五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

着陸復行も命懸け

 接地後のタッチ・アンド・ゴーを着陸復行と呼んでいいのかどうか、私には分かりませんけどね。

○「説明なくタッチ・アンド・ゴー」乗客がJALを提訴

http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20050727i406.htm

 まぁ、この提訴は見事なまでにツッコミ三昧でして、私としても何処からツッコミを入れればいいのか、暫し思案してしまいます。取り敢えず、既出のツッコミとしては……
 「どうして着陸許可が出ていないという事を一乗客が知る事が出来るのか?」とか。

○妙な訴状? Cassiopeia Sweet Days/ウェブリブログ

http://nozomi.at.webry.info/200507/article_43.html

 「とっくに不法行為の損害賠償請求権が消滅時効に掛かっているだろうが」とか。

○最強コンビ!!:Touch and Go

http://blog.goo.ne.jp/kaotan_rika/e/8069d8c40963d9b96b537a8d451c43c7

 「で、請求の根拠は?」とか。

悪徳商法バスターズ: 「説明なくタッチ・アンド・ゴー」乗客がJALを提訴

http://akutoku.bz/index.php?UID=1122455729

 「実名を晒せ」とか。

○薄唇短舌: 暴走する弁護士

http://88th-night.tea-nifty.com/nekojita/2005/07/post_513f.html

 何だか、論点出尽くしてますね。取り敢えず、1つずつ見ていきましょうか。


1.どうして着陸許可が出ていないという事を一乗客が知る事が出来るのか?

 何処かから管制交信記録を入手したんでしょう(笑)。4年以上も前の交信記録を大韓民国政府建設交通部が保存しているとは思えませんし、JAL運航本部ともなればなおさらです。果たして、JAL広報部の言う通り、本当にタッチ・アンド・ゴーの記録が残っていないのかどうかは不明ですが、少なくともそういう情報を堅気の人間が手に入れる事は不可能です。原告の言う通り、管制指示違反の事実があったのであれば別ですが、単なるタッチ・アンド・ゴーともなれば、その記録を文書化する事など先ず考えられません。
 一応断っておきますと、タッチ・アンド・ゴーを含む着陸復行は、必ずしも管制許可が下りなかった場合のみとは限りません。正規の着陸許可が出ている場合であっても、着陸時の機長判断により着陸復行が実施されるケースは多々ありますし、視界不良時の計器進入では、一定高度において接地帯が視認できない場合は必ずゴーアラウンドしなければなりません。勿論、管制官の判断により、航空機に着陸復行を指示する事もあります。「タッチ・アンド・ゴー=管制指示違反」などと短絡して考えたら大間違いです。

2.とっくに不法行為の損害賠償請求権が消滅時効に掛かっているだろうが。

 民法第724条ですね。

不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)

第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

 で、本件提訴がこの条文に引っ掛かるかというと……

不法行為なの?
タッチ・アンド・ゴーによって精神的ショックを受けたんですから、見事にJALの不法行為です。
損害を知ったのは何時なの?
帰国直後に訴状を準備していたんですから、当然損害を知ったのはそれ以前でしょう。
加害者を知ったのは何時なの?
JAL以外の誰が加害者だと言うんでしょうか。仁川タワー? んなアホな。何れにしても、民事裁判権が及ぶのはJALだけですし、訴状の被告もJALです。当然、訴状作成時にはJALが加害者だと認識しているはずです。

 はい、見事にアウト。消滅時効で門前払い食らって下さい。
 それにしても、恐らく確信犯だとはいえ、消滅時効を圧してまでJALに警鐘を鳴らそうというその正義感には、長谷川平蔵もビックリです。それとも、単に民法第724条を知らないだけ? ……いやいや、曲がりなりにも弁護士センセイですから、それはないでしょうに。しかし、裁判を起こすのもタダではありませんし、JALへの警鐘で訴訟費用を出そうっていうんですから、見上げたものです。
 強いて消滅時効に掛からない理屈を挙げるなら、「昨今の度重なるJALの不祥事により、4年前のタッチ・アンド・ゴーの記憶が蘇り、改めて精神的ショックを受けた」といった所になるのでしょうが、こんな屁理屈が裁判所で通用するとは思えません。通用する可能性があるとすれば、裁判長が藤山雅行だった場合だけです。まぁ、その場合でも、JALに控訴されてしまえばハイ、ソレマデヨですが。

3.で、請求の根拠は?

 タッチ・アンド・ゴーで600万円ですか。3人で頭割りしても200万円。ティーダ買えますね……って、買わないか。
 それにしても、随分と吹っ掛けたものです。着陸復行なんてのは普通に行われ得るものですし、状況によっては機長や副操縦士による機内アナウンスが困難である事も考えられます。タッチ・アンド・ゴーそのものによって精神的ショックを受けたのか、タッチ・アンド・ゴーに対する説明がなかったから精神的ショックを受けたのか、それこそ「訴状を読んでいないのでコメントできない」のですが(笑)。
 こんな事で200万円も取られては、JALは堪ったものではありません。1人頭200万円という事なら、乗客が100名しかいなくても総額2億円、満席運航のB767-300国内線仕様(コンフィグ:A22)なら5億4000万円、罷り間違ってB747-100B/SUD国内線仕様*1(コンフィグ:R31)でタッチ・アンド・ゴーをやらかせば11億2600万円です。勿論、乗客の全員が全員JALを提訴するという事はなく、集団提訴した原告団に対してのみJALが和解金を支払う事になるんでしょうが、それにしたって億単位の和解金というのは大打撃です。
 もし、着陸復行で損害賠償請求が出来るのであれば、当然ながらRTO(離陸中断)を食らった乗客も損害賠償請求が出来る事になるでしょうから、2005年1月22日のJAL1036便(新千歳→羽田)の乗客もJALを集団提訴するでしょうね。

○JL1036便における管制指示違反の概要について

http://www.jal.co.jp/other/info2005_0310.html

 これこそ管制指示違反である事がハッキリしていますし、着陸機への追突の危険性という意味で精神的ショックも大きいでしょうから、1人頭200万円という金額にもある程度現実味が出てきます。当該便の乗客は201名でしたから、全員で約4億円ですね。このニュースを見て、JALへの提訴を思い付いた向きも、或いはいるかも知れません。

4.実名を晒せ。

 マスゴミの皆さん*2、晒さない方がいいかも知れませんよ。民法第724条で門前払いになる事を狙っての単なる売名行為かも知れませんから。まぁ、晒したら晒したで、今度は原告の弁護士から「プライバシーの侵害だ」とか「個人情報の目的外使用だ」とか難癖付けられそうですけどね。
 そんなこんなで、弁護士本人が名を明かす事は全然期待できません。匿名の蓑に隠れてJALを叩く事が目的なのでしょうし、報道上は匿名になるという事も計算の上でしょう。藤代裕之氏ではありませんが、「匿名なら何をやっても許されるのか」という気にもなってしまいます。まぁ、自ら実名やURLなど晒そうものなら、批判とも荒らしとも付かない猛反応が起こる事でしょう。小倉秀夫よろしく、この弁護士も「コメントスクラムだ!」とか言い出すかも知れませんね。個人的には、田代砲(以下略)。



 そんなこんなで、グダグダ書きながら結局新しい論点を提供できなかった私ですが、取り敢えず水戸地裁の皆さんには「今日もプロ市民の対応ご苦労様です」とだけ言っておきましょう。どんなイチャモンでも、正規な法的手続きをこなさなければ憲法違反になってしまいますからね。

*1:2004年6月までは、B747-400D(コンフィグ:R40)が定員568名(=スーパーシート×24名+普通席×544名)でJALの最多座席数機材でしたが、クラスJの導入(コンフィグ:R41)により定員が546名(=クラスJ×80名+普通席×466名)と減少した為、B747-100B/SUDが定員563名(=クラスJ×25名+普通席×538名)で再びJALの最多座席数機材になりました。クラシックジャンボは近々退役する為、旧スーパーシートをそのままクラスJとして運用しているんですね。

*2:とは言っても、インターネット上でニュースソースを拾えるのは読売新聞だけなんですけどね。JAL叩きが好きな朝日新聞なんか、如何にも乗ってきそうな感じだったのですが、見事にスルーしています。もう少し構ってあげなさいって(笑)。