五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

ANAの相次ぐLCC参入に見る成田・関空の出口戦略

 さて、私が航空業界の第一線から離れて久しいですが、そんな間にも世の中はしっかりと進んでいます。特に、ANALCC参入に懸ける意気込みは凄まじいものがあり、関空拠点のPeachに続いて今度は成田拠点のエアアジア・ジャパンまで設立する事になってしまいました。

ANAエアアジア、成田を拠点とする格安航空会社を設立

ANAエアアジア、『エアアジア・ジャパン』の設立に合意

http://www.ana.co.jp/pr/11-0709/11-ana-asia0721.html

 既に、関空拠点のPeachは航空運送事業許可を取得していますから、これで来年8月には成田・関空の両方でANA系のLCCが立ち上がる事になります。

○格安航空会社:「ピーチ」を認可…国交省

ANA系格安航空「Peach」に事業許可 - 2012年3月就航へ

http://journal.mycom.co.jp/news/2011/07/08/001/

 以前、私はPeachを「関空赤字引き受け会社」だと書きましたが、どうやら現在のANAにとっては関空だけでなく成田ですらお荷物になっているようです。つまり、関空で目論んでいた出口戦略を、そのまま成田でも適用しようという事なのです。そして、関空に比べればLCC受け入れの緊急性が低く、空港会社や地元行政によるバックアップが期待できないからこそ、自前で新規航空会社を立ち上げるのではなく、既に実績のあるエアアジアとの合弁により、迅速に成田からの戦略的撤退を遂行しようとしているのでしょう。
 今回の成田LCC参入について、ANAの伊東信一郎社長は「ANA本体との間で客の取り合いになる事があっても、ANA外部に客が逃げる事だけはない」と強気の発言をしています。これは、スカイマークA380などを引っ提げて成田に参入する事や、JALジェットスターとのLCC合弁会社設立を目論んでいる事などを念頭に置いての発言でしょう。しかし、元々LCCに流れるような旅客は決してイールドの高い旅客ではありませんから、低イールド運賃で利用していた旅客がエアアジア・ジャパンに流れようがスカイマークに流れようが、ANA本体にとってはそんなに大きな問題ではありません。そんな状況で、低イールド客ごと成田発着路線を引き受けてくれたエアアジアは、ANAにとっては正に「渡りに船」といった存在なのでしょう。



 そうなると、今後ANAが何処に経営資源を集中投下するかは、最早自明です。成田発着の低イールド旅客はエアアジア・ジャパンに任せ、元々高イールド旅客自体が存在しない関空発着路線はPeachに丸投げするとなれば、残るは羽田発着のみです。機材や地上設備の都合上、欧米直行路線は一部成田に残存する事になるでしょうが、これからのANA看板路線は間違いなく羽田発着に移行します。往時のJALが羽田再拡張に伴う再国際化に慎重な姿勢を示していたのとは対照的に、ANA羽田空港国内線第2ターミナルビル完成前から羽田再国際化に積極的でした。これは、成田空港におけるANA発着枠の少なさによる所もあったのでしょうが、「羽田再国際化を国際線強化の突破口にする」というANAの一貫した姿勢による所が大です。関空・成田と相次いだLCC参入も、正に「羽田集中攻勢」というANAの経営戦略における当然の選択だったのです。
 そして、今秋にはいよいよB787-881が定期便に就役し、羽田発着の国際線フリートが更に充実する事になります。従来はB777-381ERによる成田発着でしか就航できなかった欧米長距離路線にも、羽田発着で就航できるようになります。これで、昼間の国際線発着が全面的に解禁されれば、いよいよ「羽田が主、成田は従」というANAの国際線戦略が明確になってくる事でしょう。高イールドの旅客をキッチリ羽田で捕捉する態勢が固まってこそ、初めてエアアジア・ジャパンPeachはその本領を発揮する事になるのです。