五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

盗撮のボーダーライン

 久し振りに、普通のニュースを扱ってみます。

○盗撮容疑のさいたま市課長が依願退職

http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090515/crm0905152053019-n1.htm

 本件の被疑事実は埼玉県迷惑行為防止条例違反なのですが、その条文を追ってみても、「裸の女児を盗撮してはならない」という条文は見当たりません。強いて該当するなら、この辺りでしょうか。

(粗暴行為等の禁止)
第二条
4 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、他人に対し、身体に直接若しくは衣服の上から触れ、衣服で隠されている下着等を無断で撮影する等人を著しく羞(しゆう)恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。

 本来、河川敷などという公共の場所で全裸になる事自体が公然猥褻罪なのであって、それを撮影したからといって直ちに羞恥心を覚えさせる事にはならないでしょう。というか、小4女児に羞恥心があるのなら、最初から河原で全裸になんかならないでしょうから、本件の可罰性にすら疑問符が生じてしまいます。
 今回、本来なら微罪処分程度で済むはずの事件が全国区になってしまったのは、恐らく「ロリコン死すべし」という世間の「空気」が原因でしょう。私自身、本件については別に刑事処分などしなくていいと思っていますが、自分が同じ事をやったら間違いなく懲戒処分の対象になるだろうという感覚も同時にあります。こうした重々しい「空気」が、児童性愛者予備軍を児童性虐待者へと変えてしまう事もあるのですから、ペド事犯は慎重に取り扱うべきでしょう。



 それにしても、本件は「小学4年生の女児を」「デジタルカメラで盗撮した」という条件があってこそ、初めて立件し得るものでした。しかし、これらの条件が少しでも変わってしまえば、途端に判断が難しくなってしまいます。刑事処分が公務員の身分を直ちに奪いかねないものである以上、こうした微妙な事例についてもきちんと検討すべきでしょう。
 そこで、今回は本件の構成要件を少しずつシフトしてみた場合について、私の所感を述べてみます。

1.全裸で川遊びする小学4年生の女子を盗撮しないで視姦した

 所謂一つの「見てるだけ」って奴です。世間一般に決していい評価はされない事でしょうが、取り敢えず県条例の構成要件該当性はなくなりますから、当然にして刑事処分の対象にもならなくなります。しかも、盗撮でなければ物的証拠もありませんから、立件自体が非常に困難になります。
 まぁ、それでも「ロリコン死すべし」という「空気」は懲戒処分を求める事になるんでしょうが、その身分を問われる事になるのであれば、被疑者職員も人事委員会等をフル活用してくる事でしょう。民間企業等の従業員であれば、労働組合労働基準監督署等に持ち込まれるパターンです。公民問わず、こんな事で泥沼化しては雇用者側のイメージダウンにしかなりませんから、コソーリ手打ちで一件落着、となりそうですね。


2.全裸で川遊びする高校2年生の女子をデジタルカメラで盗撮した

 小学4年生だろうが高校2年生だろうが、法的には歴とした「児童」であり、児ポ法や青少年条例等での保護対象者でもあります。しかし、本件のような事例に当て嵌めてみると、小学4年生と高校2年生とでは、その受けるイメージに大きな差が出てきてしまいます。恐らく、高2女子が全裸で川遊びなんかしていようものなら、この女子の方が「少しは羞恥心を持ちなさい」と説教されてしまうくらいでしょう。
 こうなると、「ロリコン死すべし」という「空気」も、流石に懲戒処分を求める声をトーンダウンさせざるを得ません。小4女子に発情する男性を「変態」と罵る事にマジョリティの同意は得られても、高2女子に発情する男性を「変態」と罵る事にまでマジョリティが同意するとは限らないからです。実際に手を出すかどうかは別問題としても、ここまで来れば既に立派な「淫行認定のグレーゾーン」であり、18歳未満を一律に「児童」と定義して保護の対象とする児ポ法や青少年条例そのものの問題点が浮き彫りになってしまいます。逆に言えば、処罰感情がグレーになってしまうような法令は作るべきではないという事なんですけどね。


3.全裸で川遊びする小学4年生の男子をデジタルカメラで盗撮した

 児ポ法や青少年条例等においては、当然ながら女子だけではなく男子も保護の対象とされています。しかし、これまた本件においてはイメージをガラリと変えてしまう事になります。ある意味、「変態度」は女子の時よりも上がるのですが、処罰感情では寧ろ薄れてしまいます。しかも、小4男子が全裸で川遊びする事例など、小4女子が全裸で川遊びする事例よりも遥かに多く存在するのです。
 こうして見ると、如何に現在の児ポ法や青少年条例が「ロリコン死すべし」という「空気」に左右されているかがよく分かります。勿論、民主主義社会における法令は民意なしには成立し得ませんが、「空気」だけで人を犯罪者に仕立て上げてしまう事については、誰かが警鐘を鳴らさなければならないでしょう。実際、近代社会におけるファシズムは、こうした「空気」によって生まれてきたのですから。


4.全裸で川遊びする大学2年生の女子をデジタルカメラで盗撮した

 こうなると、最早迷惑防止条例だけの話となり、児童云々の話は雲散霧消してしまいます。当然ながら、「ロリコン死すべし」という空気も本件とは全く関係なく、「いい年して河原で全裸になる女が悪いのか、それともそれを盗撮する奴が悪いのか」という下らない二択になります。そして、結論としては「どっちもどっち」という事になり、刑事事件としては立件されない事になるのが常でしょう。
 更に言うなら、この場合は大2女子の方が公然猥褻罪に問われる可能性が出てきます。大2女子ともなれば、既に成人女性と同程度の刑事責任能力がある訳で、盗撮云々よりもこちらでの立件の方がより現実味を帯びてきます。まぁ、青姦もののAV撮影と同じで、こういう事件は刑事事件にしないで済ませるのが大人のマナーってもんです。


5.全裸で川遊びする草磲剛デジタルカメラで盗撮した

 どう見ても公然猥褻罪です本当に(ry
 ここまで来れば、盗撮する側も性的目的ではなく単なるミーハーっていうのが増えてくる事でしょうが、肖像権上の問題こそ発生しても、盗撮行為そのものが刑事処分の対象になる事はほぼないと言ってよいでしょう。要は、「全裸を撮って何が悪い!」って事ですね。



 こうして振り返ってみると、やはり今回の事例で懲戒処分にまで持って行くのは些か勇み足であるとしか考えられません。本件では、被疑者自身の依願退職という形で決着が付いてしまいましたが、個人的には両者がガチバトルした時の展開が気になって已みません。
 他にも、錯誤論との兼ね合いで「小4女子だと思って撮影したら大2だった」とか「大2女子だと思って撮影したら小4だった」なんて場合についても検討してみたいのですが、今回は時間がないので割愛します。しかし、何れにしても「雰囲気だけで人を犯罪者にしてしまう」という危険性を孕む事自体に変わりはありません。今年はこれから総選挙も控えている事ですし、今一度この「空気」について考えてみる必要があるでしょう。