さて、DAPユーザー以外にはなかなか浸透していない音楽配信サービスですが、その原因の一つに、音楽配信サービスで入手できる音楽ファイルのフォーマットがあります。P2Pと音楽配信サービスとを比較するに当たって、次に気を付けるべきは、流通している音楽ファイルのフォーマットです。そして、音楽配信サービスにおいては、コピー制限などの著作権保護機能にも注意しなければなりません。
P2Pの世界では、音楽ファイルのフォーマットはMP3でほぼ統一されています。この度サービスを停止したWinMXにおいても、或いは往時のNapsterにしても、音楽ファイルの標準フォーマットはMP3でしたし、音楽ファイルの流通もその殆どがMP3でした。当然、WinampやSoundAppなどのDTMクライアントはMP3に対応していますし、iPodやgigabeatなどのDAPもMP3に対応していますから、再生環境を選ぶ事もありません。P2Pで入手したMP3は、基本的にどんなプレーヤーでも聴く事が出来る*1のです。
一方、音楽配信サービスとなると、そのファイルフォーマットはてんでんバラバラで、互換性はほぼゼロです。メジャーな音楽配信サービスだけを見ても、
- iTunes Music Store
- ファイルフォーマット
- AAC
- コピー制限
- iPod:無制限
- PC:最大5台まで
- ファイルフォーマット
と、凡そ統一性がありません。こんな状態ですから、ネットワークウォークマンではiTunes Music Storeを利用する事が出来ず、逆にiPodではMoraを利用する事が出来ません。そして、ZenやiAUDIOなどのMP3プレーヤーでは、iTunes Music StoreもMoraも利用する事が出来ないのです。辛うじて、WMA配信に対応している@MUSICで、エイベックス系アーティストの音楽ファイルを入手できるだけです。
一度自社製品に飛び付いたユーザーを徹底的に囲い込むべく、マイクロジャックやメモリースティックなどの独自規格でユーザーを雁字搦めにするのは、ソニーの昔からのお家芸です。現在、AAC陣営とATRAC3陣営とは、それぞれがソニーのお家芸を真似してユーザーに不便を強いているようなものです。建前上、両陣営とも「著作権の保護」を謳っていますが、CCCDの時と同様、明らかに受益者よりも被害者の方が多くなっています。CCCDの時は、既に再生環境であるCDデッキが普及していましたが、音楽配信サービスでの規格乱立は、発展途上であるDAP市場を萎縮させる事にすらなりかねません。DAP市場が伸び悩みになった時、誰が一番困るのかを考えれば、分かり易い統一規格の確立は、音楽配信サービスにとっては必要不可欠でしょう。
因みに、インフォプラントの調査によると、音楽配信サービスの利用経験者の中では、継続的利用者よりも利用中断者の方が多いんだそうです。
○音楽ダウンロード配信の利用者は4割、有料販売利用は男性優勢
http://nikkeibp.jp/wcs/j/comp/395685
一度は音楽配信サービスに手を出してみたものの、結局は利用を中止してしまったという人の中には、こうした音楽ファイルフォーマットの分かり難さに嫌気が差した人も多いのではないでしょうか。
*1:一時期のネットワークウォークマンは、ソニー独自規格のATRAC3しか再生できませんでした。流石にユーザーからの批判が強かったのか、現行モデルのネットワークウォークマンは、MP3ファイルも再生可能です。
*2:バックアップCDを作成する事は可能ですが、そのまま再生する事が出来ません。