五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

痛勤地獄を快適にしない3つの提案

 船瀬俊介氏は、ブロハラでは3回目の登場です。

○安全・安心を守る消費スタイル


第21回 実現間近に迫る近未来交通システム〜環境、エネルギー、事故、混雑もこれでOK〜

http://nikkeibp.jp/sj2005/column/d/21/

 今回は、東京での電車通勤を、米国の友人の言を借りて「悲惨な人生だ…」と評する所から始めて、慶應義塾大学環境情報学部の清水浩教授が提唱する近未来交通政策を紹介しています。

 清水浩教授は、吉田博一教授と並んで、電気自動車「エリーカ(Eliica)」の開発で有名ですから、ブロハラ読者の諸兄姉においては、その名前を聞いた事がある方も多い事でしょう。その清水教授は、交通社会がかかえる4つの大問題として、以下の項目を挙げています。

  1. 環境
  2. エネルギー
  3. 事故
  4. 混雑

 この「混雑」を承けて、船瀬氏は清水教授が提唱する「近未来鉄道のために必要なシステム」について、それが如何なるものであるかを紹介しています。当然、この文脈から来れば、ここで紹介されるシステムは「痛勤地獄」を解消するソリューションとなるべきなのですが、紹介されたシステムは以下の3つです。

  1. 4層の“ドア&パネル”を持つホーム構造
  2. バス・タクシーのような後払いの料金徴収
  3. 数駅を1カ所で集中管理する事による駅の無人

 全然解決してねえっ!(ノ ゚Д゚)ノ ==== ┻━┻
 ……と思ったら、もう1つ提案が紹介されていました。

 また、“痛勤ラッシュ”解決には「スカイレール」と呼ばれる重複線化を提案する。
 現状の線路の上に、もう1つ線路を建設する方法だ。首都圏では複線化ではkm当たり土地代が150億円、地下鉄の建設費は高架の10倍もかかる。だから低コストで済む解決策として「スカイレール」は注目に値する。時速150kmの高速専用レールとすることでラッシュは相当に緩和されるはずだ。

 全然低コストじゃねえっ!(ノ ゚Д゚)ノ ==== ┻━┻
 唯でさえ線路際まで住宅の密集が進んでいる首都圏において、「スカイレール」という名の直上高架に踏み切ろうものなら、セタバンの指導の許、首都圏全域で行政訴訟が勃発する事は、日の目を見るより明らか*1(←(C)殿下さま)でしょう。ましてや、そこに150km/hでの高速運転なんて加われば、今度は騒音公害でプロ市民が全国から集結してきます。物理的な建設費だけでもかなり高価かつ工事が長期化する事は想像に難くありませんが、それ以上に訴訟対策で大幅に事業の進捗が遅れる事になりそうです。象牙の塔で妄想するのは勝手ですが、それを表に出す以上、少しは実現性というものを考えて欲しいものです。



 序でに言うと、船瀬氏が提唱する「先進的な欧米の実践例を見習おう!」という考え方は、殊日本の「痛勤地獄」を解決する上では、殆ど役に立ちません。鉄道での通勤環境という点においては、日本は決して先進国などではなく、寧ろ東南アジアの発展途上国にも劣るというのが実状です。強いて日本の鉄道に先進性を見出すのであれば、それは世界に比類なきその定時性でしょう。たかが5分や10分程度遅れたくらいで喧々囂々となる国など、世界中を探しても日本くらいのものです。
 東京一極集中という日本の経済構造が変わらない限り、首都圏での「痛勤地獄」が根本的に解消される事はありません。しかし、東京一極集中そのものを改めるには、首都機能移転或いは遷都といった非常に大規模な公共事業が必要になり、その為の費用も莫大になります。福祉予算でアップアップの日本には、「痛勤地獄」も東京一極集中も解決する財政的余裕がありません。東京で生活する事を望む以上、決して「痛勤地獄」から無縁にはなり得ないのです。
 とはいえ、日本の鉄道が環境効率の優等生でいられるのは、この「痛勤地獄」があるからこその話であり、更に言うならば、通勤環境が劣悪になればなるほど、鉄道の環境効率は優秀になるのです。乗車定員の2倍から3倍もの乗客を詰め込んで、なお定員乗車時と同等のパフォーマンスを発揮するなど、粘着式鉄道以外には到底真似の出来ない芸当です。航空機や自動車での定員外乗車が論外であるのは勿論、路線バスや案内軌条式鉄道*2にしたって、過積載はゴムタイヤの損傷に繋がりますから、やはり限界というものがあります。その点、粘着式鉄道の通勤型車両は、着席客の2倍近い立席客を乗せておいてなお「定員です」と言い張るのですから、環境効率が良くなるのも当然です。そりゃあ、人キロ当たりの二酸化炭素排出量も乗用車の10分の1になる事でしょう。
 逆に言えば、鉄道の環境効率は詰め込み乗車を前提にしているという事であり、1両に20人乗るか乗らないかといった路線では、却って環境効率は路線バスよりも悪くなるのです。20m大型車の場合、一般的な通勤型車両の定員は150名から160名程度です。この定員乗車を持って人キロ当たりの二酸化炭素排出量を計算するのであれば、全座席が埋まる程度の50名乗車で路線バスとほぼ同じ環境効率となり、15名乗車程度では自家用車と環境効率が変わらない事になってしまいます。地方における非電化路線ともなれば、環境効率は更に悪くなりますから、路線バスや自家用車に対する優位性を確保する為のハードルは更に高くなるのです。
 そう考えると、縦令単行でも50名からの乗客をコンスタントに集められないようなルーラル線においては、教条主義的に鉄道を存続させようとするのではなく、路線バスの利便性を高めるなりデマンドタクシーを導入するなりといった鉄道に依存しない交通システムを構築する事も必要になってきます。日本の環境ブサヨクには鉄道至上主義が蔓延っているようですが、路線によっては、下手に存続させておいた方が却って環境的に非効率となるという事は銘記しておくべきでしょう。そういう意味で、西日本鉄道宮地岳線の部分廃止に踏み切ったのは、英断と言うべきでしょうね。

西鉄宮地岳線 一部区間西鉄新宮〜津屋崎間)の廃止について

西鉄宮地岳線廃止区間は新宮〜津屋崎…国交省に届け出方針

http://kyushu.yomiuri.co.jp/news/ne_06033004.htm

 船瀬氏が言う「先進的な欧米の実践例」には、路線バスによるパーク&ライドや自転車の路線バス積み込みなど、日本の鉄道事業法には掠りもしないようなものが幾つもあります。恐らく、日本の鉄道の半分以上は、必ずしも鉄道である事が環境効率上最善であるとは言えない状況に陥っている事でしょう。こうしたルーラル線を如何に整理縮小して行けるかが、日本が真に「交通先進国」と呼ばれるか否かを左右するのです。

*1:言うまでもありませんが、正しくは「火を見るよりも明らか」です。太陽を肉眼で見たら失明しますがなorz

*2:世間一般には「新交通システム」と呼ばれています。本来は、モノレールやリニアモーターカーなども新しい交通システムの一種なのですが、日本で「新交通システム」と言えば、ゆりかもめポートライナーなどのような案内軌条式鉄道を指す事が殆どです。