五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

定額給付金を税充当に

 さて、その定額給付金とやらですが、どうやら衆議院で再可決される事になりそうです。

定額給付金の財源法案、4日成立 衆院で再可決へ

http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20090303AT3S0200X02032009.html

 既に、うちの市においても定額給付金担当が事務を開始しており、一応年度内の給付は可能な情勢です。個人的には、定額給付金なんかよりももっと有効な財源の使途があるような気がするのですが、あくまでも公務員は「全体の奉仕者」ですから、国全体・市全体が「やる」と決めた事について、異議を挟む事は出来ません。定額給付金給付事業は、国民の代表である国会において決定された事であり、その決定は「国民全体の意志」として尊重されるべきです。
 とはいえ、これを全ての受給権者にそのまま給付していいかとなると、徴税吏員として些かの疑問は残ります。三位一体の改革と共に「地方公共団体の自主財源強化」というのはよく言われている事であり、その自主財源の基礎は地方税収入です。その収納率は、地方公共団体の財源確保に直結するものであり、適正な収納なくして適正な地方自治は実現し得ません。とあれば、地方自治を確保する為にも、地方税の未納は一刻も早く解消されるべきであり、収納率向上の手段として定額給付金を市町村税の未納分に充当する事は、定額給付金給付事業という「自治事務」の裁量として許容されるべきでしょう。



 当初予定の定額減税が定額給付金へと変更された理由については、今年のエコノミクス甲子園全国大会においても出題*1されています。低所得者層においては、定額減税しようにも課税対象所得そのものがゼロである事が多く、定額減税の恩恵を一切受けられません。一方、定額給付金であれば、住民税非課税である低所得者層も一般所得者層と同額の恩恵を受ける事が出来る為、より多くの経済効果を齎す事が出来るのです。
 市町村が課税する税目としては、主に以下のようなものがあります。

 これらは何れも、一定以上の所得や資産を有する住民に対してしか課税されません。前年の所得に対して課税される市町村民税は言わずもがな、固定資産税や軽自動車税も、課税の対象となる固定資産や軽自動車を所有していなければ、当然ながら課税も発生しません。国民健康保険税については、応益割として均等割や平等割*2が課税されますが、真に生活が困窮しているのであれば、生活保護受給世帯として国民健康保険の適用除外となりますから、逆に言えば国民健康保険加入世帯は生活保護を受ける程には生活が困窮していないであるという事であり、一定の生活力を有すると見なして差し支えありません。
 とあれば、これらの税目について未納がある場合、定額給付金を滞納税額に充当する事は、納税義務者の負担能力を鑑みるに、決して定額給付金の本旨に悖る所ではないでしょう。勿論、定額給付金の税充当を強制する法的な根拠はありませんから、あくまでも収納担当部署(一般には納税課)での納税指導に基づく「自主的な受領委任」という形を採る事になるのですが、抑も定額給付金は受給権者が市町村に給付を申請しなければ受給できないのですから、その給付申請を納税相談の機会にする事は、一般的な市町村であれば何処でも思い付く事です。寧ろ、市町村の財政力を維持向上させる為にも、こうした納税相談や税充当は、国が積極的に推奨・支援すべき事でしょう。



 ここで、定額給付金の税充当が主に話題となるのは、国民健康保険税の未納についてでしょう。というのも、基準所得以下ならば非課税となる市町村民税とは異なり、国民健康保険税は加入している限り応益割が必ず課税されるからです。そして、所得格差の問題は非正規雇用の問題と密接に関連しており、収入が不安定な非正規労働者社会保険の網からも漏れている事がままあるからです。
 その国民健康保険税ですが、納税義務者は原則として住民票上の世帯主*3となります。これは、定額給付金を充当するに当たって、実に便利な法制度です。というのも、定額給付金の申請・受給者も給付対象者の属する世帯の世帯主となっているからです。

定額給付金給付事業の概要

http://www.soumu.go.jp/teigakukyufu/pdf/090129_1.pdf

 これは即ち、世帯主自身が他の健康保険に加入していようが、或いは世帯主が後期高齢者医療制度の対象となっていようが、全く問題なく定額給付金の全額を税充当する事が可能であるという事です。他の税目であれば、必ずしも世帯主と納税義務者とは一致しませんから、世帯主ではない納税義務者に未納があった場合でも、定額給付金を税充当するには運用上の問題が付きまといます。しかし、国民健康保険税に限っては、日本人世帯である限り世帯主と納税義務者とは必ず一致しますから、定額給付金を税充当する事が実務上容易なのです。
 また、市町村の運用にもよりますが、定額給付金国民健康保険税の滞納額に充当する事により、国民健康保険資格証明書の交付世帯から除外し、短期被保険者証の交付が可能となる事もあります。乳幼児や義務教育就学児の被保険者に対しては、平成21年4月1日以降、資格証明書の交付が国民健康保険法によって禁止される事になりますが、定額給付金の税充当が実現するのであれば、国民健康保険法の改正を待つ事なく、運用によって資格証明書から短期被保険者証へと切り替える事が可能になるのです。特に、未成年の被保険者が属する世帯にも資格証明書を多く交付している市町村においては、今回の定額給付金は、法改正によって資格証明書の交付制限対象となる世帯を一掃する千載一遇の機会となる事でしょう。



 なお、国民健康保険税と同じく世帯主が世帯員全員分の連帯納付義務を負うものとして、国民年金保険料が挙げられます。しかし、地方税方式を採っている市町村においては、国民年金保険料を差し措いて国民健康保険税の滞納額に充当する事が可能です。何故なら、税債権は他の全ての債権に優先するからです。
 これが、東京23区(特別区)や政令指定都市においてありがちな保険料方式を採っている市町村だと、国民年金保険料との競合が問題になります。国民健康保険法に基づく「保険料」であれば、その保険料債権は国の保険料債権である国民年金保険料と同順位であり、ともすれば、国の保険料債権である国民年金保険料が市町村の保険料債権である国民健康保険料に優越する事すら考えられます。とはいえ、国民年金保険料未納者に対する国民健康保険短期被保険者証の交付に踏み切った市町村がゼロだった事を考えれば、社会保険庁が各市町村に乗り込んでこない限り、国民年金保険料に定額給付金を横取りされる事はなさそうですが。

*1:この時、銀行員による正誤判定に対して一部クイズ屋から疑義が呈されています。理由は、「非課税世帯に対する言及がない」「定額減税と定率減税とを間違えている」というものです。詳細は、他のエコ甲取り扱いブログで書かれている事でしょう。

*2:均等割は被保険者1名当たりに課税される税額、平等割は国民健康保険加入世帯1世帯当たりに課税される税額です。均等割は全ての市町村で課税されますが、平等割は採用している市町村と採用していない市町村とがあります。

*3:外国人が含まれる世帯の場合、必ずしも住民票上の世帯主が納税義務者になるとは限りません。しかし、この場合も「国民健康保険加入世帯としての世帯主」を定める事となり、その世帯主が被保険者全員分の納税義務を負う事になります。