五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

何かと課題の多い横田基地の軍民共用化

 今日の本題に入る前に小ネタを1つだけ(つ´∀`)つ
 昨日、入浴時に何気なく見ていたMXTV都知事定例会見*1で、いつもの如く石原慎太郎が米軍横田飛行場の軍民共用化について意気込んでいました。

○知事の部屋/石原知事記者会見(平成19年放送分)|東京都

○横田飛行場の民間航空利用

http://www.chijihon.metro.tokyo.jp/kiti/minkan/minkan.htm

 まぁ、当事者じゃなければ石原慎太郎の言っている事は非常に小気味よく聞こえるのですが、やはり横田基地を民航に開放するに当たっては、何かと課題が多いような気がしてなりません。


1.横田空港へのアクセス確保が困難

 現在、横田基地近隣には、JR青梅線八高線及び西武拝島線が走行していて、基地南端にはこれら鉄道路線の要衝である拝島駅が存在します。一見、鉄道アクセスに関しては殆ど整備の必要がないように思われますが、それはあくまでも拝島駅から横田空港ターミナルビルまでの間だけを考えた時の話であり、都心部や神奈川県からのアクセスという視点が完全に欠け落ちています。空港アクセス鉄道の利便性を確保するに当たって最も重要なのは、既存路線においてどれだけ空港アクセス列車が快適に走行できるかであって、この点でJRも西武も及第点には及ばないのです。
 JRについては、既に中央線が三鷹=立川で連続立体複々線化事業に着手していて、横田基地の軍民共用化が実現する頃には立川まで複々線化が完成している事でしょうが、一連の事業は横田基地の民航開放とは無関係に行われている事であり、当然ながら横田空港の利用者が中央線を利用する事を想定したものではありません。逆に言えば、立川までの複々線化事業が完成した所で、中央線に横田空港の利用者を受け入れるだけの余力はなく、特に朝ラッシュ時は直通列車の運転すら困難を極める事になりそうです。縦しんばATS-Pを最大限活用した現行ダイヤに空港アクセス列車をねじ込んだ所で、よくて通勤特快並みのノロノロ運転、下手すれば横田空港から中野まで各駅停車などという事すらあり得ます。複々線化の完成と同時に快速電車の停車駅を大幅に削減できれば問題ないのですが、杉並3駅の土曜日快速通過でさえ大揉めに揉めた中央線において、武蔵境や国立を快速停車駅から外そうという事になれば、最後は必ず訴訟沙汰になります。果たして、東京都が今からJR東日本とタッグを組んで沿線に巣喰うプロ市民を駆逐する覚悟があるのか、私には疑問でなりません。
 一方の西武ですが、こちらは受け入れ態勢がJRよりも更に貧弱です。拝島線の一部区間に単線区間が残っているのを始め、複々線化の頓挫や高田馬場駅の容量限界、西武新宿駅の不便な立地など、JRよりも空港アクセス列車の増発が困難な状態です。現在の急行をそのまま横田空港まで延長するにしても、田無=拝島を各駅停車で運転する訳にもいかないでしょうから、急行格上げを補填する各駅停車の増発や拝島線内待避設備の新設は不可避です。更に言うなら、小平・萩山・小川という平面交差のジェットストリームアタックは、定時性を至上命題とする空港輸送にとってはダイヤ乱れ時に致命傷となる*2危険性が極めて大きく、拝島線の全線複線化と合わせて、これらの立体交差化も検討しなければなりません。西武自身は池袋線の連続立体複々線化で息切れする事が必至ですから、これらの輸送力増強は何かと理由を付けて大部分を国や東京都からの税金から支出する事になりますが、空港整備特別会計から支出するにしても道路特定財源から支出するにしても納税者から強い批判を受けるのは確実で、事業化までには一悶着ありそうです。
 しかし、最も課題が大きくなりそうなのは、JRでも西武でもなく、自動車による交通アクセスです。曲がりなりにも都心部までの経路が確立されている鉄道とは異なり、自動車については中央自動車道八王子IC=横田空港が微塵も空港アクセスを考慮した構造になっていません。特に酷いのは小荷田交差点=武蔵野橋で、現状でも激しい渋滞なのが、空港アクセス車両によって意識不明の渋滞になるであろう事は必至です。縦しんば空港アクセス車両を下道に降ろさずに八王子ICまで運んだ所で、今度は中央道が片道2車線の慢性的なボトルネックですから、やはり輸送力不足が早々に顕在化する事になってしまいます。東八道路は全線開通の目処がありませんし、かといって都心まで青梅街道利用など論外ですから、やはり首都高速道路新宿線まで含めた中央道の輸送力増強が不可欠なのです。しかし、今から1車線増やすだけでも大変な事業になりそうなのですが、それを誰が出すのかについては、例によって全然議論された形跡はありません。まぁ、税金に頼る他はないと思いますけどね。


2.どの航空会社に利用させるのかが未定

 現在、JALANAなどの国内大手航空会社は、羽田空港や成田空港に一大運航拠点を築いています。機材繰りや乗務員の勤務行程も、羽田・成田を発着する事を前提としたスケジュールになっています。東京の場合、特に「国内線は羽田、国際線は成田」という大原則の元に運航拠点が築かれている為、機材や乗務員を集約する上では大いに効率的であるだけでなく、悪天候や機材故障などのイレギュラーにもかなり柔軟に対応する事が出来ています。
 しかし、ここに横田という第3の拠点が加わると、話はかなり異なります。横田を羽田や成田と同等の運航拠点とするか、或いは主要地方空港程度の扱いにするかの二択でしょうが、前者なら大々的な投資が必要になりますし、後者ならイレギュラーへの対応力が大幅に弱まります。関西においては、伊丹・関空に加えて神戸という第3の拠点が出来ましたが、地方空港と同等の扱いにした結果、高速道路の突発的な事故渋滞で欠航が発生した事もあります。重複投資やイレギュラー欠航を減らす為にも、大手航空会社は出来るだけ横田空港を敬遠する事でしょう。
 では、ユナイテッド航空ノースウエスト航空などの米系大手航空会社はどうかとなると、これまた横田空港への移転を渋る事になりそうです。というのも、両者とも既に成田空港を極東における運航ハブとしていますし、アライアンス内他社との協業において空港分断は大きなデメリットとなってしまうからです。コンチネンタル航空にしても、東京=ニューヨーク線をケネディ国際空港ではなくニューアーク国際空港に就航させているのは、ニューアーク国際空港自体がコンチネンタル航空の一大ハブだからであり、現時点では拠点性が全くない横田空港に対しては殆ど関心を持たない事でしょう。
 となれば、残るはスカイマークAIR DOなどの新規航空会社ですが、これはJALANAなどの大手航空会社とは別の意味で羽田空港に執着するでしょう。機材も便数も決して多くない新規航空会社にとっては、羽田空港の発着枠は既得権益どころか命綱であり、横田移転によってそ羽田発着枠を失うという事になれば、それがそのまま会社の死活問題に発展します。羽田空港よりも都心から遠い横田空港では大手航空会社に対抗できませんし、かといって羽田・横田のダブル拠点を築けるほど会社の規模も大きくありません。最後発のスターフライヤーでさえ羽田空港15便分の発着枠*3を確保したとなれば、これから創業する新規航空会社も真っ先に羽田発着枠を要求する事になるでしょう。この時、羽田の代わりに横田の発着枠を交付するような事があれば、「既得権益の保護」と国土交通省や既存航空会社が叩かれるであろう事は、火を見るよりも明らかです。
 結局、横田空港を素直に使ってくれそうなのは、チャーター便やプライベートジェットくらいのものです。羽田も成田も定期便でいっぱいいっぱいであるという事を考えれば、首都圏にオフライン用の空港を用意しておく事も必要でしょうが、果たして横田軍民共用化推進派が八尾空港+αのポジションでよしとするかについては、なお疑問の残る所でもあります。まぁ、それ以前に米軍基地が何処の馬の骨とも知れない自家用航空機を受け入れるのかどうかが甚だ疑問でなりませんけどね。


3.羽田・成田再拡張後の位置付けが不明

 東京都が必至に横田基地の軍民共用化を訴えている間にも、着々と羽田空港の再拡張工事は進行しています。

羽田空港再拡張及び首都圏第3空港について

http://www.mlit.go.jp/koku/04_outline/01_kuko/02_haneda/index.html

 これが完成すれば、年間処理能力が現在の1.4倍になり、発着回数で見ると12.2万回の増加になります。1日当たりに均せば334回ですから、羽田再拡張で最低でも1日150便の増便余力が発生する計算です。
 一方、成田空港においては、B滑走路の延長及び代替誘導路新設が粛々と進んでいます。

成田国際空港北伸滑走路に係る飛行場変更許可について

http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/12/120911_2_.html

 これが完成すれば、B滑走路の運用制限は大きく緩和され、発着枠もそれなりに拡大される事になります。2010年頃には成田新高速鉄道も全線開通しますから、アクセス面での大きすぎるハンディキャップも多少は解消される事になります。
 こうなると、殆どの定期便発着需要は羽田空港や成田空港で賄えてしまう事になり、あくまでも「首都圏第3空港」でしかない横田空港は、航空会社にとって一種の「ハズレ」になってしまいます。勿論、政策的な誘導により一部の路線や航空会社を横田空港に振り向ける事は可能なのでしょうが、羽田空港や成田空港の発着枠が余っている状態で横田誘導政策を発動するとなれば、国内外の航空会社は勿論、IATAからの反発も免れないでしょう。横田空港を少なからず定期航空に供しようというのであれば、今から周到な準備が必要になるのです。



 と、気が付けば全然小ネタでも何でもなくなっていましたが、要は今更横田基地が軍民共用化されても航空会社はそんなに嬉しくないという事です。それよりも航空会社が東京都や国土交通省に望んでいる事は、1日も早い羽田空港や成田空港の発着枠拡大、更に言うならナリバンの完全殲滅による成田国際空港の全面完成なのです。石原慎太郎も、運輸大臣として成田空港問題をお座なりなままにした以上、東京都知事として徒に羽田再国際化や横田軍民共用化を訴える前に、先ずは既存空港をきちんと使える状態にすべきでしょう。
 もし、どうしても横田基地の軍民共用化に拘るのなら、あくまでもチャーター便や自家用機などの受け入れだけに限定し、その代わりにこれらオフライン航空需要に最大限応えられる環境を構築すべきです。私は2016年オリンピック招致活動そのものには反対ですが、もし本気で東京オリンピックを再び開催しようというのであれば、不定期航空の受け入れ態勢確立は東京の至上命題です。羽田空港も成田空港も何れは定期航空だけで発着枠が埋まってしまうのですから、横田空港こそオフラインの生地とすべきでしょう。

*1:1週間も待っていれば、MXTV自身がYouTubeにアップロードしてくれるはずです。

*2:それ故に、京浜急行京急蒲田駅の立体交差化を急いでいるのです。

*3:但し、北九州線11便分の内2便は早朝・深夜枠、関空線4便分は全てが関空特別枠ですから、純粋な羽田発着枠として持っているのは9便分のみですが。更に言うと、その内3便分は地方空港専用枠ですので、スターフライヤーが自由に使える羽田発着枠は6便分のみという事になります。