上記では、意図的に全日空とのコードシェアという要素を排除して書きましたが、ここで順当と思われる全日空とのコードシェアが実現した場合の事を検討してみます。但し、羽田=北九州線とは異なり、羽田=関空線は既にANA運航便も就航している為、検討の際には以下の3パターンに分けて考える必要があります。
既にANA運航便自体がスターアライアンス各社とのコードシェア便になっている事を考えれば、1のパターンが最も順当であるような気はしますが、一応3つとも考えてみる事にします。
1.SFJ運航便にのみANA便名が付与される。
現在、ANA関空線は、以下の航空会社とコードシェアしています。
関空を忌み嫌う全日空が渋々羽田線を維持しているのは、国土交通省の顔色を窺うだけではなく、大阪に就航しているスターアライアンス他社からの要望もあるのです。全日空は、販売責任をスターアライアンス他社に押し付けながら国土交通省のご機嫌を取り、スターアライアンスは、ANA便を利用して大阪・東京の三角運航を確保するという、何とも微妙なバランスの上にANA関空線は成立しているのです。
こんな中、更にスターフライヤーに販売すべき座席がANA運航便に残っているかとなると、私はそんなに多くないような気がしてなりません。幾ら自社で運航しているとはいえ、その販売責任の大部分を他社に押し付けているとなれば、国土交通省から「真面目に関空便を運航している」とは見なされなくなる危険性が大だからです。となれば、ANA運航便はそのままで、SFJ運航便にだけANA便名が付与されると考えるのが正着でしょう。これならば、
という、羽田=北九州線にも似たメリットが発生します。スターアライアンス他社からのコードシェア需要がない時間帯であれば、不採算路線の運航をスターフライヤーに任せて全日空は関空線から撤退するというオプションまであり得るのです。その分の羽田発着枠をスターフライヤーに付け替えられるのであれば、スターフライヤーにとっても嬉しい話でしょうし、5号機の必要性や採算性もグンと上がります。
尤も、このパターンによってANA運航便が減便されるという事であれば、AIR DOやスカイネットアジアと同様、スターフライヤーも全日空の不採算路線を担当する一部門に落魄れるという事に他ならず、スターフライヤーの独自性はほぼ完全に消滅する事になります。まぁ、ドールキャピタルマネジメントにとっては、独自性よりも採算性や永続性を重視して欲しいところではあるでしょうけどね。取り敢えず、スターフライヤーが関空=新千歳線や関空=那覇線を開設したら要注意です。
2.SFJ運航便にANA便名が付与されるのと同時に、ANA運航便にもSFJ便名が付与される。
これが、あらまほしきコードシェアの姿です。そして、日本航空とスカイマークとが羽田=関空線でコードシェアしていた時も、JAL運航便・SKY運航便それぞれに相手航空会社の便名が付与されていました。仮に、スターフライヤーが4往復ないし5往復で関空線に参入するという事になれば、やはり同数のANA運航便にSFJ便名が付与されるのが、自然な結論でしょう。そして、その時に障害になるのが、現時点でANA運航便が実施している他社とのコードシェアであるというのは、前述の通りです。
寧ろ、ここで憂慮すべきは、SFJ便名の航空券で搭乗しておきながら、スターフライヤーの「一味違うホスピタリティ」が味わえなくなるという事態が発生する事です。「一味違うホスピタリティ」自体がどれだけ既存のスターフライヤー利用者に求められているかは甚だ疑問ですが、スターフライヤーが「一味違うホスピタリティ」を放棄する事は、アイデンティティの自己否定に他なりません。そして、ANA運航便を利用した既存のスターフライヤー利用者に「結局、一味違うホスピタリティなんてあってもなくてもどうでもいい」なんて思われてしまったが最後、利用運賃に制約のないビジネス顧客から雪崩を打って全日空に流出していく事でしょう。
こうなれば、スターフライヤーのANA化を阻むものは何もなくなります。私が以前から予言していた、
がいよいよ現実のものとなっていきます。或いは、SFJ便名での利用者が極端に少なくなるようなら、エアーネクストやエアーセントラルと同様、スターフライヤーもANA便の運航を受託する下請け航空会社に身を落とす事になるでしょう。尤も、出資者がそれを望むであろう事は、前述の通りですけどね。
因みに、JAL便名を付与したSKY運航便において、JAL便名での利用者から「機内サービスの水準が低い」とクレームが出ていた事がありますが、ANA便名の付与されたSFJ運航便では同様のクレームは出ない可能性が大です。というのも、スターフライヤーの機内サービスは最低でも全日空と同等以上ですし、シートピッチや個人用テレビといったハード面を見てもスターフライヤーは全日空より有利です。スーパーシートプレミアムの多頻度顧客*1であればいざ知らず、普通席利用者であれば、敢えてSFJ運航便を指名買いするケースまで考えられます。まぁ、その結果は、SKY運航便の時と同様、「全体ではガラガラなのに、ANA販売分の座席だけはギッチリ埋まっている」というオチかも知れませんけどね。
3.ANA運航便にのみSFJ便名が付与される。
このパターンになる事は、殆ど考えられません。あり得るとすれば、以下の条件が全て揃った時のみです。
現状、JAL・ANAとも羽田=関空線の運航時間帯は大幅に偏っていますが、これはつまり両社とも「この時間帯だけ運航しておけば羽田=関空線は事足りる」と考えている事の証左であり、敢えて利用者の少ないに運航する意思はないという事を行動で表しているまでの事です。こんな運航が実現可能なのは、JAL・ANAとも羽田線以外にも国内線・国際線で様々な路線を運航しているからであり、実際深夜の羽田行きや早朝の羽田発は国際線機材のオンパレードです。私も、国際線機材のビジネスクラスには、幾度となくお世話になっています。
一方、関空発着路線を他に持たないSKYやSFJにおいては、羽田=関空線の機材運用は自然と蜻蛉返りに限定されますから、早朝・深夜のみ運航するという英断に踏み切れない限り、等間隔に便をバラ置きする事になります。日本航空がSKY関空線に自社便名を付与したのは、バラ置きされた昼間便を利用して空白時間帯を穴埋めする事のみが目的で、しかもその穴埋めに殆ど意味はありませんでした。結局、現在では両社のコードシェアは完全に解消されています。恐らく、全日空は日航以上に関空昼間便を忌み嫌う事でしょうから、敢えて昼間のSFJ便を望むような事はしないかも知れません。
とあれば、全日空が敢えてSFJ運航便の座席を欲しがる事はないのかも知れません。しかし、スターフライヤーにとっては話は別です。もし、羽田=北九州線のコードシェアで、福岡空港や山口宇部空港を利用していたANA便利用者を取り込めれば、スターフライヤーが羽田=関空線で二匹目のドジョウを狙うであろう事は明白です。縦しんば、ANAマイレージクラブ会員をSTAR LINKへと引き込めれば、「関空でも自社便で……」とスケベ心を見せてくる事でしょう
こうなれば、全日空が決して搭乗率の高くない羽田=関空線の座席をスターフライヤーに販売する可能性も、決してゼロではありません。この時の販売価格は、全日空主導でかなり高めに設定される事になるのでしょうが、福岡や山口宇部からの顧客取り込みで財務状況が改善されたスターフライヤーにとっては、高すぎる買い物ではなくなっている事でしょう。勿論、「一味違うホスピタリティ」などというものは全然出てこなくなるのですが、これについては前述の通り相互コードシェアでも発生し得る事です。
以上を総合的に判断すれば、やはりスターフライヤーが補助金ゾンビから全日空の社畜に死に変わるという展望しか見えてきません。そんな中で、敢えてスターフライヤーが独立して生き残ろうというのであれば、以下の条件を全日空から勝ち取る事が必要になります。
- 羽田空港の発着ターミナルを第2ターミナルビルに移転する事。
- 羽田空港での発着スポットをANA関空線と同等に優遇してもらう事。
- AMC上級会員*2にSTAR LINK VEGA会員資格を付与するステータスマッチを実施する事
- 羽田空港・関西空港において、STAR LINK VEGA会員がsignetを利用できるようにする事。
死に体のスターフライヤーがこんな条件を勝ち取れるとは思えませんが、それが出来ないというのなら、大人しく全日空の奴隷に成り下がるまでの事ですね。
……と、ここまで書いてふと心配になったのですが。
「LOUNGE NOIR」ってAMC上級会員に開放されるんですよね?(;´Д`)
全日空とコードシェアする以上、こういう配慮をする事は当然なのですが、スターフライヤーの事ですから、空港でのラウンジアクセスについて無頓着である危険性は大です。ANAコードシェア便が多頻度顧客に見向きもされないという現実が明らかになってからラウンジを開放したところで、泥縄もいいところなんですけどね。