五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

「つなげよう、日本。」に見るJR東日本の憂鬱

 さて、東日本大震災から2ヶ月が経過し、4月29日には東北新幹線が全線で運転を再開しました。JR東日本のテレビCMも、「全線運転再開」に差し替えられてから久しくなっています。

 とはいえ、流石に旅客需要は大幅に減っているのか、JR東日本はこんな施策を打ってきました。

JR東日本が震災復興に対する取り組み発表 - JR東日本パスの発売など

http://journal.mycom.co.jp/news/2011/05/11/040/

 恐らく、JR東日本の本音としては、被災者やボランティアだけを支援し、ビジネス客や観光客からは正規運賃を取りたかった所でしょう。しかし、今回発表された「やまびこ自由席片道きっぷ」も「JR東日本パス」も、被災者やボランティアだけではなく、誰でも利用する事ができます。制限しなかったのか制限できなかったのかは定かではありませんが、今回の企画乗車券が非限定発売になった所に、私はJR東日本の憂鬱を感じ取っています。



 被災者やボランティアに無償乗車券や割引乗車券を頒布・販売する事は、物理的には不可能ではありません。被災者については市町村で被災証明書や罹災証明書*1の交付を受ける事が出来ますし、ボランティアにしても県や市町村の災害ボランティアセンターに従事証明書の類を交付してもらえば済む話です。或いは、頒布・販売の窓口をこれらの市町村や災害ボランティアセンターに限定してしまう事により、被災者やボランティアにこうした震災復興企画乗車券が迅速に行き渡るようにする事も可能なのです。
 では、何故それをやらなかったのかというと、被災した自治体の事務を増やせないという事情もありますが、何より大きいのは鉄道の乗車券において本人確認が行われる事が滅多にないという事です。定期乗車券を除けば、鉄道の乗車券はその殆どが無記名式の乗車券です。記名式が原則であり、なおかつ搭乗時に必ずチェックインしなければならない航空機とは異なり、鉄道の場合は指定席であっても乗車券の持参人がポッと乗れてしまいます。当然ながら、鉄道には「乗客名簿」なんてものも存在しませんから、乗車券・特急券の持参者については、「その乗車券・特急券を正規の手続きで購入した」と見なさざるを得ないのです。震災復興企画乗車券の持参人について一々本人確認をしていたら、今度はJR東日本の車掌が音を上げてしまいます。
 となると、基本的には震災復興企画乗車券の持参人を信用せざるを得なくなります。そして、これが何を引き起こすのかと言えば、震災復興企画乗車券の転売の横行です。被災者やボランティアである事を詐称して震災復興企画乗車券を購入しようとする不届き者が出てくるであろう事は想像に難くありませんが、それと同じくらいに想像が容易なのは、本物の被災者やボランティア自身が金券ショップに震災復興企画乗車券を持ち込む事です。その結果、関東や東北の金券ショップでは、震災復興企画乗車券が店頭に溢れかえる事になるのです。
 こうした転売を規制する為には、コミックマーケットのサークルチケットと同程度の管理水準を以て譲渡・転売の取り締まりに当たるしかありません。しかし、現状においてもサークルチケットの転売やダミーサークルの横行が撲滅されていない事を考えれば、JR東日本に震災復興企画乗車券の譲渡・転売を規制するのはほぼ不可能と言っていいでしょう。ましてや、震災復興企画乗車券では「次回以降のサークル参加を認めない」という制裁措置が通用しませんから、JR東日本にとっては「売り損」になってしまうのです。
 被災者やボランティアを鉄道会社として支援したい、でも被災者やボランティア「だけ」を支援する事が物理的にできない、という事であれば、諦めて被災者やボランティア「も」支援するしかありません。「やまびこ自由席片道きっぷ」にしても「JR東日本パス」にしても、JR東日本にとっては大きな減収減益の原因となるでしょう。しかし、こんな時期に物見遊山で東北くんだりまで出掛けるバカな観光客もいないでしょうから、せめてロードファクターだけでも確保しながら、同時に「復興支援」というポーズも示そう、という事で、今回の一般向け販売となったのでしょう。
 「やまびこ自由席片道きっぷ」や「JR東日本パス」は、確かに被災者やボランティアにとっては役に立つ乗車券かも知れません。しかし、この乗車券を最も活用するであろう存在は、他ならぬ鉄ヲタです。「JR東日本パス」は1日のみ有効の乗車券ですから、観光する暇もなく乗り潰し遠征に使って終わりです。こうなった時、果たして本当に「復興支援」になるのか、些かの疑問が残ってしまいます。まぁ、結局は「地元が潤おうが潤うまいが、自分の売り上げさえ確保できればいい」という事なのでしょう。

*1:常用漢字の関係から、公的書類では「り災証明書」と記載されます。