五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

JALのoneworld加盟によって切り捨てられる運賃

 1999年の航空運賃自由化によって、JAL・ANA・JASとも様々な割引運賃を導入しました。その中には、普通運賃からの割引率が80%を超えるものもあり、航空需要の年較差にも弾力的に対応できるようになった一方、運賃体系の複雑化やピーク期の平均運賃値上げをも引き起こし、乗客にとっては「運賃体系がわかりにくく、乗りたい時にはボッタクリ」と見られるようになりながら、航空会社にとっては収益力の悪化という不幸をも招いてしまいました。
 しかし、一度安い運賃を知ってしまった消費者は、なかなか運賃水準の再向上を受け容れられないものです。何せ、今から5年前には「全便全席1万円」などと喧伝していたんですから、それが2万円程度に値上がりしようものなら、消費者の反発はかなりのものになるでしょう。表立って値上げ反対運動みたいなものが起こればまだしも、最悪なのは無言の内に消費者が去っていってしまう事であり、航空会社が再起不能のジリ貧に追い込まれる事です。
 そこで、消費者に割安なイメージを植え付けた各種割引運賃を如何に廃止し、比較的高額な運賃へと誘導していくかが問題になります。現在、運賃設定についてはJALもANAも事実上のカルテル状態にあると言い切ってよい状態ですが、流石に何の理由もなしに格安な割引運賃を廃止する事は出来ないでしょう。となると、割引運賃の整理縮小或いはマイル積算率の切り下げに当たっては、何等かの外的要因が必要になります。JALにとっては、その外的要因こそが航空連合への加盟なのでしょう。



 ここで、切り捨てられる運賃を見る前に、現在のJALの運賃を大きく四分しておきます。

  1. 普通運賃系
    • 普通運賃
    • 往復割引
    • 4回回数券
  2. 割引運賃A
    • 特便割引1
    • 特便割引7
    • 前売り21
    • 平日シルバー割引
    • 単身赴任割引
    • 株主優待割引
  3. 割引運賃B
    • バーゲンフェア
    • バースデー割引
    • タイム割引
    • おともdeマイル割引
  4. ツアー運賃
    1. マイル積算対象
      • 個人包括割引運賃
    2. マイル積算対象外
      • 包括割引運賃
      • 団体割引運賃

 上記の分類は、国際線で言うと以下の2から5にそれぞれ相当します。

  1. ファーストクラス・エグゼクティブクラス運賃
  2. エコノミークラス普通運賃
  3. エコノミーセイバー
  4. 前売り悟空・スペシャル悟空
  5. ツアー運賃

 JALの国内線運賃はクラス別設定ではない為、アッパークラス運賃に相当するものは国内線には存在しません。また、割引運賃A・割引運賃Bに相当する国際線運賃については、マイル積算率が75%ではなく70%である事にも注意が必要です。そんな事を踏まえて、以下は特記しない限り国際線運賃も国内線運賃とチャンポンにして話を進めます。



 話を「切り捨てられる運賃」に戻します。現在、JALが切り捨てたがっていると思われるのは、割引運賃B以下の格安な運賃です。特に、国内線の割引運賃Bについては、割引率はツアー運賃に近いのに、予約制限以外は割引運賃Aと何等取り扱いが変わりませんから、JALとしても何とか廃止したいところでしょう。本来なら、割引運賃BでのクラスJ事前予約やクラスJクーポン利用なんかも早急に制限したいところなのでしょうが、元々クラスJが「どんな運賃からでも+1,000円でアップグレード可能」という謳い文句で人気を博している以上、今更割引運賃BだけをクラスJ事前予約不可にするのは非常に難しいんでしょうね。
 とあれば、考えられるのは割引運賃Bそのものの廃止ではなく割引運賃Bのマイル積算率切り下げです。年に1回や2回しかJALに乗らないような乗客であればいざ知らず、ある程度JALに乗る回数が多いような乗客であれば、それなりにマイル積算率を意識するようになります。単なる多頻度顧客にしろ、或いは修行僧にしろ、割引運賃Bでのマイル積算率が切り下げられるとなれば、現状よりも割引運賃Bの利用は減るでしょうし、場合によっては割引運賃Aや普通運賃系への誘導になるかも知れません。取り敢えず、普通運賃系や割引運賃Aを利用している旅客の不満感はある程度収まる事でしょう。
 しかし、如何にも割引運賃Bだけを狙い撃ちにしたかのようなマイル積算率切り下げでは、割引運賃Bそのものの廃止と同様、やはり消費者の反感を買うだけです。特に、マイル積算率切り下げに異議を唱えるような消費者は、相当程度JALを利用しているのですから、消費者の反感は即ち業績の大幅悪化に繋がります。そこで、割引運賃Bのマイル積算率切り下げには、「国際水準への適合」という大義名分が必要になるのです。実際、海外のFFPでは割引運賃が冷遇されているのが一般的で、格安運賃やツアー運賃ではマイル積算対象外になる事も珍しくありません。
 尤も、その一方でユナイテッド航空やノースウェスト航空のように、何でもかんでもマイル積算率を100%に設定している航空会社も存在します。「国際水準への適合」は、或いはマイル積算率の大幅引き上げに繋がる可能性もゼロではありませんから、割引運賃Bやツアー運賃の利用者も諦めるのはまだ早いかも知れません。とはいえ、Mileage Plus(ユナイテッド航空)やWorldPerks(ノースウェスト航空)に比較すれば、JALマイレージバンクの会員規模は十分に大きいですから、今更マイルをばらまく可能性は低いでしょうけどね。

 さて、「国際水準への適合」となると、それぞれの運賃について、以下のようなマイル積算率の変動が考えられます。

  1. 普通運賃系
    1. マイル積み増し(110%ないし125%)
    2. 現状維持(100%)
  2. 割引運賃A
    1. フル積算(100%)
    2. 現状維持(75%)
    3. 積算率カット(50%)
    4. マイル積算対象外(0%)
  3. 割引運賃B
    1. フル積算(100%)
    2. 現状維持(75%)
    3. 積算率カット(25%ないし50%)
    4. マイル積算対象外(0%)
  4. ツアー運賃
    1. フル積算(100%)
    2. 積算率アップ(75%)
    3. 現状維持(50%)
    4. 積算率カット(25%)
    5. マイル積算対象外(0%)

 取り敢えず、比較的ばらまきに近いAAdvantage(アメリカン航空)から、超渋ちんのExcecutive Club(ブリティッシュエアウェイズ)まで、oneworld加盟航空会社のマイル積算率を一通り網羅してみた心算です。これを基準に、4つほどJALマイレージバンクのマイル積算率移行シナリオを考えてみました。

  1. マイル大盤振る舞い
    1. 普通運賃系:現状維持ないしマイル積み増し(100%ないし125%)
    2. 割引運賃A:フル積算(100%)
    3. 割引運賃B:フル積算(100%)
    4. ツアー運賃:フル積算(100%)
  2. 現状維持
    1. 普通運賃系:現状維持(100%)
    2. 割引運賃A:現状維持(75%)
    3. 割引運賃B:現状維持(75%)
    4. ツアー運賃:現状維持(50%)
  3. マイル二極分化
    1. 普通運賃系:現状維持ないしマイル積み増し(100%ないし125%)
    2. 割引運賃A:現状維持(75%)
    3. 割引運賃B:積算率カット(25%ないし50%)
    4. ツアー運賃:マイル積算対象外(0%)
  4. マイル引き絞り
    1. 普通運賃系:現状維持(100%)
    2. 割引運賃A:積算率カット(50%)
    3. 割引運賃B:マイル積算対象外(0%)
    4. ツアー運賃:マイル積算対象外(0%)

 この内、一番嬉しいのは1番なのですが、長年割引運賃やツアー運賃のフル積算をしてこなかったJALの事ですから、今更フル積算に踏み切るとはとても思えません。ましてや、oneworld加盟によってマイル積算対象便が桁違いに増えるのですから、マイル大盤振る舞いなどはっきり言って自殺行為です。恐らく、oneworld加盟後のマイル積算率は、良くても3番、下手すれば4番という危険性が大です。これならば、マイル積算対象便を増やしながら、マイル負債の総量規制にも繋がりますからね。



 マイル引き下げに関連して、もう1つ引き下げられる危険性の高いものがあります。それは、FLY ONポイントの積算率です。このFLY ONポイントとは、JALマイレージバンクの上級会員資格認定に使用されるポイントで、特典交換用のマイレージ(所謂マイル)とは別建てでカウントされます。

JALマイレージバンク - ご搭乗の多いお客様へ

http://www.jal.co.jp/jmb/index04.html

 FLY ONポイントは、あくまでも搭乗マイルのみをカウントの基礎とする為、ボーナスマイルやショッピングマイルなどは一切カウントされません。それ故、実搭乗の伴わない陸マイラーは、どんなに多くのマイルを獲得しようとも、上級会員資格を得る事はありません。この点は、既にJALマイレージバンクも国際水準にあると言ってよいでしょう。
 しかし、このFLY ONポイントには、国際水準の上級会員資格とは異なる点が2つあります。それは、

  1. 国内線は、搭乗マイルが倍付けでカウントされる。
  2. マイル積算対象運賃は、全てカウント対象となる。

 という事です。それ故、バーゲンフェアやバースデー割引だけで上級会員資格を得たり、或いはツアー運賃や海外発券運賃だけで上級会員資格を得たりする事も出来る為、所謂修行僧を生み出す根源になっています。
 JALがoneworldに加盟した暁には、このFLY ONポイントの制度にもメスが入れられる可能性があります。取り敢えず、現時点で想定できるFLY ONポイント制度の改定方法は、以下の通りです。

  1. 現状維持
    • 国内線:搭乗マイル×2
    • 国際線:搭乗マイル
  2. 内際統一
    • 国内線:搭乗マイル
    • 国際線:搭乗マイル
  3. 二極分化
    • 国内線
      1. 普通運賃系:搭乗マイル×2
      2. 割引運賃A:搭乗マイル
      3. 割引運賃B:積算なし
      4. ツアー運賃:積算なし
    • 国際線
      1. ファーストクラス・エグゼクティブクラス運賃:搭乗マイル
      2. エコノミークラス普通運賃:搭乗マイル
      3. エコノミーセイバー:搭乗マイル
      4. 前売り悟空・スペシャル悟空:積算なし
      5. ツアー運賃:積算なし
  4. 引き絞り
    • 国内線
      1. 普通運賃系:搭乗マイル
      2. 割引運賃A:積算なし
      3. 割引運賃B:積算なし
      4. ツアー運賃:積算なし
    • 国際線
      1. ファーストクラス・エグゼクティブクラス運賃:搭乗マイル
      2. エコノミークラス普通運賃:搭乗マイル
      3. エコノミーセイバー:積算なし
      4. 前売り悟空・スペシャル悟空:積算なし
      5. ツアー運賃:積算なし

 この内、一番嬉しいのは言うまでもなく1番の現状維持ですが、私は3番または4番となる危険性が非常に高いと思っています。まぁ、流石に4番は消費者の反発が強いでしょうから、取り敢えず3番で様子見という事になるんでしょうね。
 因みに、FLY ONポイントに関する議論は、マイル積算率そのものが改定されて上記「マイル引き絞り」になると、一切無意味になります。何せ、割引運賃Bや前売り悟空・スペシャル悟空ではどんなに乗ってもFLY ONポイントどころか搭乗マイルすら積算されなくなりますからね。