五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

小田急特別ダイヤ狂想曲

 さて、新年度からやっと平時並みの運転本数に戻った小田急ですが、3月中旬から下旬に掛けては「特別ダイヤ」と称した間引き運転を行っていました。時刻表を追った限り、基本的には土休日ダイヤをトレースしていたものですが、特急ロマンスカーを運休して快速急行で穴埋めしたり、千代田線直通を中止して多摩急行を新宿発着に変更したりと、微妙に通勤客の流動を意識した「なんちゃって土休日ダイヤ」とも言うべきものでした。しかし、平日と土休日とで旅客流動が大きく異なる以上、その土休日ダイヤを無理矢理平日に適用したら、様々な歪みが生じてしまいます。
 今回は、そんな歪みの中で生じた悲喜交々を振り返り、そこで発生した「勝ち組」「負け組」について考えてみる事にしました。一応、主要な勝ち組・負け組としては、以下の通りです。

 これらの勝ち組や負け組には、「なんちゃって土休日ダイヤ」の歪みが直撃しています。それが良い方に転んだのが勝ち組であり、悪い方に転んだのが負け組なのです。


【勝ち組】

 勝ち組の筆頭は、何と言っても相模大野です。何せ、特急ロマンスカーが運休となった穴埋めとして、朝ラッシュ時に相模大野始発の快速急行が何本も設定されたのですから、平時の痛勤が特別ダイヤ期間中に限っては着席通勤になったのです。相模大野駅近辺の居住者にしてみれば、「どうせ計画停電の可能性は続くんだし、暫くこのダイヤで運転しろ」と言いたくもなるでしょう。
 同様に、町田や新百合ヶ丘といった快速急行の停車駅も、ある程度の恩恵に与っています。平時ならダラダラと成城学園前まで乗客を拾い続けていく急行が、特別ダイヤならいきなり下北沢までスキップできるのですから、鬱陶しい乗降の連続から暫くは解放されました。着席こそ叶わぬ夢ですが、それは平時においても同じ事なんですから、ここでガタガタ言う事でもないでしょう。
 一方、栗平唐木田といった多摩急行の停車駅においても、新宿へ向かう乗客に限っては、今回の特別ダイヤの恩恵に与る事となりました。平時なら新百合ヶ丘代々木上原での乗り換えが必要になる所、特別ダイヤなら乗り換えなしで、しかも着席して通勤する事が出来たのですから、平時より利便性は上です。但し、これらの駅は4月以降の特別ダイヤにおいて「多摩急行の昼間運休」という反動も直撃する事になった為、特別ダイヤのメリット・デメリットの両方を実感する事になるでしょう。
 なお、ここで挙げていない小田急永山小田急多摩センターの両駅についてですが、抑もこれらの駅から新宿へ向かうのに京王ではなく小田急を選んでいる時点で立派な負け組ですから、敢えて触れるまでもありません。そして、京王を選んでいたらいたで、やはり4月以降は橋本急行が相模原線内運休になってしまいますから、結局は小田急だろうと京王だろうと負け組という不景気なオチが付いてしまいました。平日の朝夕ラッシュ時を直撃しなかった事だけが、せめてもの救いでしょう。


【負け組】

 負け組の筆頭は、何と言っても向ヶ丘遊園です。何せ、平日なら最大で毎時20本の急行・準急が停車する所、特別ダイヤだと朝のラッシュ時に快速急行多摩急行の連続通過を見送らなければならないという仕打ちです。急行に乗り遅れてしまったら、次の急行まで10分以上待たされる事もありました。
 元々、快速急行多摩急行が設定された当初から、向ヶ丘遊園は負け組の筆頭として酷評を浴び続けてきました。向ヶ丘遊園モノレールは廃止されて久しく、JR南武線の快速運転も東日本大震災で事実上撤回されてしまっていますから、川崎市多摩区は「鉄道不毛地帯」とも言うべき状態になっています。
 一方、東林間や鶴間は、土休日ダイヤにおける接続の悪さの犠牲になりました。土休日ダイヤにおける江ノ島線上り各停から小田原線上り優等列車への接続は悪く、相模大野で10分以上待たされるのが常態になっています。更に、快速急行が停車しない各駅へ行く場合はもっと悲惨で、朝ラッシュ時に相模大野で15分待ちなんて事までありました。
 これは、夕ラッシュ時の下り方向においても同じ事であり、相模大野で10分以上待たされている間に次の急行が到着してしまうなんてのはよくある話です。東林間駅利用者の中には「江ノ島線各停を待っている間に歩いてしまった方が早く帰宅できる」なんて人も少なからずあり、そうした人は今回の特別ダイヤをかなり恨めしく思っていた事でしょう。



 3月の特別ダイヤは、勝ち組と負け組とをかなり鮮明に分けてしまいましたが、4月以降の特別ダイヤにおいても、やはり勝ち組・負け組は発生してしまいます。個人レベルでは「如何に勝ち組になるか」という事を模索するのも重要ですが、やはり鉄道事業者においては「如何に勝ち負けを均すか」という事を考えて欲しいものです。計画停電の影響が数年単位で鉄道事業者にも及ぶであろう事を考えれば、「より少ない運転本数でより多くの利用者を満足させる」という事は、今後の重要なテーマになるものと思われます。
 また、今回の間引きダイヤにより、居住地を選択する際には「都心へのアクセスの利便性」だけでなく「その土地自体の利便性」を考慮する必要がある事が、改めて周知されました。私自身、平時であれば武蔵小杉や押上の利便性を高く評価していましたが、両者とも計画停電による間引き運転の影響を強く受けていますから、有事における脆弱性という点では些かの不安を残す結果になりました。家探しをする時には、こうした有事のリスクというのも十分に考えなければならないというのは、今回の東日本大震災におけるいい教訓となった事でしょう。