五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

見落とされがちなLCCの本質

 さて、私自身の趣味活動がどんどん低コスト化していく中、航空業界においてもローコストキャリア(LCC)と呼ばれる航空会社の存在が日増しに大きくなってきています。そんな中、日経ビジネスの最新号においてLCC特集が組まれていて、近所の本屋さんの眼鏡っ娘店員に釣られてつい購入してしまいました(ノ∀`)

○激安航空LCCが沈滞する日本を救う

http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20110113/217927/

 日本におけるLCCの報道を見るに付け、私は少なからず違和感を覚えてしまいます。それは、この記事のタイトルにもあるように、日本人は「LCC=格安航空会社」だと思い込んでいる所です。確かに、表面的な所だけを見れば、LCCは「低コスト・低サービス・低運賃」の格安な航空会社かも知れません。しかし、春日野さくらよろしく「ミヨウミマネデー」でLCCの真似事をしても、「安かろう悪かろう」であっという間に乗客から見放される事でしょう。何故なら、上っ面だけのLCCは、最早LCCではなくLQC*1でしかないからです。
 LCCLCCたる所以は、航空事業において必要なコスト・不要なコストの仕分けを徹底している所にあります。何でもかんでもコストを削ればいいというものではないのと同時に、何でもかんでもコストを掛ければいいというものでもありません。削るべきコストはきちんと削る一方で、掛けるべきコストはきちんと掛けています。そして、「何処にコストを掛けるべきなのか」をシビアに考え、徹底的に遂行しているのが、現在も生き残っているLCCなのです。



 例えば、機内食について考えてみましょう。スペースに余裕のある豪華客船とは異なり、航空機のギャレーにはどうしても空間上・設備上の制約が生じてしまいます。Airbus A380のファーストクラスにおいてすら、その調理スペースは日本中至る所にあるファミリーレストランのそれにも及ばない事でしょう。ましてや、B787ビジネスクラス以下ともなれば、実質的に「調理」なんて事は出来なくなり、空港近接のケータリング施設で事前に調理済みのものを再加熱するだけか、精々それを皿に盛り付ける程度が限界です。
 調理施設に限りがある状況で、どうすれば機内食を差別化できるかというと、食材や酒類を豪華にする事くらいしかありません。それなりに豪華な食材を使い、それなりに高価な酒類を提供すれば、なるほど「豪華な機内食」になるかも知れません。しかし、そこまで頑張った所で、とてもエコノミークラスとビジネスクラスとの運賃差額を満たす程にはなりませんし、そんじょそこいらのビストロに優るとも劣らないレベルの食事にもなりません。
 であれば、機内食にコストを掛けるよりは、座席そのものにコストを掛けた方が、余程顧客満足度を高める、そう考えるのがLCCのアプローチです。「食事は地上でも代替できるが、移動空間の中心である座席は代替が利かない」となれば、どちらに投資すべきかは自明です。LCCは、機内食に限らず全てのサービスにおいて代替性の有無を徹底的に吟味し、代替可能なコストは徹底的にカットしています。一方で、航空機の運航に欠くべからざるコストについては、きちんと投資がなされています。その中には、安全運航や定時運航に掛かるコストも当然に含まれていますが、ここまで手を付けてしまうと、行き着く先はバリュージェットです。

○バリュージェット航空 - Wikipedia

http://bit.ly/fD8icx(bit.lyによってURL圧縮済み)

 日本では、公租公課が高い事もあってか、どうも「事業コストの徹底的な仕分け」を始める前に、目に付くコストの乱暴な切り捨てばかりが横行しているように見受けられます。スカイマークにしてもスターフライヤーにしても、「レガシーキャリアより安全な航空会社である」というイメージは殆ど広がっていません。実際、これらの航空会社が安全上の指摘を受けた事もありますが、やはり「安かろう悪かろう」という先入観が日本の新規航空会社を襲っている部分が大です。それと同時に、「安かろう悪かろう」という先入観を打破するだけの画期的なサービスを日本の新規航空会社が提供できていないというのも、また事実なのです。
 ナチュラルボーンLCCである新幹線が全国に張り巡らされた今日、日本において真のLCCを成立させる事は非常に難しい事でしょう。しかし、日本は都市間移動需要自体が非常に大きい国なのですから、LCCがニッチからどんどん広がっていく事も、決して不可能ではありません。そして、その時に求められるのは、「乗客が真に求めているのはどんなサービスなのか」「乗客にとって真に必要なのはどんなサービスなのか」を絶えず仕分けしていく能力なのです。



 コストにシビアなLCCの成立は、一方で空港の活性化にも繋がります。何処の記事で読んだのか忘れてしまいましたが、地方空港へのLCCの就航について、こんな指摘がありました。

航空会社は運賃を安く上げられるLCCを利用する一方で、機内へ持ち込む空弁では「プチ贅沢」でちょっと高価なものを購入する旅客が増えている。

 レガシーキャリアLCCとの運賃差はかなりのものがありますが、豪華な空弁なんてのは精々2,000円もしません。LCCが普及すれば、それによって旅費にも余裕が生じる為、空港や観光地などで消費可能な金額が増える事になります。そして、空港や観光施設等においてLCC利用者の消費マインドを上手く刺激する事が出来れば、観光消費の拡大に繋がる事になります。
 となると、LCCの大量誘致に成功した空港は、同時にLCC利用者の「プチ贅沢」を上手く煽る事により、非航空系収入の大幅増も見込める事になります。今のところ、日本でそこまで考えてLCCを誘致している空港は存在しませんが、成田・関空クラスの空港がLCCの誘致に動くのであれば、そこまでを見込んだ誘致活動を行うべきでしょう。「LCC専用ターミナルだから、テナントは最低限でいいや」という考え方ではなく、「テナントの売り上げだけでLCC専用ターミナルを運営し、LCCには無料で就航してもらう」くらいの考え方がちょうどいいのかも知れません。

*1:Low Quality Carrierの略です。ブロハラ更新をサボりまくっていた所為で、全然普及していません。