五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

スカイマークが残席連動型運賃を導入

 という事で、航空運賃に関するニュースを1点ほど。

○新運賃「スカイフレックス」が2008年10月ご搭乗分より新登場

http://www.skymark.co.jp/ja/company/press/press080829.html

 一見すると海外LCCの焼き直しに見えますが、そこはLCCではないLQC*1の事、こんな腰砕けです。

  • 最低運賃が7,800円と、そんなに安くない。
  • 金曜日・土曜日・日曜日や祝日には設定がない。
  • 観光路線で需要の弾力性が高い羽田=那覇線には設定がない。

 と、換骨奪胎も甚だしい状態です。しかも、スカイフレックス設定表を見ると、最低運賃の7,800円が適用されるのは48日前で7席以下しか販売できていない場合のみと、滅多にこの運賃の適用を受けられる事はありません。それでも、運賃設定基準が公開されているだけまだマシとも言えますが、こんなにインパクトの薄い運賃を出すくらいなら、まだスカイバーゲンを継続販売した方がマシというものです。



 取り敢えず、今回の運賃設定では、JALANAの対抗値下げに対応しきれません。スカイフレックスの実勢運賃が1万円を超えるであろう事を考えれば、先得割引や旅割の曜日限定値下げでかなり近似した運賃にまで水準は下がりますし、実際に東京=札幌では11,400円なんて運賃も設定されています。限られた便・限られた曜日での値下げでは大手航空会社に対抗値下げを被せられるという事は、スカイマーク自身も創業時から身を以て知っているはずなのですが、ここへ来てまた自らフルボッコの道を選ぶとは、スカイマークの学習能力のなさも大したものです。
 やはり、スカイマークJALANAの対抗値下げを振り切りたいのなら、採るべき手段は唯一つ、普通運賃を就航当時の水準まで値下げする事です。スカイマーク創業当時に大手航空会社が対抗値下げできたのは、あくまでもそれが1日3往復限定だったからの話であり、これが毎日全便ともなれば、とてもJALANAも追随する事は出来ません。大手航空会社のイールドマネジメントは、羽田=福岡の座席単価が通年・全便で15,000円を下回る事を前提としていないからです。だからこそ、高需要な週末や連休、或いは盆暮れ正月には挙ってボッタクリ運賃を設定し、そこで年間の帳尻を合わせているのです。そこに13,800円という普通運賃をぶつけてやれば、JALANAも軽く吹っ飛びます。そのくらいの陽動作戦で運賃設定のイニシアチブをスカイマークが奪取しなければ、またぞろスカイマークが大手航空会社の狭間に埋もれるだけでしょう。
 それに、以前にも指摘した事ですが、残席連動型運賃の設定には、最低運賃と実勢運賃との差額による自縄自縛という問題があります。7,800円という運賃のインパクトばかりが利用者の印象に残ってしまい、実勢運賃になるであろう1万円台前半の運賃でさえ、利用者には割高に見えてしまうのです。これがライアンエアーよろしく「100円」なんてやってしまえば、その自縄自縛は更にキツくなり、少しでも運賃が上がれば利用者にそっぽを向かれてしまう事になります。日本では、こうした弾力的な運賃には特に不寛容ですから、割引運賃の設定には、十分な注意が必要なのです。
 燃油高騰や運航乗務員確保などで輸送コストが増大している現状、ユニットレベニュー確保の基礎である普通運賃を大幅に下げる事には、かなりの抵抗がある事でしょう。しかし、その抵抗に打ち勝ち、なおかつ運賃値下げによる収入減での赤字にも打ち勝つ事が出来なければ、羽田再拡張による大手航空会社の発着枠増で、いよいよスカイマークはその居場所を完全に失う事になります。同じ普通運賃で5年間は粘れば、利用者の間にも「スカイマーク=分かり易く低運賃」というイメージが定着します。その間には羽田再拡張も完成しますから、先ずは結果が直ぐに出なくても5年間は黙って赤字を埋めてくれるパトロンを探すべきでしょう。スカイマークが割引運賃で陽動作戦に出るのは、その後でも遅くはありません。

*1:Low Quality Carrierの略です。要するに、運賃は安くないのにサービスが低質な航空会社の事です。