五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

スターフライヤー関空線の成算

 さて、一昨日第一報をお伝えしたスターフライヤーの羽田=関空線参入ですが、肝心の関空線自体の成算について、何もコメントしていませんでした。果たして、スターフライヤー関空線はうまく行くのかどうかという事ですが、私はスカイマーク関空線よりは長持ちするんじゃないかなぁと思っています。というのも、羽田=関空線には以下のようなプラス条件が揃っているからです。

  1. 東京=大阪の移動需要は桁違いに大きい
  2. 関西国際空港は24時間供用可能
  3. 関空線の開設や運航に当たって様々な公的援助が見込める

 それぞれについて、細かく解説していきます。


1.東京=大阪の移動需要は桁違いに大きい

 スターフライヤー*1、北九州=羽田線の就航に当たり、「北九州=首都圏には年間900万人からの潜在的な移動需要が存在する」と見込んでいましたが、これが首都圏=近畿圏という事になれば、年間移動需要はゼロ1個分くらい違います。東海道新幹線だけで軽く8,000万人、航空機や高速バスなども含めれば、総移動需要は1億人にも達しようかというくらいです。単純計算でも、日本人の3人に1人が年間1回は東京=大阪を移動しているという事であり、東海道昼特急のようなニッチでも十分ビジネスとして成立してしまうのです。
 移動需要が大きくなればなるほど、その交通手段選択における条件も千差万別になってきます。例えば、私が10秒で思い付くだけでも、

  • 本数・便数が多い事
  • 駅・空港などが出発地や目的地から近い事
  • とにかく安い事
  • 実際の乗車・搭乗時間が短い事
  • 自分の乗りたい時間帯に運行・運航されている事
  • 多頻度顧客に対するサービスが手篤い事
  • ラウンジでビールを呷れる事
  • 移動中の時間を有意義に使える事

 などなど、実際には数え切れないくらいのニーズが存在します。「携帯電話が使えるので新幹線」という向きもいれば、「タバコ臭くないので航空機」なんて向きもいます。当然、JALANAFFPで雁字搦めになったマイル社畜出張族なんてのも多数いて、JALANAの収益に大きく貢献しています。
 となれば、北九州空港利用者には見向きもされなかったスターフライヤーの「一味違うホスピタリティ」が、東京=大阪においてはニッチのニーズを満たす重要なファクターにもなり得るのです。あとは、スターフライヤーが「一味違うホスピタリティ」を求める顧客に対してどれだけ知名度を上げられるかが勝負になるのでしょう。まぁ、スターフライヤーの広告戦略を見る限り、即物的なCMを好む関西文化圏でどれだけ視聴者の印象に残るかは甚だ疑問なのですが。


2.関西国際空港は24時間供用可能

 スターフライヤーのコンセプトの1つに、「24時間運航の都市型エアライン」というものがあります。就航地選択で神戸空港ではなく北九州空港を選択し、早朝・深夜便を運航したのも、「24時間運航」というコンセプトに拘ったからです。結局、そのコンセプトが結実する事はなく、SFJ71/92便は1年と持たずに廃止、SFJ93/70便ですら全日空からコードシェアの対象外にされるなど、会社そのものを大きく傾ける結果になった事は、皆さんご存知の通りです。
 しかし、これが東京=大阪という世界でも非常に特殊な大規模市場であれば、諸悪の根源どころかキラーコンテンツになる可能性すらあります。現在の北九州空港という不便な立地ですら、ハロヲタのコンサート遠征やJリーグサポーターのトリニータ戦遠征には活用*2されていて、コンサート終演や試合終了の後に地元へと移動できるスターフライヤーは、不人気故の低運賃と相俟って、これら行動的ヲタのニッチ需要によく応えています。そこへ来て、イベント類が北九州・福岡周辺とは桁違いに多く、東京へ馳せ参じるヲタの頭数も桁違いに多い関西圏となれば、極端な話、ヲタの移動需要だけでA320の座席を埋め尽くす事も可能なのです。
 当然ながら、羽田=関空の早朝・深夜便は、ヲタ需要だけではなくビジネス需要も見込めます。最近では、伊丹空港運用終了後の関空便がビジネス客に再評価され始め、21時過ぎのサクララウンジJGC出張族で埋め尽くされる光景も珍しくありません。あとは、今まで東海道新幹線を利用していたビジネス客をどれだけスターフライヤーに連れ込めるかが勝負の分かれ目です。どうせ、既存のJAL便・ANA便利用者はFFPで雁字搦めになっていますからね。


3.関空線の開設や運航に当たって様々な公的援助が見込める

 現在のスターフライヤーがどれだけ福岡県や北九州市補助金でズブズブに浸かっているかは、ブロハラ読者の皆さんであれば十分ご承知の事とは思います。実際、累積赤字の半分近くを補助金で損失補填しているような状態で、両者の補助金がなければ、オレンジカーゴよりも早く経営破綻に追い込まれていました。そんな事になれば、新北九州空港自体の事業正当性が否定される事になるので、福岡県も北九州市も無い袖を振って必死に補助金を注ぎ込んでいるのです。そんな新北九州空港の足許をJALギャラクシーエアラインズもキッチリ見ているというのも、これまたブロハラ読者の皆さんには周知の事実です。
 そんなスターフライヤー補助金商法ですが、関西国際空港においては、これの二番煎じが尽く成功する公算が大です。というのも、関西国際空港二期計画の全面完成を願う国や地元自治体にとって、旅客数・貨物数・便数の維持拡大は最優先の命題です。「平行滑走路の完成で関空事業は打ち止め」としている財務省の意向を覆す為なら、ある程度の補助金は惜しまないでしょうし、税制上の優遇措置も期待できるでしょう。関西国際空港の場合、大阪国際空港神戸空港を含んだ関西3空港の政策ミスに巻き込まれている部分が大きい為、新北九州空港とは違って「単なるコンコルドの誤り」とは断じきれないのですが、中の人の潜在意識は両者ともほぼ完全に一致していると言っていいでしょう。
 また、スターフライヤーが5号機の導入を見送る理由ともなった羽田空港の発着枠ですが、これまた関空線開設が突破口になる可能性があります。というのも、「新規航空会社が」「関空に就航します」と言うのであれば、さしもの国土交通省もあっさりと羽田枠追加配分を認めようというものです。更に言うなら、国土交通省では関空発着便を真面目に運航していれば羽田や成田の発着枠配分で優遇されるという変則的な信賞必罰システムが運用されていますから、首都圏を拠点とする路線展開を将来構想に持つのであれば、関空への就航は必要不可欠です。補助金や発着枠だけでなく、未来へのパスポートまで手に入るという事であれば、スターフライヤーにとって関空進出は渡りに船となる事でしょう。



 以上を踏まえて考えれば、スターフライヤー関空線が成功する為の条件は、以下の3つであるという事になります。

  1. 自社の顧客層を正しく見極めた広告戦略を採る
  2. 早朝から深夜まできめ細かく便を設定する
  3. 国や地元自治体から補助金を取れるだけ取る

 実は、これらの成功条件は、スカイマーク関空線が失敗に終わった理由とも一致します。スカイマーク関空線の失敗は、以下のような原因によるものです。

  1. 既存航空会社とも高速バスとも、自社サービスを差別化しきれなかった。
    • 運賃はそれほど安くない。
    • マイレージは貯まらない。
    • 機内サービスの特殊さもない。
  2. 1日に僅か4往復しかなく、関空ナイトステイ便の設定もなかった。
  3. 関西国際空港の着陸料以外に、これといった補助金や優遇を得られなかった。

 そして、これらの反省が、「第二の創業」によって見事に神戸便に生かされているのです。

  1. 普通運賃を他社だけでなく新幹線よりも圧倒的に安くした。
  2. 早朝から深夜まで、羽田空港神戸空港それぞれの発着で実現可能な最大限まで便を設定した。
  3. 神戸空港内とステイ便を設定した。
  4. 神戸線の羽田発着枠は全て新規優遇枠から捻出した。

 この時、スカイマークは札幌線にも同時就航する為、鹿児島線徳島線関空線の3路線から同時に撤退するという荒業をやってのけました。この強引さについては、スターフライヤーも見習うべき部分があります。つまり、スターフライヤー関空線が成功する為に最も重要な条件は、北九州空港から完全撤退してでも関空線の頭数を揃えるという事です。いきなりの完全撤退は無理でも、北九州線は4号機に任せて、1号機から3号機までを関空線に集中投入するくらいの転進は必要でしょう。

*1:スターフライヤーではなく新北九州空港建設促進協議会だったかも知れませんが、いずれにしても新北九州空港盲信派の主要なマントラであった事は確かです。

*2:実際、はてなダイアリーキーワードで定点観測していると、スターフライヤー北九州空港に関する記事の半数以上はこれらの人間によって書かれています。