって重要な事は、その受給者が生きているか死んでいるかではなく、その受給者が実際にそこに住んでいるかどうかなのです。逆に言えば、サービスの提供を中止するに当たっては、「その人が現在そこに住んでいない」という事だけを証明すればよく、決して「その人は既に死んでいる」という事を証明する必要はありません。更に言うなら、現時点で居所不明だからといって、それが即ち生死不明という事ではないのですから、住所地不現住を理由に戸籍を死亡扱いとしてはいけないのです。
 昨今の「戸籍上の超高齢者」は、何れも住民登録がなく、何等行政サービスを受けているものでもありません。となれば、区市町村において積極的に戸籍を抹消する必要などなく、関係者の届出を待って除籍すれば事足りるのです。そして、戦災その他により親類縁者がいなくなってしまった「超高齢者」は、戦後始まった住民基本台帳制度に乗せられる事もなく、そのまま戸籍の中でだけ年齢を重ねていく事になったのです。
 幸い、年金にしても健康保険にしても、その給付はあっさりと止まるように出来ています。年金については、毎年現況届を出さなければ即座に支払いがストップしてしまいますし、健康保険についても、保険料(税)の支払いが滞れば、やはり給付差し止めの対象になってしまいます。そして、どちらも住民基本台帳さえ職権消除できれば、自動的に給付のストップが発生してしまうものなのです。
 という事で、今後200歳以上の高齢者が「発見」されたとしても、それは「よくある事」として受け流すべきです。我々公務員は、衒学的にしか分からない「生きているか死んでいるか」ではなく、現実問題として発生している「今そこにいるか」を扱っているのです。そこを履き違えたマスゴミ報道が続く限り、「消えた年金」関係のトラブルも未来迎合続く事になるのでしょう。