五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

スカイマークの本末転倒な成田シフト

 さて、いよいよJALB747-400退役まで1週間となりましたが、一方で日本の4発機は当面安泰になりそうな事が判明しました。というのも、何故かスカイマークA380を4機も正式に発注したからです。

スカイマーク、A380を購入 超大型機、国内航空初

○超大型機A380を購入 スカイマーク、国内航空初

○「A380」4機をエアバスが受注 スカイマークから

http://www.sankeibiz.jp/business/news/110219/bsd1102190505006-n1.htm

 一方で、国内線においても、2011年度中には神戸=成田線などの成田発着路線を新設する方針である事が報じられています。

スカイマーク 神戸-成田線新設へ

http://www.kobe-np.co.jp/news/keizai/0003783213.shtml

 昨年10月に羽田空港が本格的に再国際化されて以来、JALANAは勿論、海外航空会社も挙って羽田空港を目指している今日、スカイマークは敢えて成田空港を新たに首都圏の拠点空港にしようとしています。既に、羽田空港茨城空港と首都圏で2空港に就航しているのに、これに加えて成田空港もという事になれば、スカイマークは国内に例のない首都圏3空港体制に移行する事になります。
 一見、時代のトレンドに逆行するかのようなスカイマークの動きですが、私が思うに、これら一連の動きは、先手を打った羽田追放リスク対策として見るべきでしょう。スカイマークなどの新規航空会社が羽田空港から追放されるシナリオについては"以前"書いた通りですが、国際線・国内線の双方について成田就航の話が浮上してきたのは、決して単なる偶然ではなく、スカイマークの中長期的な経営方針の表明と見るべきです。そして、そこに「成田シフト」というスカイマークの自己目的化が見られるのです。



 現在、スカイマーク保有する機材は、その全てがB737-800です。B737-700/800/900(B737NG)小回りの利く手頃なジェット機として、国内線は勿論、近中距離国際線においても多用されている機材です。やろうと思えば、スカイマークは現有機材だけで近距離国際線に進出する事も不可能ではありません。実際、スターフライヤーはB737NGと同セグメントのA320で2012年7月の国際定期線就航を予定しています。
 また、スカイマークB737-800でETOPSを取得し、2010年9月には羽田=グアムのチャーター便を運航しています*1。ETOPSを取得していれば、支那大陸線や韓国線は勿論の事、アジア方面の近中距離ならほぼ不自由なく運航できます。スカイマークにしても、夏季のグアム線チャーター運航の為だけにETOPSを取得するなんて事はしないでしょうから、当然現有機材での近距離国際線就航は考慮に入れている事でしょうし、羽田空港の深夜・早朝枠に余裕のある現在なら、実際に深夜・早朝の定期便を運航してしまう事も可能なのです。勿論、外変・内変の手間はありますが、新規に機材や就航拠点を確保するコストに比べれば安いものです。
 それでもなお、スカイマークA380を導入して成田空港に就航しようというのですから、これは何処かの中京都や新潟州みたいな流行病の類ではなく、「超大型機」「成田進出」という選択をさせられるだけの外的要因があると見るべきです。そして、B737-800のETOPS取得からA380での成田進出という飛躍を見るに付け、これは「成田進出ありき」「超大型機ありき」で進んでいるようにしか、私には思えないのです。この「成田進出ありき」は、逆に言えば「もう羽田には居られない」という事であり、そこで前述の羽田追放シナリオが出てくるのです。
 スカイマークA380導入及び成田発着路線開設の第一報が流れてきたのは、何れも昨年11月初頭です。これは、羽田空港の再拡張完了及び新国際線ターミナル供用開始の時期とほぼ一致します。元々、羽田空港の本格的な再国際化が様々な経済効果を生む事は予想されていましたが、実際に国内外の様々な航空会社から引き合いが絶えず、利用実績も上々の滑り出しです。

羽田空港:国際化3カ月 旅客2倍、貨物5倍で好調推移

http://mainichi.jp/photo/archive/news/2011/02/01/20110202k0000m020127000c.html

 これだけの需要が見込めるのなら、国土交通省は当然にして国際線発着枠の拡充を図る事でしょう。しかし、発着枠が有限である以上、何れ羽田空港の発着枠は全て埋め尽くされる事になってしまいます。その時こそ、前述の「羽田追放シナリオ」発動の可能性が最も高まるのです。
 現在は、羽田・成田双方の様々な制約により、国内外の新規航空会社も都心に近い羽田空港に数多く就航しています。しかし、羽田空港の需要が高まる一方で、成田空港や茨城空港はその需要が量的にも質的にも低下していく事になります。羽田・成田の相互間で需給の不均衡が生じれば、市場原理または政策誘導により、羽田空港の発着枠は高騰していきますから、LCCの経営モデルとの不整合が発生し、体力のない航空会社から順次「退場」していく事になるのです。
 スカイマークA380の導入や成田空港への就航を通して眺めているのは、そうした決して遠くない将来訪れるであろう「羽田からの追放」でしょう。そして、そこから逆算して「成田空港でしか出来ない事」を考えた時、「超大型機による長距離国際線の運航」に行き着くのは、寧ろ自然な事です。そして、そのビジョンが今回たまたまエアバスのビジョンと整合し、A380の導入に行き着いたのだと考えれば、スカイマークの性急な成田シフトも自然に説明が出来ます。



 では、実際にスカイマークが成田シフトで成功できるかどうかなのですが、私は半信半疑です。特に疑わしく思っているのが、現状B737-800しか運航していない航空会社がどうやってA380を運航するのかという部分です。ボーイングエアバスとではその設計思想が大きく異なりますから、おいそれと現在の運航乗務員をA380に移行させる事は出来ません。昨年経営破綻したJALからA300-622Rの運航乗務員を引き取ろうにも、やはりA380への移行はそれなりに時間が掛かる事でしょう。
 また、小回りが利くB737NGとは異なり、A380クラスの機材ともなるとおいそれと国内線機材への移行もできません。A380で運航して採算ベースに乗る路線は大幅に限られていますし、地方空港によっては物理的にA380の就航が不可能*2なケースもあります。羽田空港へ就航させるにしても、スカイマークA380とくれば99.5%以上の確率で沖止めを食らいますから、ハンドリング面でかなり不利になってしまいます。要するに、スカイマークA380・成田空港と心中する覚悟なのです。
 スカイマークは、A380の座席数について、かなり余裕を持たせる方針のようです。

スカイマーク社長:国際線参入はロンドン線、A380で売上高計画150億円

http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90900001&sid=avRZIx4FOVZ0

 ビジネス114席、プレミアム・エコノミー280席という事で、私が予想していた「800席オーバーのハイデンシティ仕様」とはかなり異なります。しかし、これだけ余裕があるのであれば、当然ながら座席の居住性についても競合他社より優位に立てる可能性が高くなります。先月書いた通り、今回の成田シフトを機にスカイマークが真のLCCとして覚醒すれば、2018年度の15機体制を待たずして、スカイマークは成田空港における台風の目になる事でしょう。

*1:http://www.skymark.co.jp/ja/company/press/press100820.html

*2:伊丹空港のように、物理的には就航可能でも規制により就航が不可能なケースもあります。但し、関西での拠点を神戸空港に一本化しているスカイマークには、伊丹空港の4発機規制は何等影響を与えませんが。