五月原清隆のブログハラスメント

これからは、セクハラでもない。パワハラでもない。ブロハラです。

沖縄が独立した場合の航空業界を考える

 さて、昨日の大石先生のブログで、こんな記事がありました。

 それにしても、沖縄で独立運動が起こらないのはどうしてなんでしょうね。独立した上で安保条約を日米台と結べば、十分やっていけますよ。今以上に財政が豊かになり経済も活性化すると思いますけどね。日本にとっても、一定の安保条約が結ばれるのであれば、沖縄が独立することにたいした不利益は無い。沖縄県民が独立問題をタブー視している理由が解らない。このあと半世紀、ぶっちゃけ被害者面して日本政府にタカリ続けるよりは、同じ金額を貰うにしても、その方が遙かに誇りある生き方だと思う。

 そりゃあ、日本から独立しちゃったら補助金だけで県政を回せなくなるからと言ってしまえばそれまでの事ですが、今回は敢えて「沖縄が独立したらどういう事が起こるか」という事を、純粋に空ヲタ的視点から考えてみようと思います。
 なお、本文中では独立後の政権を暫定的に「琉球政府」と称しますが、当然ながらこれは米軍統治時代に存在した琉球政府と同義ではありません。その点は、予めご承知おき下さい。


1.JTAが沖縄のフラッグキャリアになる

 まぁ、これは論を待たない所でしょう。現在でも沖縄県JTAの主要株主ですが、独立後は更に琉球政府の影響力が強まり、場合によっては日本航空インターナショナルから株式を譲受して筆頭株主になる事さえ考えられます。但し、運航面や営業面でJALグループからいきなり完全独立する事は不可能でしょうから、当面はJALグループ傘下で運航・営業し、oneworldへの参加も現状通りになる事でしょう。
 当然ながら、日本から独立する以上、「日本トランスオーシャン航空」という社名・商号も変更が必要になります。旧社名の「南西航空」に変更してもいいのですが、これだけ米国サウスウエスト航空が世界的にメジャーになった以上、英語名のSouthwest Airlinesが重複する「南西航空」を採用するのは難しいでしょう。となると、幻に終わったレキオス航空の名前を採ってみるのも面白いかも知れません。
 何れにしても、JTAが現在以上に地位向上する以上、ANKの立場は現状よりも更に厳しいものに追い込まれます。しかも、こちらはJTAと違って沖縄県の資本が入っているのではありませんから、場合によっては沖縄独立と同時に那覇宮古・石垣からの撤退に追い込まれる可能性すらあります。この場合は、ドイチェBAのような現地法人を立てて先島路線の運航を継続する事になるのでしょう。


2.沖縄方面の路線が羽田発着から成田発着に移る

 当然ながら、独立後の沖縄と日本各地とを結ぶ航空路線は、国内線ではなく国際線の扱いになります。日本と琉球政府とがシェンゲン協定に近似した協定を制定しない限り、双方の行き来に当たってはCIQ*1と呼ばれる出入国の諸手続きが必要になります。現在、日本の地方空港はその大多数が使いもしない国際線ターミナルを持っていますが、高知空港*2奄美大島空港などについては、CIQ設備の新設を忌避して路線そのものが休廃止に追い込まれる危険性もあります。
 そして、国際線扱いになるという事は、即ち羽田空港から追放されるという事をも意味します。羽田空港の国際線発着枠が少ない中、歴史的経緯だけで沖縄発着路線だけを現状維持するような事があれば、支那や朝鮮は決して黙っていません。宮古線・石垣線や季節運航の久米島線も含め、沖縄方面の路線は挙って成田空港への移管を余儀なくされる事でしょう。CIQの所要時間が加わる事により、発着可能な時間帯も限られてきますから、1日当たりの便数も20年前の水準である7往復から10往復前後に落ち着くものと思われます。
 なお、これと同じ事は大阪でも発生する事が予想されますが、既に沖縄方面の路線は半数以上が関空発着ですから、東京ほど大きなインパクトにはなりません。但し、国際線扱いとなる事による需要萎縮効果は発生しますから、現在の伊丹・神戸発着便相当の需要が丸々減少する事は覚悟すべきでしょう。


3.ユナイテッド航空ノースウエスト航空が以遠権を行使して那覇線に参入する

 現在、成田発着のアジア路線には、本来アジアとは全く関係ないはずのユナイテッド航空ノースウエスト航空といった米国航空会社が参入しています。これは、以遠権と呼ばれる権利を行使したものであり、特に日本の航空会社からは常に批判の対象となっています。

○JALCARGO - 貨物豆知識 - 以遠権

http://www.jal.co.jp/jalcargo/shipping/mame/362.html

 東京=那覇線が国際線扱いとなれば、これら米国航空会社の以遠権行使を妨げるものは何もなくなりますから、成田=那覇ではJL/NH/UA/NWの4社*3が入り乱れる事になりそうです。当然、運賃体系も従来の国内線型から成田=ソウル・上海などと同様の国際線型に切り替わり、H.I.S.などで成田=那覇の格安航空券が売られるようになります。JALANAの2社寡占状態からは些かばかりボッタクリ運賃も改善される事でしょうが、代わりに燃油サーチャージが掛かってくるようになりますから、成田空港までのアクセス費用や旅客施設使用料の負担増を考えれば、今よりも航空運賃は高くなる事でしょう。


4.離島路線への乗り継ぎが再び別ターミナルビルになる

 現在の那覇空港国内線ターミナルビルは、1999年に従来の第1ターミナルビル(主に本土路線用)と第2ターミナルビル(離島路線用)とを統合して移転オープンしました。建物自体も非常に広くなりましたが、これによって那覇経由での離島路線への乗り継ぎが同一ターミナルビル内で出来るようになり、非常に便利になりました。一方、ターミナル統合から取り残された国際線ターミナルビルは、今でもボーディングブリッジすら設置されない放置プレイ状態で、利用者の不評を買い続けています。
 しかし、那覇空港の主要路線である東京線や大阪線、福岡線などが挙って国際線扱いになると、施設容量の都合上、現在の国内線ターミナルを新たに国際線ターミナルビルとして使わざるを得なくなります。こうなれば、宮古線や石垣線、久米島線などの「国内線」は、乗降経路を東京線などの「国際線」と完全に分離しなければならなくなり、現在のように本土路線と離島路線とが同居する事は出来なくなります。それでも、関西国際空港開港前の大阪国際空港のように、「南ピアを国際線、北ピアを国内線で使用」と分割できればまだマシなのですが、最低でも4社からの成田便が同時に乗り入れるであろう事を考えれば、たったの7つ*4しか搭乗口がない南ピアでは明らかに容量不足でしょう。
 となると、残る結論は「現在の国内線ターミナルビルを丸ごと国際線ターミナルビルに転換する」というものしかありません。そして、現在の国際線ターミナルビルを増改築して、新たに「国内線ターミナルビル」とする事になります。連絡通路さえ整備すれば、精々成田空港第2ターミナルビル程度の移動距離に落ち着くものとは思われますが、石垣・宮古久米島の主要3路線だけで年間利用者数が北九州空港並みの120万人になるという事を考えれば、最低でも現在の国際線ターミナルビルを新北九州空港旅客ターミナルビル程度の規模には拡張する必要があるという事です。これは、ターミナルビル会社にとっても決して安い出費ではないでしょう。



 以上を踏まえて考えるに、沖縄が独立すると、日本人に対する出入国審査が非常に緩やかなものになるであろう事を差し引いても、なお航空旅客にとって沖縄は従来よりも行きにくい土地になってしまいます。唯でさえ、価格競争でグアムやサイパンなどに後れを取り始めている中、沖縄独立によって「日本人」観光客を誘致しにくくなる事は、沖縄経済にとって確実にマイナスになるものと思われます。台湾や支那からの観光客が東京や大阪からの観光客を上回るような事がない限り、少なくとも沖縄県内の観光業界から「独立」の声が聞こえてくる事はないでしょう。
 逆に言えば、沖縄県の観光産業が現在の水準を確保できているのは、あくまでも沖縄が「国内」だからという事でもあります。国内線の航空運賃が少なからず上昇傾向にある現在、沖縄の観光業界が真っ先に動くべき事は、海外ビーチリゾートに対するサービス面での明確な差別化です。「安かろう悪かろう」の旧態依然なサービス水準では、縦令沖縄が日本国内のままだとしても、何れ海外ビーチリゾートとの顧客獲得競争に敗北するまでの事です。沖縄の観光業界が質的な絶対優位を確立した時、初めて国境線がハンディキャップからアドバンテージに変わるのです。

*1:Custom(税関)、Immigration(出入国管理)、Quarantine(検疫)の略です。

*2:一応、世間一般には「高知龍馬空港」なんて呼び名が使われているようですが。

*3:ここでは、敢えてスカイマーク(BC)・日本トランスオーシャン航空(NU)はカウントしていません。

*4:実際には、これに加えて沖止め用のバス搭乗口が存在します。