五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

ANAが格安航空会社を設立へ

 ANA自身においては、こんなニュースもあります。

全日空が「第二ブランド」構想、格安航空会社設立へ

全日空、格安航空に意欲 別ブランドでの設立も

http://www.sankei.co.jp/news/060124/kei102.htm

 SNAとのコードシェア開始というニュースと見比べると、このニュースにも趣深いものが出てきます。というのも、両者のニュースを掛け合わせれば、ANA陣営の新規航空会社が統一ブランドでANAの別働隊になるという青写真が何となく見えてくるからです。



 抑も、ANAグループにはエアージャパン(AJX)やエアーネクスト(NXA)という戦略子会社がいますし、エアーニッポン(ANK)やエアーセントラル(CRF)といった子会社も、十分にANA別働隊であると言えます。これらの航空会社は、2004年4月からの「ANAグループブランド統一」方針により、何れもANA便名でされていますから、既にANAグループとしての死角は皆無といってよいのです。この点は、JALエクスプレス(JEX)や日本エアコミューター(JAC)に自社便名を付与できていないJALに対して、大きくアドバンテージを持っています。
 そんなANAが、敢えてローコストキャリアに新規参入しようとするのであれば、それはANAグループ航空会社と直接バッティングしない需要層、即ち、ANA陣営の新規航空会社の需要層をターゲットにしたものであるとしか考えられません。要するに、ANAが目を付けているのは、機内サービスやマイレージよりも運賃の安さを優先するような旅客なのです。そして、それらの旅客を取り込む為には、ANAグループの運賃体系を大幅に逸脱した運賃体系が必要なのです。
 スカイマークを例に出すまでもなく、新規航空会社は一概に「運賃の安さ」を宣伝するものです。何故かというと、ネットワークや便数、FFPといったサービス面では大手航空会社に勝てない以上、新規航空会社が売りに出来るのは精々運賃くらいだからです。要するに、新規航空会社は苦肉の策として格安運賃を宣伝しているのであって、決して運賃を格安にする事それ自体が目的ではないのです。また、乗客にとっても、新規航空会社が利便性やマイレージで大手航空会社に敵わないという事を理解しているからこそ、新規航空会社の存在意義を運賃の安さに求めるのです。スカイマークの「第二の創業」は、そうした新規航空会社のジレンマを誇張表現したものであるといってよいでしょう。
 斯くも不毛な新規航空会社の世界に、わざわざANAブランドを捨ててまで飛び込もうとするANAですが、その真意が何処にあるのかといえば、それは低イールド需要の第2ブランドへの押し付けです。つまり、儲かる旅客にはANA便でそれなりのサービスを、儲からない旅客には第2ブランドで必要最低限のサービスを、という「旅客の選別」が行われようとしているのです。従来は、イールドの多寡に関わらず、一律に「ANA便としてのサービス」を提供していたのですが、流石にそうした非効率が今後通用しないという事を、ANAは実感したのでしょう。そのトリガーになったのが、スカイマーク「第二の創業」なんでしょうね。

 さて、ANAによる低イールド需要の切り捨てですが、これには2つのパターンが考えられます。1つは、幹線における観光需要・団体需要を大々的に第2ブランドへと回すパターン、もう1つは、パイの小さな地方路線を路線ごと第2ブランドへと回す方法です。ANAとAIR DOとのコードシェアで言うなら、前者が東京=札幌、後者が東京=旭川といったところでしょう。
 前者のパターンを採る場合、同一路線においてANA便と第2ブランド便とが共存する事になります。こうなると、ANA便においては一定水準以下の割引運賃が廃止され、同時に包括旅行割引運賃や団体割引運賃の設定もなくなる事でしょう。これらの需要は全て第2ブランド便に回される事になり、その分だけANAは機材を小型化する事が出来るようになるのです。
 後者のパターンを採る場合、地方中小都市からはANAの翼が消える事になります。地方在住者にとっては、ANA便が第2ブランド便となる分、純粋にサービスの悪化なのですが、航空機が唯一の高速交通機関であるような地方においては、それでも第2ブランド便を使わざるを得ないのです。従来がANAのシングルトラック路線であれば、なおさらです。
 私は、どちらかというと後者のパターンになる可能性が大きいと見ています。というのも、ANAには過去に東京=青森線や東京=徳島線スカイマークに押し付けた前例がありますし、最近ではAIR DOに東京=女満別線を解説させるなど、ANA陣営の新規航空会社による路線展開も見られるからです。今回のSNAとのコードシェア開始も、地方路線の第2ブランド便への付け替えという文脈で捉えれば、ごく自然なものとなります。何れは、スターフライヤーもANAの第2ブランドの一員となる事でしょう。そうなった際の未来予想図は、かなり昔に詳しく検討しています。
 結局、ANA陣営の将来像というのは、

幹線・準幹線
B787-381・B737-381によるANA便
ルーラル線
B737-400/500・A320による第2ブランド便

 という事になり、ANAグループの機種削減と同時に、ANA本体の路線網も厳しい選択と集中とに晒される事になるのでしょう。そして、AIR DOやSNAは全て第2ブランド便を名乗るようになり、場合によってはAJXやNXAもそこに合流していくのでしょう。地方空港にとっては、ANA便を懸けたサバイバルレースの開始なのかも知れません。



 取り敢えず、私の推測が正しいかどうかは、4月以降にANAがSNAコードシェア路線の自社運航便を削減するかどうかで見極める事にします。もし、ANAが東京=宮崎・熊本・長崎といった路線を順次SNAにハンドオーバーするような事があれば、いよいよANAによるルーラル線の切り捨てが本格開始したと見てよいでしょう。この文脈にスターフライヤーも乗っかってくるような事があれば、私の推測がほぼ的中したという事になりますね。
 あとは、大阪・名古屋を発着する路線の動向も気になります。こちらは東京発着路線以上に厳しいイールドでしょうから、ルーラル線切り捨てにおいては、ひょっとしたら東京以上の激震が走るかも知れません。AIR DOやSNA、スターフライヤーといったANA陣営の新規航空会社がこれらの都市に就航した際には、ある程度覚悟を決めておいた方がよいでしょう。でも、どうせ新北九州空港は「念願のセントレア便就航!」などと喜ぶんでしょうけどね。