五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

前途多難なANAのLCC

 以前から色々と噂はありましたが、やっと正式に決定したようです。

全日空、格安航空会社新設を発表 運賃半額程度、コスト減課題

LCC(ローコストキャリア)に関する共同事業の開始について

http://www.ana.co.jp/pr/10-0709/10-ana-fe0909.html

 このLCC関西国際空港を拠点とするようですが、正直なところ、私にはこのLCCが成功する要素が何一つ見当たりません。というのも、現在のANA関空国際線が剰りにも貧弱だからです。
 現在、ANAが自社運航している関空発着の国際線は、以下の7路線だけです。

  • 毎日運航
    • ソウル(仁川)
    • 北京
    • 大連
    • 上海(浦東)*1
    • 香港
  • 曜日限定運航
    • 青島(月水金土)
    • 杭州(火木土)

 この内、中型機(B767)で運航されているのは上海・香港だけで、残りは全てB737A320といった小型機による運航です。「LCCによる新規航空需要の開拓」と言っても、ソウルや北京ですら小型機でしか運航できない関西の国際線需要に、今更新規開拓の要素は殆ど残っていないというべきでしょう。縦しんば無理矢理新規航空路線を開設したところで、早々に需要不足で撤退へと追い込まれる事は火を見るよりも明らかです。どんなに運航コストが安くても、利用客がいなければ赤字になるのですから。
 今回、ANAが敢えて関空LCCの拠点にしたのは、需要開拓云々という所ではなく、どうやら関空会社や国・地方自治体からゼニを引っ張れるというスタフラでお馴染みのLQC商法を目論んでの事でしょう。実際、レガシーキャリアの撤退が相次いでいる関空においては、LCC誘致に向けて何かと至れり尽くせりのようです。

関空全日空の格安航空専用ターミナル建設を検討

http://s.nikkei.com/aRDfWW(bit.lyでURL圧縮済み)

 となれば、ここからANAが目論むルートは、以下のどちらかであると考えるべきでしょう。


1.羽田空港または成田空港への拠点移動

 どんな航空会社でも、その創業初期は資金繰りが厳しく、赤字経営を強いられるものです。1998年に創業したスカイマークが黒字転換するには10年も掛かりましたし、エア・ドゥスカイネットアジアは黒字どころか経営破綻に追い込まれ、ANAの軍門に降っています。スターフライヤーに至っては、就航2年目にしてANA傘下となり、「新規航空会社」とは名ばかりのANA別働隊となっています。
 ANALCCにおいても、当初はこれらの航空会社と同様、厳しい経営を強いられる事になるでしょう。そんな状況で羽田空港や成田空港に就航しても、固定費の高さ故に二進も三進も行かなくなってしまいます。となれば、新会社が経営が軌道に乗るまでの間、赤字を補填してくれる存在が必要となりますが、羽田空港や成田空港は就航希望で引く手数多ですから、国や地元自治体を含めて、わざわざLCCを積極的に支援する理由はありません。
 そこでANAが目を付けたのが、経営どころか存在意義そのものが危なっかしい関空です。関空の足元を見て、初期費用の大部分を関空に押し付ける事が出来れば、ANAとしては大助かりでしょう。新会社が軌道に乗ればそのまま東京に引き揚げ、うまく行かなければ関空諸共海に沈めればよいのですから、ANAにとっては都合のいい話です。


2.ANA本体の関空からの全面撤退

 これは、私自身も3年以上前に考えた事ですが、現在のANA関空ネットワークを考えると、いよいよ真剣に考える必要がありそうです。というのも、今年10月以降、ANA関空発着国内線は以下の5路線だけになってしまうからです。

  • 東京:8往復(うち4往復はSFJ運航便)
  • 札幌:4往復
  • 福岡:2往復
  • 那覇:4往復
  • 函館:1往復

 今回の新会社が運航する路線に福岡線や那覇線が取り沙汰されている所を見るに付け、現在ANAが運航しているこれらの路線の一部または全部が新会社に移管される事は十分に考えられます。それは、過去にANAが北海道や九州でやった地方路線の新規航空会社への押し付けと見事な相似形を描いていますが、エア・ドゥスカイネットアジアの時と違うのは、マイレージ等を切り捨ててでも完全に関空発着路線を見放すという事です。この判断が、「関西人はマイレージよりも運賃を優先する」という視点によるものなのか、それとも関空なんかに集まる下等賎民にくれてやるマイレージなどない」というものなのかは分かりませんが、ANAにおける関空の地位は最早完全に落魄れていると言っても過言ではないでしょう。
 となれば、関空LCC優遇で大盤振る舞いしている間に「なんちゃってLCC」として新会社をでっち上げ、関空路線の赤字諸共新会社に押し付けてしまえば、ANAとしてはほぼ最高形で関空を厄介払いできる事になります。従来通り、高イールドが期待できる時間帯の札幌線や那覇線だけはキッチリ伊丹発着で自社運航を確保するでしょうし、関西インバウンド需要向けには神戸発着便がありますから、ANA利用者の札幌や那覇への足も奪われずに済みます。ANA関空切り捨てで困るのは、「何が何でも関空」という泉ズリアだけなのです。



 どちらのルートを辿るにしても、関空は大きな犠牲を払う事になりますし、その一方で得るものはそんなに大きくはないでしょう。やはり、関空LCCの拠点として覚醒する為には、需要地である大阪都心部とのアクセス/イグレスの改善が必要不可欠でしょう。どんなに関空発着便が安くなった所で、関空までの移動コストでトントンになってしまうようでは、結局は伊丹発着便(或いは伊丹から羽田または成田への乗り継ぎ便)へと利用客が流れてしまいます。
 そういう意味では、関空大阪府が力を入れるべき需要喚起策は、航空会社そのもの誘致よりも、スカイゲートブリッジRの無料開放や阪和線大阪環状線の輸送力増強であると言うべきでしょう。一応、天王寺以北についてはなにわ筋線の建設が計画されているものの、この調子だと都営浅草線バイパスルートの方が先に出来てしまいそうな勢いです。今の関空には、輸送改善に10年も20年も掛けている余裕はないのですから、簡単に手を付けられる所から改善を始めていくべきでしょう。さもなくば、ANAだけでなく世界中のレガシーキャリア関空を見捨てる日も、そんなに遠くはありません。

*1:ダブルデイリー運航です。