五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

スターフライヤーの進むべき路線展開

 ご存知の通り、スターフライヤーは東京=北九州線を12往復という異例の便数でデビューするのですが、公式サイトには既に将来構想が掲載されています。それは、北九州=上海・広州・ソウルといった近距離国際線や、北九州=札幌・那覇などの国内新路線です。しかし、私が思うに、これらはスターフライヤーの進出すべき道ではないような気がします。下手に新北九州空港固執しても、ドツボに填るだけです。



 日本の航空需要は、経済構造と同様、極端なまでの東京一極集中です。国内線も国際線も、その半数は東京発着路線で、国内空港の数多くが「東京線モノカルチャー空港」とも言うべき有様です。特に、山陽筋においてはこの傾向が顕著で、中には山口宇部空港のように定期路線が東京線しか存在しない空港すらあります。新幹線の存在により大阪線名古屋線が成立し得ない以上、こうなるのは致し方ない部分もあります。まぁ、それでも空港が成り立っているんですから、「東京線モノカルチャー空港」というのも、それはそれで1つのあり方でしょう。
 新北九州空港も、山陽筋の例に漏れず、「東京線モノカルチャー空港」として誕生します。一応、J-AIR県営名古屋空港小牧空港)に3往復、日本トランスオーシャン航空(JTA)が那覇空港に1往復、それぞれ開港と同時に就航するのですが、利用者で言えば空港全体の1割強といった所で、残りの85%は東京線の利用者になると見ていいでしょう。新北九州空港の手前味噌な需要予測によれば、東京線の乗客は全体の半分にも満たないんだそうですが、現実はこんなものです。
 スターフライヤーは、当面の間は東京=北九州線が事業の核になる事でしょう。スカイマークが東京=福岡線を屋台骨にしたのと同様、先ずは「これだけで食える」という経営基盤をしっかりと確立させる事が大事です。しかし、スターフライヤー自身、何時までも「東京=北九州モノカルチャー航空」でいる気はないでしょうし、それでは折角のA320役不足になるというものです。とあれば、何処か別の路線に参入するというのは、ある意味自然の成り行きでしょう。もし、東京=北九州線が思いの外芳しくない業績を出そうものなら、他路線への転進はなお喫緊の課題として浮上してきます。
 ここで、スターフライヤーには3つの選択肢が与えられます。

  1. 北九州=上海・広州などの近距離国際線
  2. 北九州=札幌・那覇などの中距離国内線
  3. 東京をベースとした北九州以外の国内線

 当然、スターフライヤーの中の人は1→2→3の順番で展開していきたい所でしょうが、私は逆に3→2→1の順番で展開する事を推奨します。というよりも、必ずしも事業の核を新北九州空港に置く事はないのです。



 先ず、近距離国際線への進出ですが、これは論外です。唯でさえ、日支航空協議が物別れに終わっている中、スターフライヤーが上海線や広州線をやらせてくれなんて言い出そうものなら、国土交通省に思いっきり睨まれます。というのも、2国間の国際線は双方の発着枠が平等になるようにするのがグローバルスタンダードですから、スターフライヤー支那大陸線の発着枠を与える為には、支那の航空会社にも日本線の新たな発着枠を認めなければならなくなるからです。そして、中国国際航空中国東方航空が一様に要求しているのは、羽田空港の昼間国際線枠です。つまり、スターフライヤーが上海や広州へ就航する代償は、北九州ではなく東京で購わされる事になるのです。首都圏の航空利用者にとっても、或いは羽田発着枠を切望する他空港の利用者にとっても、到底承服できた話ではありません。
 強いてスターフライヤー支那大陸線就航の可能性を見出すなら、それは2009年に控えている羽田再拡張の後の事です。羽田空港D滑走路の供用開始により、羽田空港の発着枠は年間28万回から年間41万回へと大幅に拡大されます。これにより、羽田発着枠の価値は相対的に現在よりも低下しますから、少しはバーターの目も出てきます。しかし、一方で支那大陸における日本線の発着枠が何処まで拡大されるかが不明である以上、そう易々と年間3万回の国際線発着枠を支那へと交付する事はあり得ません。双方の空港容量が完全にフリーになるまでの間、羽田発着枠は国土交通省にとっての切り札であり続けます。とても、スターフライヤー如きが入り込める世界ではありません。
 更に言うと、国際線は世界情勢によって簡単に乗客が増減しますから、とても新規航空会社が事業の核に出来るものではありません。9.11の同時多発テロ以降に日本航空が陥っているダッチロールを見れば、如何に国際線需要が水物であるかなど、説明の必要はないでしょう。しかも、支那や南鮮のカントリーリスクは非常に高く、将来に渡って安定した路線運営が出来る保証は何処にもありません。「支那バブル」に乗ろうとすれば、そのバブル崩壊と同時にスターフライヤーも崩壊する事になるのです。

 次に、札幌線・那覇線など国内線への進出ですが、これも余りお薦めできたものではありません。上述の通り、日本の国内線も国際線も需要は極端なまでの東京志向であり、地方都市同士を結ぶ路線は何処もかなり苦戦しているのが現状です。東京線こそ活況を呈している岡山や広島といった空港においても、札幌線や那覇線ともなると、ダブルトラック化する事すらままならないのです。また、山口宇部=札幌線は過去にANAが撤退した路線であり、北九州=那覇線は既にJTAがナイトステイまで含めた盤石の態勢です。とても、これらの路線では収益源にはなりそうもありません。
 強いて北九州発着の国内線をやろうとするのであれば、残る可能性は北九州=名古屋(中部)線だけでしょう。流石に伊丹や関空では新幹線との競合に勝てるはずもありませんが、中部なら何とか苅田以南の需要を取り込める余地は残っています。とはいえ、新北九州空港中部国際空港も、中心街からのアクセスはそこそこ時間が掛かりますから、所要時間や運賃で新幹線と大いに競合する事となってしまいます。片や新幹線、今年3月から名古屋へは毎時2本。片やスターフライヤー、名古屋へは多くても1日3往復。これでは、就航前から価格競争に追い込まれるのは必至ですね。

 となると、残る選択肢は、東京をベースとした多方面の路線展開という事になります。日本経済の東京一極集中を考えれば、この選択肢は必然と言うべきであり、北九州路線よりも遥かに多くの需要が見込まれます。スカイネットアジアにしろエア・ドゥにしろ、結局その路線展開は宮崎ベースや札幌ベースではなく東京ベースです。特に、スカイネットアジアは宮崎資本でありながら熊本や長崎に進出しているのですから、スターフライヤーもその無節操さを大いに学ぶべきでしょう。
 また、機体整備の面からも、東京ベースの路線展開は必然です。スターフライヤーは、技術面や営業面でANAと提携していますから、その整備拠点は必然的に羽田空港という事になります。となると、北九州ベースの路線展開をしていると、整備点検時は東京=北九州線を使って機材を羽田空港に送り込む必要が出てきます。路線や機材が多くなればなるほど、羽田空港へ送り込む機材繰りも大変になってきますから、結局は新北九州空港の介在しない東京路線を展開せざるを得なくなってくるのです。スターフライヤーが自前で新北九州空港に整備拠点を構えられない限り、北九州ベースの路線展開など夢のまた夢というべきでしょう。
 では、何処に路線展開すべきかという事なのですが、私が思い付くのは以下のような路線です。

  • 東京=那覇
  • 東京=鹿児島
  • 東京=岡山
  • 東京=関西

 先ず、東京=那覇線ですが、これは長期的な安定が見込めます。というのも、那覇線は競合する地上交通機関が存在しない為、JALやANAとの差別化にさえ成功すれば、かなりの固定客を確保する事が出来るからです。また、平均して2時間以上というフライトタイムであれば、本革張りのシートや個人用液晶テレビといったスターフライヤーの機内設備も、その真価を大いに発揮する事が出来ます。更に言えば、スターフライヤーお家芸となりそうな深夜・早朝便についても、既にスカイマークがその潜在需要を掘り起こしてくれています。正に、スターフライヤーの為にあるような路線でしょう。団体客なんて、JALやANAのB747-400Dに任せておけばいいんです。
 次に、東京=鹿児島線ですが、これは地元財界のバックアップが見込めます。昨年、スカイマークが鹿児島撤退の口実に新北九州空港への就航を利用して、いわさきグループを中心とした鹿児島財界の総スカンを食らった事は、記憶にも新しいところです。その逆コースをスターフライヤーが歩み、東京=鹿児島線を地道に育てていくというのであれば、これは鹿児島財界としても大歓迎でしょう。しかも、鹿児島財界は北九州以上に結束力が強いですから、ここで北九州財界における株主企業囲い込みの手腕を発揮すれば、スカイマークが実現し得なかった株主企業による安定需要も確保できる事でしょう。その代わり、鹿児島進出はスターフライヤーいわさきグループに乗っ取られかねないというリスクも抱えているんですけどね。
 それから、東京=岡山線ですが、これは周辺からの集客狙いです。山陽新幹線やJAL・ANAと真っ正面から競合する事になってしまいますが、航空機全体のシェアはまだまだ伸ばせる余地がありますから、スターフライヤーにも成功の可能性はあるでしょう。岡山空港は、無料駐車場や高速道路ICへの近接といった利点を持っていますから、新北九州空港でのセールスと同様、自家用車利用者向けのアプローチが生かせるでしょう。自前の管制さえ出来るようになれば、深夜・早朝便とまでは行かなくても、かなりそれに近いダイヤを組めるかも知れません。
 最後に、東京=関西線ですが、これは国土交通省に対するアピールです。スカイマークが這々の体で撤退した関空ですが、東京=大阪の異常な移動需要を考えれば、ニッチ需要さえ確保できれば、スターフライヤーにも生き残りの目はあります。何よりも、羽田=関空で1日10往復も飛ばしていれば、国土交通省の覚えも愛でたくなるというもので、今後の活動もやりやすくなるというものです。取り敢えず、普通運賃を1万円ポッキリで設定できれば、割引運賃がなくても生き残っていけるでしょうね。利益率の低さは、地元からの補助金国土交通省の依怙贔屓でカバーできます。多分。



 以上、スターフライヤーの進むべき路線展開を見てきましたが、どのみち重要な事は、利益率の高い路線に特化するという事です。新規航空会社など、財務的には根無し草も同然です。長期的なスターフライヤーの発展の為には、新北九州空港という拠点ですら、聖域ではあり得ないのです。
 2009年には羽田空港の発着枠が大幅に拡大され、否応なしにスターフライヤーもその渦中に巻き込まれる事になります。その時にどれだけ巧く羽田空港で立ち回れるかが、スターフライヤーの将来を決めると言ってよいでしょう。尤も、その時までスターフライヤーが残っているかどうかという問題もあるんですけどね。実質的に北九州市営航空となっている危険性も、決してゼロではないのです。