五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

日本でのLRT導入を阻むもの

 SAFETY JAPAN 2005のコラムで、船瀬俊介氏がこんな事を書いていました。

○安全・安心を守る消費スタイル
第18回 新時代の路面電車LRT」が世界的なブームに
〜自動車文明がもたらした都市空洞化を救え!〜

http://nikkeibp.jp/sj2005/column/d/18/index.html

 まぁ、日本でも広島や長崎のように路面電車が市民権を確保している都市はありますし、京都や宇都宮のようにLRTを復活させようと取り組んでいる自治体もあります。鉄道ジャーナルや鉄道ファンなどでも、LRTの特集記事は数年前から数多く見られるようになっています。しかし、欧米のような本格的LRTの導入事例となると、日本では皆無です。その背景には、政治的・経済的な都合が数多く存在します。



 日本においてLRTが普及しない理由としてよく指摘されるのは、以下の事項です。

  1. 軌道敷きへの車両乗り入れを規制していない。
  2. 鉄道事業は一般に独立採算が求められる為、運賃が高くなる。
  3. 地方都市の生活スタイルが郊外型に移行している。

 勿論、それぞれの理由は妥当していますし、私自身も異を唱える心算はありません。実際、広島では軌道敷きへの乗り入れだけでなく軌道敷きを跨ぐ右折の規制まで行っていますし、長崎では100円均一という低廉な運賃設定を維持しています。しかし、これだけなら欧米でも同じ壁に突き当たっていますし、最大の障壁というべき採算性についても、地方自治体が補助金を積む事例が日本でも増えています。何故「日本だけLRTは普及しないのか」という疑問への回答としては不十分です。
 私は、ここに2つ理由を追加して、LRT普及遅延の理由とします。

  1. 在来線における狭軌鉄道の普及
  2. 二大政党それぞれの業界との癒着

 これが、LRTの普及を阻害する日本の特殊事情なのです。



 先ず、狭軌鉄道の普及についてですが、日本の在来線はJR・私鉄とも狭軌鉄道、即ち軌間1067mmであるものが大半です。一方、路面電車は急カーブが多い事から軌間も広く取る事が求められ、大抵は1372mmないし1435mmの軌間を持っています。京成・京急や関西私鉄などの路面電車由来鉄道では、そのまま標準軌を採用しているものが多くあります。当然ながら、狭軌標準軌とではそのまま直通する事は出来ませんから、3線軌道やフリーゲージトレインといった仕掛けが必要になってきます。
 欧米におけるLRTの真髄は、都心部路面電車と郊外の高速電車とのシームレスな直通運転にあります。郊外の住宅地から迅速かつ安価に、しかも乗り換え無しで中心市街地まで足を運べるからこそ、LRT利用のインセンティブにもなるのです。そして、路面電車・高速電車とも既存のインフラを活用できるが故、LRTの総事業費を抑制する事になり、地方自治体も財政負担で支えきれるのです。線路なり車両なりに大掛かりな仕掛けが必要な日本では、シームレス化は夢のまた夢です。
 強いて言うならば、日本においては地下鉄の郊外直通運転がLRTに相当するものと思われます。しかし、建設費や維持費は非常に高く付く事になり、そのコストはそっくりそのまま運賃へと跳ね返ってくる事になります。また、地下鉄は路面電車と違って駅の設置1つにもかなり苦労させられますから、とてもLRT並みのきめ細やかな駅設置など望むべくもありませんし、その数少ない駅ですら地上からは非常に遠いものとなってしまいます。これでは、特に交通弱者に「利用するな」と言っているようなもので、LRTの土壌など望むべくもありません。

 次に、二大政党それぞれの業界との癒着ですが、これは特に「最大野党」という名のゆ党である民主党の罪責が大です。日本での郊外化を決定的に加速させたのは、大店法大店立地法への移行による大型店の規制緩和ですが、この規制緩和を最も有効に利用したのがイオングループです。現在、日本の地方都市へ行けば、かなりの確率でイオン系の大型ショッピングセンターを見る事が出来ます。この辺の事情については、以前に書いた記事を参照して下さい。
 要するに、自民党が自動車業界の利益を代弁し、民主党が流通業界の利益を代弁しているというのですから、地方都市の郊外化が止まるはずもありません。現在の民主党は弱小野党の1つに過ぎませんが、それでも他の零細政党に比べれば遥かに大きな規模があります。地方都市の郊外化に関する限り、国政は完全にオール与党状態なのです。
 とはいえ、小売店舗の郊外化・大型化により、消費者も物価低廉化というスケールメリットを享受していますから、闇雲に規制強化で対応しようなどというのは余り意味がありません。福島県のように大型店の出店規制条例を制定するなどは愚の骨頂であり、関連業界どころか一般消費者までをも敵に回すだけです。中心市街地の空洞化は、単にモータリゼーションの進展というだけの話ではなく、中心市街地そのものの陳腐化という大きな問題が存在するのです。狭苦しい商店街で旧態依然の商売を繰り広げられては、元々徒歩圏に済んでいたとしても買い物に行く気になどなりません。実際、首都圏郊外においても、駅から徒歩圏に住んでいるにも関わらず、わざわざ自動車でロードサイドのショッピングセンターまで買い物に行く向きは少なくありません。商店街の活性化には、交通の利便性以上に、店舗そのものの魅力向上が必要なのです。

 という事で、余り日本での普及が見込めないLRTなのですが、取り敢えず私なりの現実解を提示しておきます。

  • 道路特定財源による市内区間の建設
  • LRT郊外駅への大規模ショッピングセンターの併設
  • 地元商店街の出資による低運賃・多頻度運転の確保

 まぁ、路線の建設までは道路特定財源で面倒を見てもいいでしょうが、LRT事業者の甘えを防ぐ為にも、そこから先は基本的に自助努力とした方がいいでしょう。もし、どうしても補助が必要だというのなら、LRTの直接にして最大の受益者である中心市街地の商店街が責任を持つべきです。或いは、地元商店街にLRT事業者への出資を義務付けても良いでしょう。LRTと商店街との相乗効果をハッキリさせてこそ、LRT運営のインセンティブも出てくるというものです。