五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

車内での携帯電話オフに異議あり

 優先席絡みで、もう1つ繋いでおきます。
 関東・関西のJRや大手私鉄の殆どにおいては、優先席付近での携帯電話オフがルール化されています。但し、航空法で明確に罰則が規定されている航空機とは異なり、縦令優先席付近で携帯電話を利用したとて、その事自体が法令に違反するのでもなければ、検挙しようにも罰則はありません。それ故、航空機内での携帯電話オフほど遵守されていないのが実情で、実際に優先席で普通に携帯電話を利用している乗客は数多くいます。
 しかし、優先席付近という運用にしろ、或いは阪急電鉄のように号車指定という運用にしろ、果たして携帯電話オフに実効性はあるのでしょうか。私は、携帯電話オフというルールには意味があるとは思えません。医療用電子機器の誤作動防止というお題目を唱えるのであれば、携帯電話オフだけでは不十分すぎるからです。
 少し前のIT Proの記事に、こんなものがありました。

○携帯マナー向上に“見切り”をつけた名古屋の試みで考える

http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/OPINION/20040825/149026/

 ここで言う「名古屋の試み」とは、この事です。

○地下鉄ホームをわざと“圏外”に,名古屋市が電磁波対策

http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/NCC/NEWS/20040824/148932/

 今から凡そ1年前の話ですが、何故かW-CDMA方式の携帯電話だけは使用が「黙認」された事から、その当時は「名古屋市交通局はNTTドコモから賄賂を受け取っているのではないか」と噂されたものです。今でこそ、FOMAVodafone 3Gもかなり一般的になってきていますが、当時のFOMAは普及率が低く、電磁波規制を奇貨としてFOMAへの移行を誘導しようとしたという陰謀論にもそこそこ説得力があったのです。
 この時、名古屋市交通局が圏外化の根拠として持ち出してきたのは、携帯電話及びペースメーカーの実機による実験結果でした。

○実機による誤動作が起きた距離の最大値

通信方式 最大干渉距離
W-CDMA 1.0cm
cdmaOne 1.8cm
PDC(1.5GHz帯) 4cm
PDC(800MHz帯) 11.5cm

 これに安全係数のルート2を掛けたところ、名古屋市交通局の考える安全基準である「2cm以内」を満たすのはW-CDMA方式だけだったという事です。まぁ、「そのルート2という安全係数は何処から出てきたんだ」とか「CDMA 1xはきちんと調べたのか」とか、色々とツッコミポイントはあるのですが、本当に注目すべきは携帯電話ではありません。
 言うまでもなく、電車はモーターで動きます。それは、新京阪電鉄が誇る希代の名車であるP-6(デイ100形)であっても小田急電鉄の大人気なさ丸出しロマンスカーVSE(50000形)であっても同じ事です。そして、モーターで動く以上、モーターそのものからも架線或いは第三軌条からも電磁波が発生するという事です。鉄道関係者は、携帯電話の規制に囚われる剰り、電車というシステムが抱えている構造的な限界に盲目となっているのではないでしょうか。
 最近の電車であれば、比較的出力の小さいE231系でもモーター出力は95kW、最高速度300km/hで営業運転する500系新幹線電車に至ってはモーター出力が285kWにもなります。こんなモーターをフルノッチで動かせば、携帯電話の出力などお話にならないくらいの電磁波が発生する事でしょう。VVVFモーターの方式がGTOサイリスタからIGBTインバーターに移行した事によって、電磁波の発生は幾らか抑えられている事でしょうが、それでもモーター直近での電磁波は相当なものになる危険性があります。
 そして、更に重要なのは、大抵の鉄道会社では、優先席を車端部に設置しているという事です。即ち、優先席はモーターの真上にあるという事です。本来、医療用電子機器への電磁波の影響を危惧するのであれば、その使用者については出来るだけモーターや集電装置から離れた場所、即ち車両中央部へと誘導すべきでしょう。しかし、実際の運用はというと、これら医療用電子機器の利用者は、優先席というものの存在によって、車両中央部どころか車端部へ車端部へと追い遣られています。ある程度鉄道に造詣の深い人間であれば、まだM車ではなくT車を選んで乗る事も出来るでしょうが、大抵の人はM車とT車との区別なんか付かないでしょうし、抑もM車だのT車だのを意識する事すら殆どないでしょう。
 もし、優先席での携帯電話オフを本気で推奨しようとする鉄道関係者がいるのであれば、その論拠としてモーターの医療用電子機器への無害性を立証すべきですし、それが出来ないのであれば優先席の設置箇所を根本的に見直すべきです。そして、誤動作防止を徹底しようとするのであれば、フランスのTGVやドイツのICEなどのように、編成両端に機関車を配置する動力集中方式への移行を推進すべきです。そこまで徹底した姿勢があってこそ、初めて乗客も携帯電話オフに協力するというものです。



 ところで、世の中にはこんな事を考えている人もいるようです。

○公共の場では携帯が自動電源オフする仕組みを〜CIAJ

http://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/0508/23/news052.html

 こんなもん、実現してもクラッカーの玩具になるだけですって。全く、情報通信ネットワーク産業協会も何を考えているんだか。罷り間違っても、電車にこんなものを取り付けないで欲しいものです。携帯電話オフによるメリットよりも、自分の意図しないうちに携帯電話オフになっている事によるデメリットの方が圧倒的に多いでしょう。今から、導入した時の社会的混乱が目に浮かびます。
 まぁ、強いてこのシステムを実験するのであれば、せめて電車ではなく航空機にして欲しいものです。取り敢えず、離着陸時だけ携帯電話の電源を切らせておけば、どうせ上空では圏外なんですし、携帯電話は既に無害化されている事でしょう。もし、名古屋市交通局の言う事が本当なのであれば。