五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

JAL機長遅刻騒動に見るリスクヘッジの限界

 正確には、JALではなくJALエクスプレスなのですが。

○ゴタゴタ続きの日航…道路渋滞で機長遅刻し2便欠航

http://www.sanspo.com/shakai/top/sha200604/sha2006040504.html

 このニュース、本当は昨日の内に書こうかなぁと思っていたのですが、何故か23時に就寝してしまった為、各方面のブログに先を越されてしまいました。しかし、待てば待ったなりにいい事はあるもので、今朝のやじうまプラスにおける勝谷誠彦大谷昭宏のアンポンタンな論評を聞く事が出来ました。

やじうまプラス

http://www.tv-asahi.co.jp/yajiplus/

 特に、かっちゃんのコメントは、視ている私の目が点になるくらいでした。

 これはねぇ、別にJALは悪くないんですよ。だって事故だもん、仕方がないじゃない。それよりも、あんな所に神戸空港を造るからいけないんです。渋滞1つで欠航になるし、すぐ近くの伊丹空港からは沢山飛んでいる。今回の欠航は、神戸空港の建設を認めた行政の責任です。
 でも、お客さんはみんな30分後のANAに乗れたんでしょ? だったら、JALANAのどっちかだけ飛んでりゃいいのに。こんな所にも、神戸空港の問題ってのが見えているんです。

 ( ゚д゚)ポカーン
 幾ら親愛なるセルジュ田中康夫が反対運動に心血を注いでいたとはいえ、JALの欠航1つでここまでボロクソに言われる神戸空港が不憫でなりません。でも、これが神戸空港でなかったら、勝谷誠彦大谷昭宏も確実にJALを非難していた事でしょうね。サンスポの記事にもあるように、この種の欠航は年に何回か発生しているのですから。



 さて、話を機長の遅刻に戻します。当初、私はこのニュースを聞いて「電車通勤なら遅刻なんかしなかったろうに」と思いました。しかし、私はこの考え方を10分で改める事になりました。何故なら、縦令電車通勤であっても、人身事故に巻き込まれてしまえば結果は同じだからです。たかが人身事故と侮るなかれ、グモ電車にビンゴしてしまった場合、電車の中で1時間以上軟禁されるケースはままあるのです。
 機長がタクシー通勤する事そのものの是非は別途検討する必要があるとして、今回のケースではタクシー通勤そのものを欠航の理由とする事には無理があるでしょう。だからといって、神戸空港にスタンバイ要員を配置していなかったJALを責められるかというと、これまた難しい問題があります。元々、神戸空港の発着便は決して多くなく、今回欠航した神戸=鹿児島線と同じB737-446が使用される便は、鹿児島線を含んでも3路線4往復しか存在しません。

  • 神戸=鹿児島:JEX機材のJAL便
    • 神戸→鹿児島
      1. JL3355 UKB 0800 → KOJ 0905
      2. JL3357 UKB 1710 → KOJ 1815
    • 鹿児島→神戸
      1. JL3354 KOJ 0945 → UKB 1055
      2. JL3356 KOJ 1850 → UKB 2000
  • 神戸=仙台:JEX便
    • 神戸→仙台
      1. JC3325 UKB 1130 → SDJ 1250
    • 仙台→神戸
      1. JC3326 SDJ 1505 → UKB 1635
  • 熊本線:JEX便
    • 神戸→熊本
      1. JC3345 UKB 1440 → KMJ 1545
    • 熊本→神戸
      1. JC3344 KMJ 1300 → UKB 1405

 上記8便は、以下の機材繰りで運航されています。

  • JL3355→JL3354→JC3325→(略)
  • (略)→JC3326→JL3357→JL3356
  • (略)→JC3344→JC3345→(略)

 この内、神戸空港でナイトステイするパターンは、JAL3356便の到着機材が翌日のJAL3355便になる1ケースのみですから、JALエクスプレスにおいては決して神戸空港は主要空港とは言えません。一応、この他にもJAL便で2機が神戸空港でナイトステイするパターンですが、両方ともJAL機材のB767-346ですから、このスタンバイ要員がいたとしても、JEX機材のB737-446に乗務する事は出来ないのです。
 結局、神戸空港が現状の機能を維持する限り、B737-446のスタンバイ要員を神戸空港に張り付けておく事は、JALエクスプレスの企業規模を考えても余り現実的ではないでしょう。逆に、1便しかないナイトステイ便の為だけにスタンバイ要員を確保しなければならないという事になれば、地方空港のナイトステイは軒並み絶滅してしまいます。勿論、スタンバイ要員の確保によるコスト増を丸々負担してくれる地方自治体が出てくれば話は別ですが、そんな事をしてくれそうなのは県知事がスッチーフェチの長野県くらいのものです。



 とはいえ、今回のケースを「仕方ない」の一言で片付けるのは、公共交通機関として剰りにも乱暴でしょう。自責にしろ他責にしろ、一般に社会人として遅刻は恥ずべきものであり、その遅刻によって多くの人に迷惑を掛けた事については、真摯に反省すべきです。特に、今回はディスパッチへの出頭時刻に対して余りマージンがなかったのですから、その事についてある程度の批判は甘受すべきです。
 では、出頭時刻に対してどの程度マージンを持っておけばいいのかという事ですが、元JAL客室乗務員の秀島一生氏は、「現役時代は出頭時刻の更に1時間前には出勤していた」との事です。

航空評論家 秀島一生のblog: 機長遅刻で「欠航」!神戸空港

http://hideshima-issei.air-nifty.com/blog/2006/04/post_2321.html

 秀島氏の記憶によると、JALにおける出頭時刻は以下の通り設定されていたそうです。

  • 基地空港(成田・羽田・大阪・福岡)
    • 国際線
      • B747:出発予定時刻の1時間45分前
      • B777B767:出発予定時刻の1時間30分前
    • 国内線
      • B747:出発予定時刻の1時間20分前
      • B777B767:出発予定時刻の1時間10分前
  • 基地外空港
    • 国際線:出発予定時刻の1時間15分から1時間30分前
    • 国内線:出発予定時刻の1時間前

 今回のJAL3355便であれば、秀島氏なら出発予定時刻の2時間前、つまり午前6時には神戸空港に出勤していた事になります。このくらいのマージンがあれば、万が一通勤経路上で事故に遭遇した場合でも、午前5時半くらいには会社に対して事故による遅刻の報告が出来ますから、伊丹空港に常駐している*1スタンバイ要員を神戸空港に派遣する事が出来ました。これならば、JALとしても何とか身動きが取れた可能性があるでしょう。流石に、予備機材を鹿児島空港に送り込むような事はしなかったでしょうけどね。



 因みに、伊丹空港のスタンバイ要員が5:30に神戸空港へ向けて出発した場合、駅すぱあとでの検索結果はこうなりました。

大阪国際空港→(5:32)/徒歩/(5:37)→大阪空港→5:38/大阪モノレール/5:41→蛍池→5:46/阪急宝塚本線/6:00→十三→6:13/阪急神戸本線通勤特急/6:37→三宮→徒歩→三宮→6:50/神戸新交通ポートアイランド線/7:08→神戸空港→(7:09)/徒歩/(7:14)→神戸空港

 やっぱり遅刻するんですねorz
 部分的にタクシーを利用したとしても、この時間帯は阪急神戸線の特急もJR神戸線の新快速や快速も本数が限られていますから、余りめぼしい結果にはなりません。とはいえ、15分程度の遅延であれば、その影響が丸1日残る事を覚悟した上で、何とか飛ばしきる事も不可能ではありません。JEXのB737-446であれば、ターンアラウンドタイムは最短30分で回せない事もありませんから、神戸→鹿児島→神戸→仙台と飛ばす内に、何とか遅延を吸収する事も可能でしょう。
 そう考えると、タクシーなら最速で50分程度で到着するであろう事を考えても、6時に社宅を出発したという機長の判断は、些か甘かったと言うべきです。勿論、この機長は出勤前に交通情報をきちんと確認していた事でしょうし、もし渋滞による遅刻の可能性が予見可能であれば、阪急やJRなどの代替交通機関で早めに出勤していた事でしょう。或いは、突発的な渋滞に遭遇した場合であっても、高速道路を降りて電車に乗り換える事が可能であれば、当然そのようにしていた事でしょう。高速道路の上で身動きが取れなくなり、二進も三進も行かなくなったというのが、今回の「敗因」でしょうね。
 もう1つ、今回の遅延については、神戸空港における経験不足という要因も考える必要があるでしょう。私が思うに、この機長は昨日だけたまたま寝坊して6時に社宅を出発したのではなく、JEX機長の共通経験として「6時に社宅を出ればJAL3355便の出頭時刻に間に合う」という認識があったのではないでしょうか。これが、伊丹空港や成田空港であれば、渋滞による遅刻例やその回避策といったものが、乗務員の間でも経験論として共有されていたのでしょうが、如何せん神戸空港は開港から1ヶ月半ですから、まだまだこの種の経験論は蓄積が不足しています。今回の欠航は、当該便の乗客や乗員にとっては迷惑だった事でしょうが、JEX機長においては、神戸空港出勤時の貴重なケーススタディになった事でしょう。
 人間が人間である以上、決してミスそのものを根絶する事は出来ません。しかし、ミスの情報を共有し、それを繰り返さないような工夫をする事は出来ます。今回のミスを「生きた経験」に出来るか否かで、JALの企業力が問われる事になるのです。

*1:関西空港にもスタンバイ要員そのものは常駐している事でしょうが、恐らくB737-446のスタンバイ要員はいないでしょうね。