不採算なリゾート路線から撤退し、格安な運賃によるマイル負債の発生を抑制すれば、JALが向かう先は残り1つ、JALグローバルクラブ(JGC)です。JGCは、ハワイ線・バーゲンフェアと並ぶJALの三大不良資産であり、JALにとっては一刻も早く清算したい組織でもあります。それ故、JALのoneworld加盟が報じられた際には、当然ながら識者の間でJGCの存廃が取り沙汰される事になりました。
このJGCがどうしてJALの不良資産となるのかと言うと、それはJGCの入会資格及びその資格更新にあります。どのような入会資格なのかは、以下を見て下さい。
まぁ、要はFLY ONサファイア(JMG)以上というのが1つのハードルになるのですが、これ自体は特に上級会員制度として問題ではありません。問題は、JGCの資格更新です。JALグローバルクラブ入会資格
JALグローバルクラブ(JGC)は、以下の条件を満たされたお客様がご入会いただけます。
- JALマイレージバンク(JMB)にご参加いただいていること。
- 前年または当年の1月〜12月の12ヵ月間に日本航空(JAL)/日本アジア航空(JAA)/JALウェイズ/日本トランスオーシャン航空 (JTA)/日本エアコミューター(JAC)/北海道エアシステム(HAC)/琉球エアーコミューター(RAC)*1の国際線・国内線にJMBのマイル積算対象運賃でのご搭乗実績「JMB FLY ON プログラム」のポイントが50,000ポイント以上または50回以上*2ご搭乗いただいた実績があること。
- JALのクレジットカード「JALダイナースカード、JALカードCLUB-Aゴールド、JALカードCLUB-A(いずれもJALグローバルクラブカード兼用)」をお持ちいただけること。
- JALグローバルクラブ規約を遵守いただけること。
- JALグローバルクラブには、航空会社、旅行会社の関係者の方はご入会いただけません。
- JMBサファイアを達成されましても「JALグローバルクラブ」入会のご案内をお送りできない場合がございますのでご了承ください。
- JALグローバルクラブ入会のお申し込みにつきましては、お届けしたお申し込みハガキおよび入会申込書に記載されたお申し込み期間を過ぎますと入会資格を失いますのでご注意ください。
という事で、過去に1回でもFLY ONサファイアを達成したJMB会員であれば、JALカード会員である限り、半永久的に上級会員資格が保障されるという事です。つまり、JGCの本質を一言で表せば、昔取った杵柄です。私自身、FLY ONサファイアを達成したのは1回だけ*1でして、以降FLY ONクリスタル(JMX)を達成する事は何回かあっても、JMG再取得に至るほどの搭乗実績に達した事はありません。逆に言えば、再びJMGに返り咲く事がなさそうだからこそ、1万円からのJALカード年会費を払ってでもJGCに入会したという事です。 この種の「終身上級会員制度」は、ANAにもスーパーフライヤーズクラブ(SFC)という似たような会員組織が存在します。資格の更新
JALグローバルクラブの会員資格は、JALカードCLUB-A以上の会員である限り、自動的に更新されます。
- JALカードを退会されますと、JALグローバルクラブも自動的に退会となり、JALグローバルクラブの各種サービス・特典が終了となります。
○スーパーフライヤーズカードサービスのご案内
http://www.ana.co.jp/amc-member/reference/elite/spfs2_fr.html
しかし、こうした「昔取った杵柄」を認める上級会員制度というのは、国際的に見ると極めて異例であり、良くも悪くも「日本的」であると言えます。また、毎年搭乗実績を残さなくてもよい為、海外他社のFFPに比べると修行僧が蔓延りやすくなってしまっています。そして、解脱した僧侶や内勤へ異動になったサラリーマンなどで、会員組織は半永久的に増大し続ける事になるのです。 こうした「終身上級会員制度」は、なるほど自社顧客の取り込みに関しては有効かも知れません。しかし、一度航空会社が国際的な航空連合に加盟してしまうと、こうした「終身上級会員」をどう処遇するかが問題になってしまいます。自社ローカルの資格としてしまえば会員からの反発が聞こえてくるでしょうし、だからといって航空連合における上級会員資格を付与すれば、今度は加盟他社からの非難を浴びる事になります。 ANAは、Star Allianceへの加盟に当たり、自社の「終身上級会員制度」であるSFCにスターアライアンス・ゴールドメンバーの資格を付与しました。これにより、SFCの国際的なステータスはJGCよりも遥かに高くなったのですが、同時にANAはStar Alliance加盟他社からの強い批判を浴びる事になりました。それでも、今日に至るまでSFCのスターアライアンス・ゴールドメンバーが保障され続けているのは、ANA内部においてANAプラチナサービス(PLT)のSFCに対する優位性が歴然と保障されてきたからでしょう。ANAにおいては、PLT/SFC会員の扱いは明らかに平SFC会員よりも上であり、割引運賃や特典航空券の空席待ちなどにおいて、PLT資格の有無は結果に有意的な差を齎します。 一方、JALにおいては、FLY ONステータスの有無よりもJGC会員であるか否かの方が重要視され、平JGCがJMGは勿論JML(FLY ONダイヤモンド)よりも優位な立場にあります。それ故、修行僧の発生率がANAよりも高くなる一方で、毎年コンスタントに搭乗実績を残すビジネス客からは様々な不平が聞かれます。毎年50回も100回も搭乗する旅客よりも、単に年会費1万円を払っているだけの旅客の方が優先されるのですから、当然と言えば当然なのでしょうが。
では、JALのoneworld加盟によって、JGCはどうなっていくのでしょうか。私が思い付くシナリオは、以下の5つです。 この内、JGC会員にとって一番嬉しいのが1である事は、言うまでもありません。しかし、ブリティッシュエアウェイズにしろキャセイパシフィック航空にしろ、上級会員への優遇が手厚い一方で、エントリーレベルからのステップアップには非常に厳しいFFPで有名です。そんな航空会社が居並ぶoneworldにおいて、単に「昔取った杵柄」であるだけのJGCがサファイアに認定されるとは、私には考えられません。ましてや、航空連合に加盟している各社においてすら、自社上級会員へのサービスと他社上級会員へのサービスとでは、歴然と差別化するようになっているのが現状です。だからこそ、航空各社は航空連合への加盟後も自社FFPへの顧客の取り込みに躍起になっているのであり、そこにJGCなど入り込む余地はありません。 となれば、考えられるのは4のJGCローカル資格維持ですが、これはこれで疑問があります。というのも、抑も現時点で航空連合に加盟していないJALにとって、JGCなど所詮ローカル資格でしかなく*2、JGC会員にとってもJAL利用時以外は何等JGCなど意味を持たないのです。それ故、JALのoneworld加盟後のJGCがローカル資格に留まったとしても、それはJGCに対する何等の改革ともなり得ないのです。ましてや、国際線の自社運航率が高いJALであればなおさらの事です。 JALのoneworld加盟が「不採算の切り捨て」にあるとすれば、JALが今後採り得る方策は唯一つ、5のJGC廃止に他ならないのです。このJGC廃止がどのような順番で行われるのかというと、以下のようなものです。 そして、最終的には、FLY ONステータスを持たないJGCは、JALカードCLUB-Aと同一の機能しか有しなくなり、航空会社としてのサービスからクレジットカード会社のサービスへとその姿を変える事でしょう。それでも、JGC会員の名誉心を満たす為、それこそ昔取った杵柄でJGCの名称だけは残すかも知れませんが、それによって何等かの特典を得る事はなくなるでしょう。正に、JGCは単なる名誉資格と化すのです。
実を言うと、FLY ONステータスの正当な評価及び平JGCの切り捨てについて、JALは既に動き始めています。○JAL国内線 - クラス J サンクスキャンペーン
http://www.jal.co.jp/classj/thanks_cp.html
これらのサービスは、何れもJMG以上の会員が対象になっている一方で、平JGC(JGC/JMX)はサービスの対象から除外されています。特に、クラスJサンクスキャンペーンは「割引運賃の切り捨て」も同時に兼ねていて、今後のJALの方向性を暗示するには十分です。現在でこそ、これらのサービスはごく一部の空港・運賃に限られていますが、今後こうしたサービスが拡大していく事は十分に予想され、なんて事は十分に予想されます。ここまでやれば、ブリティッシュエアウェイズやキャセイパシフィック航空から後ろ指を指される事もなく、JALも目出度くoneworldの仲間入りを果たす事が出来るでしょう。
- ラウンジの入室制限強化
- クラスJの利用制限強化
さて、ここまでJGCを切り捨ててしまうと、ちょっとだけ修行すればJMGになれるような中頻度顧客が挙ってANAに乗り換えてしまう事も考えられます。しかし、実際にその危険性がどれだけあるかというと、私は殆ど心配していません。というのも、この種のサービスについてJALとANAとは相互協調している節がある為、JALがJGCを廃止すると言い出した途端、ANAもSFCを廃止するであろう事はほぼ確実だからです。 実際、バーゲンフェアの値上げと超割の値上げとはほぼ同時に行われましたし、国際線アップグレード特典の利用制限強化もJAL・ANAほぼ同時でした。また、上級会員資格の認定基準も、現在はJAL・ANAとも同一であると言っていいような状態で、SFCのスターアライアンス・ゴールドメンバー以外にはそれぞれのアドバンテージが見当たらないくらいです。ある意味大手航空会社同士のカルテルとでも言うべきような状態ですが、明確なカルテルの証拠が存在しない以上、公正取引委員会も大っぴらには立ち入る事が出来ないのでしょう。 今後、JALもANAも「終身上級会員制度」を廃止し、それと同時にバーゲンフェアや超割などの格安運賃も次々と廃止されていく事でしょう。私のような空ヲタにとっては、航空機で旅行する動機も機会も減殺される事になってしまいますが、航空業界の健全な発展の為には、それも致し方ない事でしょう。元はと言えば、高々1万円かそこいらで札幌でも福岡でも行けてしまうという方が異常であり、ましてやそれで終身上級会員の資格が保障される方がおかしいと言うべきでしょう。割引運賃の統廃合による運賃水準の向上や、上級会員制度の見直しによる「なんちゃって上級会員」の追放は、航空自由化以来「熱病に魘されていた」とも言うべきJALやANAを立ち直らせる為には避けては通れないクリティカルパスなのです。