五月原清隆のブログハラスメント

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後期高齢者医療制度がやってくれた3つの事

 さて、当初予定通りなら10年後には両親がお世話になっていたであろう後期高齢者医療制度ですが、どうやら母の75歳到達を待たずして現行制度が廃止される事になりそうです。

○新高齢者医療制度:1年遅れも 厚労省通常国会法案見送りへ

http://mainichi.jp/select/science/news/20101217ddm001040040000c.html

 遅れるとしても1年程度ですから、母が75歳に到達する頃には確実に新制度へと切り替わっています。導入前から物議を醸していた後期高齢者医療制度ですが、このまま行けば時代の徒花という事になってしまいそうです。
 そんな後期高齢者医療制度ですが、私自身が国民健康保険精度に携わるようになって、羨ましく思えている部分があります。それは、保険料の賦課において、従来の国民健康保険料(税)*1ではなかなか踏み切れなかった以下の方式を一気に導入してくれた事です。

  1. 個人賦課
  2. 二方式
  3. 旧ただし書き方式

 この3つについてチョコチョコと解説してみますが、基本的には国保屋の駄弁ばかりが並ぶので、社会保険制度に興味のない人は全面的にスルーした方がいいかと(;´Д`)


1.個人賦課

 現在、区市町村国民健康保険において、その保険料(税)の納付義務者は原則として住民票上の世帯主となっています。これは、世帯主自身が国民健康保険の被保険者資格を有しているか否かを問わない為、世帯主自身が他の健康保険等の適用を受けている場合であっても、同一世帯内に1名でも国民健康保険の被保険者がいれば、その世帯の世帯主は国民健康保険料(税)の納付義務を負う事になります。こうした世帯主の事を、国民健康保険実務では一般に「擬制世帯主」、略して「擬主」と称しています。
 保険料(税)の納付義務者を世帯主とする事は、その徴収事務において効率化を図れる(国民健康保険加入世帯における徴収の対象者を一本化できる)というメリットがある一方、擬制世帯主への賦課や世帯全員分の一括賦課などで、窓口実務において屡々クレームやトラブルの原因となっています。また、保険料(税)の納入通知書が世帯主宛てにしか届かない事により、他の健康保険に加入した時の資格喪失届出を失念させてしまう原因ともなっています。更には、被保険者自身の資格に何等異動がない場合でも、世帯主の異動(転入・転出・転居・死亡等)があると保険料(税)の納付義務者も変わってしまう為、これにより被保険者に不便を掛けてしまうケースもままあります。
 後期高齢者医療制度においては、その保険料は被保険者本人が直接の納付義務を負います。国民健康保険とは異なり、被保険者は必ず成人しているというのがミソですが、従来の世帯別賦課に比べて保険料(税)の個人別内訳が明確になり、未納督促等でも「誰の分が未納」「加入者が払うべきもの」と断言できるようになりました。保険料の軽減においてはなお従前の世帯別軽減判定を残している部分もありますが、賦課実務において国民健康保険よりも遥かに分かり易くなっている事は間違いありません。


2.二方式

 国民健康保険料(税)の賦課には、以下の4つの方式があります。

(1)所得割
被保険者の所得に対する賦課です。住民税(市町村税・都道府県税)と同様、賦課対象年度の前年における所得に対して、料率(税率)が掛かります。
(2)資産割
被保険者の固定資産に対する賦課です。通常は、被保険者の賦課対象年度における固定資産税額に対して、料率(税率)が掛かります。
(3)均等割
国民健康保険被保険者の全員に対して均一に行われる賦課です。被保険者の所得や固定資産に関係なく、1名当たりの均一料金となります。
(4)平等割
国民健康保険加入世帯に対して均一に行われる賦課です。被保険者の所得や固定資産、世帯内の被保険者数に関係なく、1世帯当たりの均一料金となります。

 区市町村保険者は、これらを組み合わせて保険料(税)を賦課しますが、その組み合わせ方は以下の3つのどれかになります。

二方式
所得割・均等割
三方式
所得割・均等割・平等割
四方式
所得割・資産割・均等割・平等割

 国民皆保険体制が整った1961年当時は、この四方式が原則とされていましたが、国民健康保険の主な被保険者が自営業者から非正規労働者や高齢者へと移ってきた現在において、資産割や平等割はその賦課根拠が薄れつつあります。昔と異なり、「固定資産があるから保険料(税)の負担能力がある」という事ではなくなってきましたし、個人別被保険者証が普及した現在では「世帯に対する賦課」の必要性も薄れてきています。それ故、最近では三方式や二方式へと移行する保険者が増えてきましたが、現在でもなお四方式を採用する保険者は少なからず存在します。私が勤めている市も未だに四方式ですが、毎年必ず「何故資産割なんか設定しているのか」というクレームが入りますし、これに対して「国民健康保険税条例で決まっているから」以上の明快な回答が出来ていないのが現状です。
 後期高齢者医療制度は、資産割や平等割の賦課根拠が薄弱となっている事を踏まえ、当初から二方式を導入しています。個人賦課を実現する為には二方式は必須だったのですが、同時に「応能割(所得割・資産割)」と「応益割(均等割・平等割)」とがより実状に即した形での賦課となり、被保険者に対しての賦課根拠の説明も明快に出来るようになりました。勿論、資産割がなければその分所得割は高くなり、平等割がなければその分均等割は高くなるのですが、都道府県別広域連合への移行に伴うドサクサや、一部広域連合における独自軽減の乱発等により、四方式の国民健康保険料(税)から二方式の後期高齢者医療制度保険料へ移行した事による保険料(税)負担の増減は、中途半端な検証のままに終わってしまっています。国民健康保険料(税)を賦課する側の立場としては、国民健康保険から後期高齢者医療制度への移行による賦課額の増減はもう少し深く調べる必要があるのでしょうが、恐らくちゃんとした検証が終わる前に後期高齢者医療制度そのものが廃止されてしまう事でしょう。


3.旧ただし書き方式

 国民健康保険料(税)の所得割を賦課するに当たっては、以下の3つの方式があります。

(1)旧ただし書き方式
賦課対象年度の前年における総所得金額及び山林所得金額の合計額から、地方税法第314条の2第2項に規定されている基礎控除額(33万円)のみを控除して、所得割の料率(税率)を乗じます。
(2)本文方式
賦課対象年度の前年における総所得金額及び山林所得金額の合計額から、地方税法第314条の2第1項の各号に規定する各種控除額を控除した後、同条第2項に規定されている基礎控除額(33万円)を控除して、所得割の料率(税率)を乗じます。
(3)住民税方式
賦課対象年度における住民税額(市町村税・都道府県税の合計額)そのものに対して、所得割の料率(税率)を乗じます。

 現在、本文方式を採用している区市町村保険者は存在しない為、所得割の算定方式は旧ただし書き方式か住民税方式かの何れかになっています。殆どの区市町村保険者は旧ただし書き方式を採用しているのですが、特別区(東京23区)や横浜市川崎市などでは住民税方式を採用している為、被保険者人口比で見た場合、かなりの被保険者が住民税方式の適用を受けている事になります。
 住民税方式は、資産割と同様に国民健康保険料(税)主管課で所得の再評価を行わなくてもよい*2反面、税制改革の影響により課税標準額が大幅に変わってしまうというリスクがあります。特に、来年度以降は配偶者控除や扶養控除の大幅な削減が予定されている*3為、住民税方式だと保険料(税)が大幅に上がってしまうケースも考えられます。
 後期高齢者医療制度は、保険者数で見れば圧倒的優位だった旧ただし書き方式を、人口比で住民税方式が相当程度存在した東京都や神奈川県でも全面的に導入しました。従来から旧ただし書き方式だった区市町村では大きな問題にはならなかった事でしょうが、特別区横浜市川崎市では相当程度のインパクトがあった事でしょう。しかし、ここで旧ただし書きが国民健康保険実務者にも周知された事により、2013年度(平成25年度)に予定されている国民健康保険料(税)の旧ただし書き方式への一本化も、いきなりの移行に比べればスムースに進むものと思われます。



 後期高齢者医療制度は、資格適用や保険給付の面から見れば、必ずしも出来がいいものであるとは言えませんでした。しかし、賦課実務の面においては、「新制度だから」という事で、今まで出来なかった事を一気にやってしまった部分があります。「個人賦課」「二方式」「旧ただし書き方式」というのは間違いなく今後の国民健康保険料(税)のトレンドになって行きますが、その道筋をつけたのが後期高齢者医療制度であるという事は、記憶に留めておくべきでしょう。
 現在、厚生労働省で検討している「新高齢者医療制度」がどのようなものになるのか、区市町村保険者レベルでは詳細な事は全然分かっていません。しかし、「国民健康保険への回帰」となった場合、現役世代との整合性の観点から「世帯別賦課」「平等割復活」といった逆コースを歩む可能性は否定できません。実務担当者レベルとしては、後期高齢者医療制度保険料が描いた理想像を、少しでも「新高齢者医療制度」に引き継いで欲しいものです。

*1:区市町村国民健康保険に係る保険料は、原則として国民健康保険法に基づき「国民健康保険料」として賦課・徴収する事になっていますが、区市町村保険者の選択により、地方税法に基づく「国民健康保険税」として賦課・徴収する事も出来ます。保険料だろうが保険税だろうが一般的な納付義務者にとっては大差ないのですが、根拠法令から何から大きく異なる為、国民健康保険実務においては「保険料(税)」と表記するのが一般的です。

*2:但し、所得割の賦課において住民税方式を採用している場合であっても、保険料(税)の軽減判定は総所得金額で行う事になる為、全面的に総所得金額を意識しなくてもよいという事ではありません。

*3:加えて、給与所得控除の上限設定などという話もあるのですが、これの影響を受けるような被保険者であれば、抑も所得割だけで賦課限度額に到達してしまうケースが殆どである為、配偶者控除や扶養控除ほどのインパクトはありません。