五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

スターフライヤーにブルーオーシャンはあるのか

 さて、今後JALANAフルボッコにされるであろう事がほぼ見えているスターフライヤー関空線ですが、ibstokyo.comさんが新ブログでこんな記事を掲載しています。

○創生・新しい日本 航空会社の過当競争への対応策

http://newjapan.blog33.fc2.com/blog-entry-6.html

 東京=大阪は世界でも有数の移動需要を抱える区間であり、東海道新幹線だけでなく航空機や高速バスなど各種交通機関が鎬を削っています。しかし、輸送人員のシェアで見れば東海道新幹線の一人勝ちといった状態で、その他交通機関は何れも苦戦を強いられています。特に、航空会社にとって東京=大阪は正にレッドオーシャンそのものであり、諸外国から見れば「何でこの国の航空会社はこんな短距離路線に心血を注いでいるのだろう?」と奇異の目で見られるような状態です。
 そんな中、レッドオーシャンの中でも特にイールドの低い羽田=関空線は、航空会社にとって正にサバイバルレースです。JALANAに次いでスカイマークが就航したかと思えば、ロードファクターが20%にも満たないという惨敗になり、這々の体で撤退へと追い込まれました。そして、スターフライヤー国土交通省の羽田発着枠プレゼントキャンペーンに乗じて羽田=関空線に参入してみたものの、頼みの綱であるANAが一向にコードシェア開始の意向を示してくれない為、採算度外視の就航記念運賃を継続販売せざるを得ない状況に追い込まれています。
 燃油価格急騰や温室ガス規制などで短距離航空路線の維持が難しくなっている今日、何故多くの航空会社が東京=大阪に集っているのか、そして、スターフライヤーがその真価を発揮できるブルーオーシャンは存在するのか、改めて検討してみます。



 先ず、JALANAが東京=大阪線の維持拡大に躍起になっている理由ですが、これは単にビジネス需要の確保というだけでなく、国内線・国際線ネットワーク全体でのシェア争いに東京=大阪線での戦果が大きく影響するからです。噛み砕いて言うならば、東京=大阪線で上客を確保しておけば、その上客が他路線利用時にも自社に搭乗してくれるという目論見があればこそ、ある程度採算を度外視した運賃・便数戦略に踏み切れるのです。
 ビジネス需要の多い成田発着の長距離国際線においては、「ビジネスクラスに3人も乗ってくれれば成田空港の着陸料を回収できてしまう」などと言われる事もあり、国際事情に左右されつつも手堅く利益を見込める状態です。そんな国際線での上客を確保する為には、FFPでの各種特典で上客を完全に取り込んでしまうのがセオリーなのですが、これは国内航空会社だけでなく海外航空会社にとっても同じ事です。割引運賃ベースで海外航空会社よりも割高感のある国内航空会社が上客を確保する為には、海外航空会社では参入できない路線、即ち国内ビジネス路線において国際線での上客候補を青田買いしてしまうのが、最も簡単なアプローチです。そして、日本において最もビジネスでの移動需要が大きいのが、東京=大阪なのです。
 本来なら、国際線運賃や機内サービス等で差別化を図り、国際線のコンテンツそのもので海外航空会社と渡り合うのが、国内航空会社としての正しい姿です。しかし、公租公課の高く付く日本の国際空港をベースとしているJALANAは、抑も高コスト自体を当然とする風潮に甘んじてきた事もあり、とても同コストで海外航空会社と同程度のサービスを提供できる状態にありません。だからこそ、国内線でマイルや上級会員資格をバラ撒き、上客の感覚を麻痺させておく必要があるのです。
 たくぼん総帥が「JALANAも終身会員を甘やかしすぎ!」と怒っていますが、これも上記の事情によるものです。一般に、企業内・団体内での地位が高くなればなるほど、出張の機会は少なくなり、航空機への搭乗機会も減少します。しかし、こういう地位の高い人が国際線を利用する場合、大抵はエコノミークラスではなくビジネスクラスやファーストクラスを利用しますから、航空会社にとってはなかなか美味しい客です。それ故、「出世して余り出張しなくなった人が何時でも自社に戻ってこられるように」と、JALANAも終身上級会員制度を設けているのです。
 そんなJALANAが一番恐れているのは、東京=大阪を始めとする国内短中距離路線のビジネス需要が尽く新幹線に流れてしまう事です。上客の立場としては、国内線を利用する機会がない以上、国際線利用時の航空会社選択は、単純に国際線のサービス内容のみで決まる事になります。国内短中距離路線での上客争奪戦を新幹線にガラガラポンされてしまえば、国際線での上客争奪戦で海外航空会社の付け入る隙が大きくなり、JALANAも国際市場でフルボッコにされる事になるでしょう。
 逆に言えば、海外航空会社にとっては、JALANAよりも東海道新幹線を応援したくなる所です。東京=大阪での東海道新幹線の勝利が決定的になればなるほど、国際線でのJALANAとの競争条件がフラットになるからです。そういう観点からは、何故JR東海と提携する海外航空会社が出現しないのか不思議な所ではありますが、恐らくJR東海自身が他社の助けを無用としているからなのでしょう。海外航空会社と提携しなくたって、東海道新幹線は「走れば走るほど現金収入を生む打ち出の小槌」なんですからね。

 次に、スターフライヤーが今後生きていくべきブルーオーシャンについて考えてみます。JALANAレッドオーシャンにダイブする理由は上記の通りですが、逆に考えてみれば、東京=大阪以外にめぼしい路線を運航していない航空会社にとっては、この区間に参入するメリットは僅少なのです。東京=大阪線の薄利多売で大手航空会社や東海道新幹線から旅客需要を掠め取ったところで、その旅客に多大な利益を落としてもらえる機会が存在しないのであれば、東京=大阪の運航コストが無駄になるだけです。
 とあれば、スターフライヤーが国内線で出来る事は唯一つ、新幹線の競争力が及ばない中長距離路線において、独自のサービスで高イールドの運賃を売り込む事です。長年の歴史や習慣、伝統などにより、JALANAのサービスはかなり定型化しています。しかし、スターフライヤーは会社設立からまだ5年と経っていない新規航空会社なのですから、既存航空会社のサービスに倣う必要など全くありません。「一味違うホスピタリティ」というのは、正にブルーオーシャンの王道を行くコンセプトでさえあります。
 しかし、現実のスターフライヤーはというと、私自身の搭乗体験記でも書いた通り、コンセプトばかりが一人歩きして利用者利便は置いてけぼりになり、使い込めば使い込むほど「非常識」な粗ばかりが目に付いてしまう為体です。機内サービスについても、ワイダーピッチや個人用テレビ以外にはめぼしいサービスもなく、その個人用テレビですら、スターフライヤーよりも遙か以前にレインボーセブンが通ってきた道なのです。本革シートやタリーズコーヒーなどで表面的なサービスの差別化こそしているものの、その実態は既存航空会社のそれと大差なく、乗り慣れれば慣れるほどスターフライヤーを選ぶインセンティブに乏しい状態です。
 路線展開についても、東京一極集中が進む日本においては、国内線にしろ国際線にしろ、東京を発着しない事にはお話になりません。そして、雨後の竹の子の如く各地に空港が乱立していますが、航空会社の収益を確保するに十分なビジネス需要の存在する空港は限られていて、しかも既に他の航空会社によって路線が開設されてしまっています。新北九州空港は、そんな日本における数少ないブルーオーシャンとなるべき空港だったはずなのですが、スターフライヤーが実際に就航してみた結果は大赤字で、結局は他路線への就航によって口に糊しなければならない状態です。
 機内サービスでの差別化に失敗し、路線展開でも先が見えないとなれば、後は先行者に駆逐されるのを待つばかりです。実際、スカイネットアジアやAIR DO先行者に駆逐され、スカイマークですら瀕死の重傷を負わされています。スターフライヤーも、スカイネットアジアやAIR DOと同じ道を辿りつつありますが、1つだけ両社と異なるのは、当初からANAの傘下に潜り込む事を決め込んでいた事です。これにより、会社としての独自性には大幅な制約が加わる事になりますが、少なくともANAの傀儡として競争を回避する事は可能です。これも一種のブルーオーシャンなのかも知れませんが、これはブルーオーシャンというよりは25mプールとでも言うべきものであり、ANAが国際市場でフルボッコにされるとスターフライヤーも道連れになるという、非常に危険な状態です。
 スターフライヤーが自らのブルーオーシャンを開拓する為には、今一度「一味違うホスピタリティ」の原点に立ち返る必要があります。そして、その時には拠点空港や使用機材までリセットして、再度最適な経営環境の構築を図る必要があります。新規航空会社で唯一スカイマークのみが独立を維持しているのは、「第二の創業」によって機内サービスや路線展開を全面的に見直したからです。スターフライヤーも、真に独自性を維持しようとするのであれば、先ずは北九州空港からの拠点の移動から考えてみるべきでしょう。

 2010年秋には羽田空港の再拡張によって発着枠が大幅に増加し、翌2011年には東海道・山陽新幹線ののぞみが全てN700系に置き換わります。この時期に、太平洋ベルト内におけるJALANAの優位性が大きく揺らぐ一方、新規航空会社にとっては千載一遇のビジネスチャンスが訪れます。北九州線・関空線とも直接の影響を受けるスターフライヤーが何処までこの「2010年問題」を重要視しているのかは不明ですが、ANA傘下で生きるにしろ、或いは独立を図るにしろ、そろそろ具体的な準備行動を起こさないと間に合いません。ANAからの出資を機に、スターフライヤーは中期経営計画の立て直しを図るべきでしょう。